米国・LA発 人気のアボカドトースト 前編

「森のバター」という異名を持つアボカド。近年、そのアボカドを使ったトーストがロサンゼルスで人気になっている。前編では、そんな店独自のアイデアが詰まったアボカドトーストを紹介する。

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Vol.113

「森のバター」という異名を持つアボカド。果肉に含まれる脂肪分は約20%と高いが、そのほとんどがいわゆる「善玉」脂質のため、健康食品としてアメリカでは以前から人気が高い。そのアボカドを使ったトーストが、近年「コンフォートフード」(心をホッとさせる食べ物)として、ロサンゼルスの定番メニューになっている。パンの上にアボカドを乗せるシンプルなメニューだが、トッピングや調味料、ソースを変えることで様々なアレンジが可能。各レストランもメニュー開発にしのぎを削っている。

前編では、そんな店独自のアイデアが詰まったアボカドトーストを紹介する。

日本でも健康食材として人気が高いアボカド。アメリカではサンドウィッチやタコス、ハンバーガーの具やサラダなどで使われることが多い
アボカドは野菜、穀物、肉、魚と様々な素材と絶妙にマッチ。写真は、「スパーバ・グレイン・ボウル」に、アボカド、チキン、炙ったビンナガマグロを追加トッピングしたもの(合計25ドル=約2,650円)
©Skandia Shafer
パンの上にペースト状にマッシュしたアボカドを乗せるのが基本。トマトやチーズ、マヨネーズ、チリソース、チャツネ(南アジアなどで使われる豆や各種スパイスで作る調味料)、スクランブルエッグなど、様々なものと相性抜群

サクサク、トロ~リ、しっとり、シャキシャキ、食感の四重奏!

ロサンゼルスのイーストハリウッドに隣接する閑静な住宅街、シルバーレイク地区にある人気カフェが「スクォール(Sqirl)」だ。2011年に自家製ジャムの製造販売からスタートし、2012年9月にカフェとしてオープン。「朝食やランチでもディナーと同じレベルの料理を提供する」がコンセプトで、オープン4年足らずで『ロサンゼルス・タイムズ』、『ワシントン・ポスト』などの一流紙で紹介される人気店となった。

看板メニューの1つ「アボカドトースト」。ファンネル、コリアンダー、ハラペーニョとともに酢に漬けたスパイシーなニンジンと、ホイップクリームに入っているガーリック、木の実の風味が、クリーミーなアボカドにアクセントをつける

同店の看板メニューの1つが「アボカドトースト」(8.50ドル=約901円)だ。トーストにトッピングする際にはマッシュされることが多いアボカドだが、同店では薄くスライス。これにハラペーニョや酢などに漬けたスパイシーなニンジンと青ネギのスライスを乗せ、サラダのような歯ごたえを大切にした。一方で、トーストの上にはガーリック入りホイップクリームを塗る。土台となるトーストのサクサク感とホイップクリームのトロ~リ感、スライスしたアボガドのしっとり感、ニンジンと青ネギのシャキシャキ感という、歯ごたえ・口あたりの"四重奏"が楽しめる。酸味があるスーマック(ウルシ科の植物の実を乾燥させたスパイス)も絶妙なアクセントになっている。

「アボカドは、最近ベジタリアンフードとしても注目されています。ヘルシーなのに、良質な脂肪分が含まれていて満腹感も得られるところが人気の秘密」と語るのは、オーナーシェフのジェシカ・コスロー氏。

ほかにアボカドを使った「ソレル・ペスト・ライスボウル」(7.75ドル=約822円)も人気メニューだ。コミヤマカタバミの葉を挽いてつくったペストソースと、オリーブオイルや塩、レモン汁を混ぜたソースを玄米に加え、レモンの風味豊かなライスに。これにアボカド、自家製ソーセージパテ、フレンチシープ・フェタチーズ、ポーチドエッグ、ラディッシュをトッピングして、ワンプレートランチに仕上げた。

ハリウッドに近い土地柄、脚本家などクリエイティブな職業の人たちを中心に20~40代の利用が多い。トレンドには常に敏感でありながらも一時の流行に流されることはなく、本当によいものを求める彼らを虜にしたアボカドトースト。今後もますます人気を呼ぶに違いない。

玄米の上にアボカドなどをトッピングした「ソレル・ペスト・ライスボウル」。アボカドはフルーツだが、カリフォルニアロールにも用いられるなど炭水化物との相性も抜群
オーナーシェフのジェシカ・コスロー氏は、アメリカの人気テレビ番組「アメリカン・アイドル」のプロデュサーとして働いていた。こだわりの料理だけでなく経営者としてもその才能を発揮する
スクォール(Sqirl)
720 Virgil Avenue, #4 Los Angeles, CA 90029
http://sqirlla.com/

トッピングが醸し出す味覚のハーモニー

ロサンゼルス国際空港にほど近いエルセグンド市のショッピングセンター内に2015年11月オープンしたのが、「スパーバ・フード・アンド・ブレッド(Superba Food + Bread)」の2号店だ。

食材の色が見た目にも鮮やかな「アボカドタータイン(アボカドトースト)」。付け合せのサラダ菜(写真右奥)は、1号店にある菜園「Farm Superba(ファーム・スパーバ)」で育てたもの

人気は「アボカドタータイン(アボカドトースト。サラダ付き)」(12ドル=約1,272円)。バターをたっぷり塗った約2.5センチの厚切りトーストは、自家製のライ麦パン「サワードウ」で、外はサクサク、中はしっとり。この上に、まろやかな岩塩・コーシャーソルトと地元産オリーブオイル、チャイブ(セイヨウアサツキ)で味付けしたアボカドを、果肉の食感をあえて残すようにフォークで潰してたっぷり盛る。仕上げに辛みの強いクレソン、甘みのある赤タマネギ、赤カブ、赤いマイクロフダンソウ、酸味があるオッタチカタバミ、そしてまろやかな味わいとサクサクした食感が特徴的な、英国王御用達であるマルドン社の塩を一振り。様々な食材がそれぞれのよさを引き立てて、絶妙なハーモニーを奏でる。これぞ、トッピングによって味わいが変わるアボカドトーストならではの醍醐味といえよう。アボカドや赤かぶなど食材の色の組み合わせも華やかだ。

パンとの相性がよいので、同店はハンバーガーにもアボカドを取り入れている。それが「ヒッピーバーガー」(13ドル=約1,378円)。ふわふわの生地が特徴のブリオッシュのバンに、オリーブオイルと塩とコショウで味付けして潰したアボカド、フェタチーズ、自家製の酢漬けにしたテーブルビート、自家製のトマトを煮詰めたジャム、肉ではなくレンズ豆を挽いて作った自家製パテ、小型の赤いカイワレ大根を贅沢に挟み込んだ。アボカドは、ブリオッシュのパンやジャムなどの甘いものとも実によく合うので、メニュー開発がしやすい。

来店客にはボーイング社など付近の大企業で働くエンジニアやデザイナーなどが多く、忙しいがうまいものに目がない彼らに合わせて、平日でも朝8時から夜10時まで営業。トーストというと朝の食事をイメージしがちだが、アボカドトーストは意外にもランチやディナーでの注文も多い。時間帯を問わず売れるポテンシャルを持つアボカドトーストは、これからもファンを生み続けそうだ。

「善玉」脂質たっぷりのアボカドと、タンパク質の多いレンズ豆のパテを挟んだ「ヒッピーバーガー」。ベジタリアンメニューとは思えぬ食べ応えだ
(画像提供:Superba Food + Bread)
人気セレブシェフ、マイケル・ミーナのレストラン「XIV」で料理長も務めていた総料理長ジェームズ・ツリーズ氏。食に対する熱い想いが料理に詰まっている
(画像提供:Pascal Shirley)
スパーバ・フード・アンド・ブレッド(Superba Food + Bread)
830 S Sepulveda Suite 100 El Segundo, CA 90245
http://www.superbafoodandbread.com

取材・文/大山真理(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約106円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。