イタリア・ミラノ発 行列のできる切り売りピザ 後編

クオリティを徹底追求した切り売りピザ。ファッションの流行発信地であり世界的な商業都市としても知られる、イタリア・ミラノで、今、爆発的な人気を誇るのが、切り売りスタイルのピザ"ピッツァ・アル・トランチョ"だ。

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Vol.9

ファッションの流行発信地であり世界的な商業都市としても知られる、イタリア・ミラノで、今、爆発的な人気を誇るのが、切り売りスタイルのピザ"ピッツァ・アル・トランチョ"だ。前編でご紹介した、行列のできる切り売りピザの大手チェーン店「スポンティーニ」に続き、最近、ミラネーゼからの支持がますます熱い、クオリティを徹底追求した切り売りピザのスタイルに、ミラノのピザのトレンドを追った。

ピザ生地は午前と午後、2回作られる。ミキシングした生地を分割して丸め、一次発酵させた後、麺棒で円盤状の型にのばして二次発酵させる
トマトソースを加えた生地を高温の薪窯の中で約8分焼く。様子を見ながら、下面はカリッと香ばしく上面はふんわり焼けるよう窯の中で焼く場所を移動させる
80%程焼けたら、窯から取り出し、スライスしたモッツァレッラチーズを一面隙間なく並べる。再び薪窯でモッツァレッラチーズがトロリと溶けるまで焼く

※上・中段は「イ・モネッリ」、下段は「フィオレンティーナ」で撮影

32年のベテラン・ピザ職人が焼き上げる、妥協を許さない自慢のピザと陽気なサービスが、人気の秘密

ミラノの旧市街ローマ門近くにある「イ・モネッリ」は、2010年3月3日にオープンしたピザ屋。オーナーでピザ職人のサルヴァトーレ・レンジェ氏は、ピザを作り続けて32年のベテランだ。「どうだい?焼きたての熱々ピザは、良い香りがして食欲を誘うだろう」と、薪窯から出してすぐに、自慢のピザを切り始める。「毎日届く新鮮なモッツァレッラチーズや良質な材料と生地の適切な発酵、そして加減を見ながら焼く薪の管理が、おいしいピザ作りの秘訣なんだよ」と、サルヴァトーレ氏。そのため発酵時間が過ぎた生地は、思い切って捨ててしまう。その妥協を許さない姿勢が生み出すおいしさで、年々、口コミで客足をのばしている。地元住民をはじめ、昼は近くのオフィスのビジネス層や買い物客、夜は若いカップルや家族連れなど幅広い層に愛されている。

昼は、近所のオフィスからの客が多く、ほとんどの客が切り売りピザを注文する。夜は、旧市街のカルカノ劇場近くという場所柄、有名な俳優や著名人が来店することも

店名の「イ・モネッリ」は、"わんぱくたち"を意味するが、その名の通り、同店のスタッフはとにかく動きが素早く、きびきびとしている。主力メニューは切り売りピザだが、昼は2~4種類のパスタをはじめ、ミートボール煮込みやマッシュポテトといった家庭的なメニューも提供しており、地元ミラネーゼからは、そうした家庭的な味が好評だ。

同店でミラネーゼに圧倒的に人気の切り売りピザは、前回紹介した「スポンティーニ」同様、やはりマルゲリータ。唐辛子がほどよく効いた、サラミが載っているカラブリア風のピザは、ボリューム満点で、2番目に人気がある。
ちなみに、主力商品の切り売りピザに上記の日替わりメニューを加えたところ、相乗効果で売上げが30%もアップしたのだとか。客を飽きさせないよう、ピザ以外の選択肢を広げたことで、ランチでの客足が増えたようだ。

店は基本的に家族経営で、総指揮を執るサルヴァトーレ氏と妻のカルメン氏がキッチン、娘のヴェロニカ氏と息子のロッコ氏はホールとレジを担当。そしてピザ職人として働くレナート氏も加えると、5名体制で店を切り盛りしている。薪窯前のカウンターに行列ができると、サルヴァトーレ氏の声が響き渡る。客のオーダーを聞きながら、スタッフ全員に指示を出し、キッチンに走り、でき上がった熱々のピザを提供すると、お店がますます活気を帯びてくる。

そんな忙しい最中でも、サルヴァトーレ氏の気の利いたジョークが飛び出し、陽気な笑い声が絶えないのも、ピザのおいしさ同様、人々を引き付けるゆえんだろう。満員の店内は落ち着かないけれども、こうした温かいもてなしに、最後は、みんなが笑顔で店を後にするのが印象的だった。

ノーマルサイズの"ピッツァ・アル・トランチョ"は4ユーロ(約388円)。80%の客は、マルゲリータをオーダー
2番目に人気の切り売りピザは、唐辛子入りのカラブリア風のサラミをのせたもの。5ユーロ(約485円)
日替わりメニューは、イイダコとプチトマトのパスタ。3.5ユーロ(約339円)
左からロッコ氏、カルメン氏、サルヴァトーレ氏、ヴェロニカ氏。一家のチームワークで、店内はいつも明るく陽気な雰囲気
ポルタ・ロマーナ通りに面した外観。前には市電の走るレールが続く石畳の路は、ミラノの中心地ドゥオーモへ。
I Monelli(イ・モネッリ)
Corso di Porta Romana, 129 Milano
客単価
8~9ユーロ
営業時間


火曜~日曜 
12:00~14:30


火曜~土曜 
18:30~23:30


日曜 
18:30~23:00



定休日
月曜

約90年の伝統を継承するピザと柔軟に応じるトッピングが、根強い人気

一方、ミラノ市の南、ナヴィリオ地区近くの「アンティーカ・ピッツェリーア・フィオレンテーナ」は、約90年と長い歴史を持つ老舗店。ピーノ・ムロロ氏は、長年この店でウェイターとして働き、4年前にオーナーになった。その伝統を守り続け、創業当初からのレシピでピザを作り、料理もトスカーナの味を守り続けている。「トマトやモッツァレッラチーズは、イタリア北部のピアチェンツァから仕入れます。みんなに親しまれてきた味を変えないようにしています」と、素材にもこだわり、受け継がれてきた高いクオリティのピザ作りに力を注ぐ。

賑わう夜の店内は、お年寄りから家族連れ、若いカップルに学生のグループと幅広い客層。昼は近隣の学生やオフィスからの客が多い

看板メニューには、ビステッカ(Tボーンステーキ)などの代表的なトスカーナ料理があるが、最近は、リーズナブルで手軽に食べられる切り売りピザのオーダーが急増。
ここでも、やはり一番人気は、マルゲリータ。ほかにサルシッチャ(豚肉の生ソーセージ)や野菜のグリル、そしてハムやオリーブ、ゴルゴンゾーラチーズなどのトッピングも豊富にそろう。好みのトッピングはもちろん、モッツァレッラチーズなしでトマトソースだけのピザを、というリクエストにも気軽に応じてくれる柔軟さも人気の秘密だ。

夕方の開店と同時に、テイクアウト総菜を買い求める近所の客が集まり、ピザの焼き上がりを待つ行列ができ始める。しばらくすると、店内も満席になる。
一般的にイタリア人の食事は、ゆっくりと1時間以上かけるのが普通である。それに比べて切り売りピザは、イタリア人のファーストフードといえるだろう。映画を観る前などに、小腹を満たす感覚である。そのため、店内の客は、大体20~30分程度で回転する。

同店の近くには劇場や大学があり、その帰りなどに利用する客も多い。生粋のミラネーゼには、ピザを食べるならこの店という熱烈なファンも多く、変わらぬ確かな味を求め、親から子供へと代々受け継がれ、若い世代が新たに顧客となる。バールのパニーニをはじめ、パン屋のイートインなどと並び、新たに切り売りピザが人気のミラノ。今後、ますますこうしたカジュアルフードが人々を魅了しそうな気配だ。

1.客の90%がマルゲリータを注文。ふっくらした生地に対し、下面にもれて焼けたチーズが香ばしい。4ユーロ(約388円)
2.グリルしたトスカーナ風のサルシッチャ(生ソーセージ)がたくさんのっているピザはボリューム満点。6.5ユーロ(約630円)
3.ナス、トマト、タマネギ、フィノッキオ、ズッキーニ、ペペロンチーニのグリルのせ。6.5ユーロ(約630円)
4.ハム、マッシュルームとカルチョーフィの酢漬け、黒オリーブのせピッツァも好評だ。6ユーロ(約582円)
手際よく熱々ピザを切り分けるオーナーのピーノ・ムロロ氏。「伝統的なレシピで良質な材料を使い焼いています」
ブリニー通りにある、同店の看板はグリーンの花文字「F」が目印。テイクアウトの行列のため店の前にベンチが置いてある

SHOP DATA

Antica Pizzeria Fiorentina
(アンティーカ・ピッツェリーア・フィオレンティーナ)Viale Bligny, 41 Milano

客単価

11ユーロ

営業時間

12:00~14:30 18:30~24:30

定休日

火曜日www.anticapizzeriafiorentina.com

取材・原稿/須山雄子
写真/仁木岳彦

※通貨レート:
2012年1月16日現在1ユーロ=約97円で計算