シアトル発 ラーメンブームに迫る 後編

アメリカのトレンド発信基地の1つ・シアトルには、日本のラーメン店が多く進出。おしゃれな料理として認知されている。後編では、従来のラーメン店とは違った新たな挑戦を試みる事例を紹介。

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Vol.110

これまでB級グルメ扱いだった料理をオシャレに楽しむのが、最近のアメリカのトレンド。特に、ニューヨークやロサンゼルスと並ぶ「トレンド発信基地」であるシアトルでは、日本のラーメン店が数多く進出。袋入りのインスタント麺のイメージを払拭し、ラーメンがオシャレな料理として認知されてきている。

前編では日本からシアトルに進出して「本場の味」を再現し、ラーメン店でありながら「高級感」を追求した店に注目した。後編では従来のラーメン店とはひと味違った新たなチャレンジを試みている事例を紹介する。日本を飛び出して「世界食」となりつつあるラーメンが、これからいったいどこに向かおうとしているのかを見てみよう。

アルコール類を充実させるのは、回転率を重視する日本のラーメン店にはあまりない発想だろう。「ヨロシク(YOROSHIKU)」では「梅干しサワー」(右、9ドル=約1,026円)といった和風カクテルも人気
「ヨロシク(YOROSHIKU)」のオーナー、小林圭輔さん(右)とヘッドシェフの本間弘一さん。他店と同じことをしていては差別化は図れない。店のコンセプトは「ラーメン+モダン居酒屋」だ
寿司をアレンジしてカリフォルニアロールを生み出したアメリカでは、日本人にはない発想で「新しいラーメン」が続々と作られている。「ベーコンラーメン」も世界の定番になるか?

見た目はオシャレなラウンジバーだが、居酒屋の手法を取り入れて客単価アップ!

2012年11月にオープンした「ヨロシク(YOROSHIKU)」は、シアトルのなかでもナチュラル志向な人が多い街として知られるフリーモントの近くに立地するラーメン店だ。

「スパイシー味噌ラーメン」はフリーレンジ(放し飼い)の鶏を約10時間煮込んだスープと、日本の味噌に20種以上の調味料や野菜を合わせて2週間熟成させた特製だれが味の決め手

札幌風の味噌ラーメンをピリ辛にアレンジした「スパイシー味噌ラーメン」(ディナー時13ドル=約1,482円)、鶏と魚のダブルスープであっさり味に仕上げた「醤油ラーメン」(同11ドル=1,254円)が特に売れ筋。アメリカで食のトレンドとなっているグルテンフリー対応として、すべてのラーメンは麺をしらたきに変更することができる。

そんな同店は、普通のラーメン店とは違って居酒屋として使われることが多いため、アルコール類とサイドメニューを豊富に用意している。カクテルはオリジナルメニュー9種類に加え、ベーシックなものであればリクエストに応じて提供。日本酒はグラスとボトルを合わせて20種類、焼酎も8種類。世界中の愛好家垂涎の的である埼玉・秩父の銘酒「イチローズモルト」2種類(シングルで40ドルと50ドル)など日本産ウイスキーの充実ぶりも申し分ない。

サイドメニューは枝豆や揚げ出し豆腐などの他店にありがちなメニューをあえて外し、自家製のドレッシングやたれを使った手仕込みの料理を豊富に用意。例えば、北海道などで親しまれているニンニク醤油の旨みがつまった鶏の唐揚げ「ざんぎ」(9ドル=約1,026円)、ケッパー代わりにシソとごまの入った和風だれをまぶしたアラスカ産天然ソッカイサーモンのカルパッチョ(12ドル=1,368円)などだ。

さらにユニークなのは、その日に仕入れる旬の魚介を使った季節料理の数々。寒い季節には「グリルしたアンコウの海鮮あんかけ」や、その日のおすすめ食材を用いた「ちゃんこ鍋」(時価)などを提供。魚のあらを煮込むスープが絶品の「フィッシャーマンラーメン」(13ドル=約1,368円)も、人気の限定品。そんな「本日のおすすめ」を目当てに足を運ぶ常連客もいる。

暗めの照明や壁に掛かったアート作品など、ラーメン店というよりはシックなラウンジバーを思わせる内装。一方で、「本日のおすすめ」や独特の一品料理でリピーターを増やし、充実のアルコール類で客単価を上げるという手法はむしろ居酒屋に近い。もちろん、ラーメンだけを注文する人もいるなか、夜の客単価は平均25ドル(約2,850円)となっている。

主な客層は、30代以上のカップルやグループなど、大人の「うまいもの好き」。日本風の「居酒屋で飲んだ後にシメで行くラーメン店」ではなく、「居酒屋風に飲めるラーメン店」という逆転の発想だ。

「サーモンのカルパッチョ」と、ホウレンソウよりも歯ごたえ豊かな「ケールの胡麻和え」(7ドル=約798円)。和洋折衷のレシピが、日本食に慣れた客に新鮮な驚きを与える
ラーメンが主菜となるオシャレなディナーに合わせて、ビールだけでなく、日本酒や焼酎も用意。世界で評価を高める日本産ウイスキーも8種類と充実の品ぞろえ
YOROSHIKU
1913 North 45th Street, Seattle, WA 98103
http://yoroshikuseattle.com/

日本へ逆輸入も? ラーメンがアメリカンなフュージョン料理に

再開発が進み、オシャレな街に生まれ変わろうとしているシアトル市キャピトルヒル。この地に2015年5月に移転し、リニューアルオープンしたのが「ブームヌードル(Boom Noodle)」だ。東京のポップ・カルチャーを意識した回転寿司店やラーメン店をブームに先駆けてオープンさせ、地元の人たちに「オシャレな日本食」を周知させたアメリカ人オーナーが経営。日本の伝統的な味ではなく、アメリカ文化との融合を図ったモダンなメニューを売りにしている。

スイカジュースを使ったさわやかな人気カクテル「カサイマルガリータ」(8ドル=約912円)と、酒のつまみにもぴったりな「ラーメンベーコンバーガー」

なかでも特に斬新なのが「ベーコンラーメン」(12ドル=約1,368円)だろう。チャーシューの代わりにカリカリの自家製ベーコンがふんだんに入り、紅ショウガが味のアクセントになっている。ベーコンで出汁をとったしょうゆベースのスープは、こくがあってまろやか。さらに奇抜な発想といえるのが「ラーメンベーコンバーガー」(7ドル=約798円)だ。バンズがパンではなく、グリルして両面に焼き色を付けた麺という変わり種で、カリカリと香ばしいかた焼きそばのような食感。牛のパテとともにトロトロの厚切りベーコンの蒸し焼きが挟まれた、ボリューム満点の一品だ。

どちらも地元グルメフェスティバル出店時に賞を獲得。新しい味を求める若い男性からの注文が多く、ラーメンバーガーにはトンカツバージョンも登場している。かつてアメリカでもよく見られた、アジア系移民が見様見真似で作る「なんちゃってジャパニーズフード」とは一線を画す、「新たな日本食」と呼べる完成度だ。

とはいえ、店一番の人気メニューは、オーソドックスな醤油ベースの「トウキョウラーメン」(12.5ドル=約1,425円)。肉厚のチャーシューが麺にもスープにも見事にマッチ。基本をしっかり押さえてこそオリジナルを生み出せるという定説が、この店にも当てはまる。奇抜さだけではトレンドは生み出せないのだ。

市内屈指のナイトスポットであるキャピトルヒルで、夕方にはハッピーアワーとしてお得なメニューも充実させているだけに、仕事帰りの人にも人気。カリフォルニアロールが日本の回転寿司店で人気になったように、「アメリカ生まれのラーメン」が逆輸入される日は近いのかもしれない。

夕方のお得な時間帯「ハッピーアワー」を導入。看板メニュー「トウキョウラーメン」は通常12.5ドル(約1,425円)を8ドル(約912円)と惜しげもなく値引き!
東京の風景写真が壁に飾られた和モダンな店内は広く開放的で、子連れや女子会での利用も多数。夜はグループ客の飲み会の場に
Boom Noodle
1121 East Pike Street, Seattle, WA 98122
http://www.boomnoodle.com/

取材・文/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約114円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。