中国・海南島発 薬食同源スイーツ 前編

中国のリゾート・海南島でトレンドなのが、和洋折衷ならぬ“中洋折衷”のスイーツ。そこには「薬食同源」(体によいものを食べて健康に暮らす)の考えが反映されている。前編では、漢方食材を使ったものを紹介する。

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Vol.111

外国からの観光客も多く、急速な発展をとげる中国最南端のリゾートアイランド・海南島では、食文化も次第に欧米化しつつある。それはスイーツも同様だが、単に欧米をそのまま真似ているわけではない。悠久の歴史を持つ中国の伝統的な素材を用いた、いわば「中洋折衷」のスイーツが今、トレンドになっているのだ。

その「中」と「洋」を折衷する際のキーワードとして挙げられるのが「薬食同源」。日本の「医食同源」という言葉のもとにもなった「体によいものを食べることで健康的に暮らすことができる」という、いにしえからの教えだ。そうした「薬食同源」の考えを取り入れたスイーツの中から、前編では漢方薬に使う食材を用いたものを紹介する。

漢方薬にも利用される材料のいくつかはスーパーマーケットの食品売場などでも手に入るほど身近な存在。代表的なものは(写真左から)クコの実、ナツメ、蓮の実など
伝統中国医学に基づいた薬膳ゼリー「龟苓膏(グイリンガオ)」をはじめとする、市販の漢方薬ゼリー。左手前は蓮の実を加えた龟苓膏、右奥は仙草(センサオ)から作られたゼリーとフルーツ味の龟苓膏。奥の紙パックは涼粉と呼ばれる薬草のゼリー
パッと見は普通のパフェの「椰奶炒冰(イエナイビンシャー)」(19元=329円)。ココナツミルクシャーベットのほかナツメやクコの実、小豆、緑豆など漢方の素材を使用しており、人気が高い

老若男女あらゆる層に大人気!中国ならではの漢方素材入りパフェ

海南省の省都・海口市(かいこうし)にある骑楼老街(チーロウラオジエ)は、約100年前に建てられた歴史的建造物が連なる観光名所。その一角にある「椰语堂(イエユータン)」は、2012年オープンの南欧風な雰囲気のカフェ。現在、海南島内で8店舗を展開している。

アイスクリームと漢方食材が絶妙に融合した「雪球椰奶风味清补凉(シュエチョウ イエナイフォンウェイ チンブリャン)」。注ぎ足し用のココナツミルクが付いているのも嬉しい。

南国リゾートらしく、パフェなどの冷たいスイーツメニューも豊富。中でも人気の「雪球椰奶风味清补凉(シュエチョウ イエナイフォンウェイ チンブリャン)」(27元=約467円)は、アイスクリームとココナツミルクがベースの「中洋折衷パフェ」だ。トッピングもナツメ、クコの実など漢方にも使われる食材や、ハト麦、芋、緑豆、小豆、金時豆、タピオカ、ヤシの果肉など、体によい食材が盛りだくさん。それらがたっぷりココナツミルクの中に入っている。

豆や芋の食感、ナツメやクコの実の甘酸っぱさとしっとりとした口あたり、そして、まろやかなココナツミルクと濃厚なアイスクリームが醸し出す絶妙のハーモニー。冷え冷えなうえに栄養も十分なので、夏バテなどで食欲がないときに特におすすめだ。ココナツミルクの代わりに、ココナツの実の中の透明な天然ココナツ水をそのまま使うバージョンもある(20元=約346 円)。

そのほか、「桂花芒果卷(グイホア マンゴージュエン)」(23元=約398円)は、海南島の特産品であるマンゴーとたっぷりの生クリームを、サツマイモを原料に作ったクレープのような皮で包み込む。その上に桂花(グイホア)と呼ばれる木犀(モクセイ)の花がたっぷりと振りかけられている。桂花はせき止めや鎮痛、胃を温めたいときに用いられる漢方食材。完熟マンゴーの濃厚な甘みに、生クリームのやさしいまろやかさ、それらをしっとり包み込む皮、そこに桂花のさわやかな香りが絶妙なアクセントになっている。また「椰奶炒冰(イエナイビンシャー)」(19元=329円)は、パリパリしたコーンカップで包んだココナツミルクシャーベットと漢方素材のパフェだ。

ただ甘くておいしいだけではなく、体にもよい中洋折衷スイーツ。「薬食同源」の思想がいきわたる中国・海南島では、老若男女多くの人々に支持されている。

「桂花芒果卷(グイホア マンゴージュエン)」は、口に入れた瞬間にマンゴーと桂花の芳醇な香りに包まれる。さいの目に切ったドラゴンフルーツとスイカが彩りを添える
ナツメやクコの実に、卵、酒かす、お餅が入った甘酒風の温かいデザート「黎家山兰酒糟鸡蛋汤圆(リージャーシャンランジューザオジーダンタンユエン)」(26元=約450円)も人気スイーツの1つ
椰语堂(イエユータン)
海口市中山路50-2号骑楼步行一条街
http://www.hnyyt.cn/

アイスクリームやフルーツとも相性抜群の漢方薬ゼリー

海南島海口市の学生街・海甸岛(ハイディエンダオ)に位置する「香遇甜品(シャンユーティエンピン)」。軽食からスイーツまで扱うこの店も、「薬食同源」を取り入れたスイーツを提供している。

「雪山凉冰(シュエシャンリャンビン)」。ひんやりとして甘いアイスクリームと、ほろ苦い龟苓膏の組み合わせは、モノトーンの色合いも相まってまさに「大人のスイーツ」

看板メニューの1つは「雪山凉冰(シュエシャンリャンビン)」(20元=約346 円)。見た目はアイスクリームと普通のコーヒーゼリーだが、実はこのゼリー、「龟苓膏(グイリンガオ)」と呼ばれる中国で有名な薬膳デザートの1つで、日本では「亀ゼリー」として知られている。亀の腹の甲羅の粉末と茯苓(ブクリョウ)など様々な生薬を足して作られる煮こごりだ。漢方としても解毒、解熱、便秘などに効能がある。約1800年前の三国志の時代に生まれ、清朝時代は皇帝ご用達の薬膳だったという由緒正しい漢方食品だ。その微かな苦みやえぐみが、まろやかなアイスクリームと組み合わせることで、甘さ一辺倒ではない深さと幅と奥行きのある大人の上品な味わいに仕上げられている。

もう1つ、見た目がコーヒーゼリーにそっくりなものに「烧仙草(シャオセンサオ)」がある。夏バテ、高血圧や筋肉痛、関節痛の際に用いられる「仙草」という薬草が原材料のゼリーだ。「芝麻椰果绵绵冰(ジーマー イエゴウ メンメンビン)」(14元=約242円)は、ミルクと胡麻で作ったフワフワとした食感のかき氷に、この「烧仙草」をトッピング。烧仙草のやや燻したような独特の味わいとプルプルした舌触りが、濃厚な胡麻の風味や、シャキシャキなのにまろやかな口あたりのミルクかき氷と見事にマッチしている。

「香遇甜品」は学生街の中にある商店街という立地から、客層は学生から年配者まで様々。ただ、世代や洋の東西を問わず現代人に共通するのが、「健康的かつおいしいものを食べたい」という願い。カラダのことを考えた漢方とおいしい洋風スイーツの組み合わせは、海南島や中国のみならず、世界のトレンドとなる可能性を秘めている。

「芝麻椰果绵绵冰(ジーマー イエゴウ メンメンビン)」は、スイーツらしからぬダークカラーがインパクト大! 小豆や黒いもち米などもトッピングできる
ライチに似た味わいの果実「竜眼(リュウガン)」で作られた人気のかき氷「龙眼椰果绵绵冰(ロンイエン イエゴウ メンメンビン)」(15元=約260円)。トッピングの小豆(奥)とともに食べる
香遇甜品(シャンユーティエンピン)
海南省海口市美兰区海甸三西路15号

取材・文/林 由恵(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1元=約17.3円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。