カンボジア発 ニュータイプ屋台が登場 前編

アンコール・ワットがあるカンボジアのシェムリアップでは、伝統的料理を提供する屋台が人気。しかし近年、ピザを供する屋台などが続々登場。前編では、ブームのきっかけとなった屋台を紹介。

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Vol.131

世界遺産のアンコール・ワットがある、カンボジア北西部の都市・シェムリアップ。外国人観光客をターゲットとしたおしゃれなイタリア料理店やカフェが軒を連ねる一方で、現地の人にはカンボジアの伝統料理やスイーツを売る「屋台」が根強い人気だ。近年、この屋台が提供する料理に変化が起きている。カンボジア料理ではなく、専用の窯で焼き上げるピザや本場・イタリアのエスプレッソマシーンで淹れるコーヒーを提供する屋台などが登場し、地元住民だけでなく外国人観光客にも人気となっているのだ。

前編では、こうした“ニュータイプ屋台”ブームのきっかけをつくったピザの屋台を紹介する。

ニュータイプ屋台の先駆けといえるピザの屋台。一台のトゥクトゥク(三輪自動車)に、ピザ釜、生地練り用の台、具材を炒めるコンロ、商品を入れる箱の置き場などが、コンパクトに収まっている
屋根と柱の設置された敷地を使い、2台のフードトラックでピザやパスタ、軽食用を販売する大規模屋台。テーブルや椅子を都度セッティングしており、さながら屋外食堂の雰囲気だ
牛ひき肉を散らした「ビーフピザ」はピザ屋台で人気商品の1つ。ひき肉とトマトソースとチーズの旨味が混ざり合う

ピザ釜を積んだ屋台が大人気に!

観光客が数多く訪れるカンボジア・シェムリアップのメインストリートからほど近いジーン・コマイル通り沿いの、食べ物や日用品を販売する屋台が並ぶ一角。ここで近年話題をさらっているのが、本格的な炭火窯をトゥクトゥクに積んで営業するピザ屋「トゥクトゥク・ピザ(TukTuk Pizza)」だ。2014年9月のオープン時にはトゥクトゥクを移動させながら市内のあちこちで営業していたが、「屋台を見つけるのが難しくて困る」という声が増え、2015年10月から現在の場所に落ち着いた。営業時間は16時から23時。気温が高いカンボジアでは、日中は外で食事をする人が少ないためだ。

屋台で販売しているマルゲリータのスモールサイズ。ソースや辛さが足りないときのためにケチャップやチリパウダーを無料でサービス

オーナーのヘン・リッティー氏は、シェムリアップにある5つ星ホテル内のイタリア料理店で5年間修業。屋台での販売にこだわったのは、「外国人観光客に比べて収入が少ないカンボジア人にも、本物のピザを味わってもらいたい」という想いからだ。ピザ窯を乗せた珍しい屋台ということで、オープン直後からブログやSNSなどで評判が広まった。

一番人気は、チーズとトマトとバジルだけのシンプルな「マルゲリータ」(スモールサイズ直径約23センチ、2.5ドル=約283円/ラージサイズ直径約28センチ、3ドル=約339円)で、少し甘めのトマトソースがベース。別途もらえるチリパウダーをかけて好みの辛さに調節でき、唐辛子の辛さが加わることで、チーズのまろやかさとトマトソースの甘味が絶妙に引き立つ。

また、「BBQチキン」(ラージ5.5ドル=約632円)は、薄く塩味を効かせて刻んだ鶏肉と、ピーマン、玉ねぎのあっさりした味わいのピザ。こちらも、別途もらえるケチャップをかけることで、野菜の甘みが引き立ち、塩味の鶏肉に深みが加わる。そのほか、「ベジタリアン」(ラージ3ドル=約339円)や、「シーフード」(ラージ5.5ドル=約621円)など様々な種類を用意している。

焼き上がりを待ちながら、屋台を背景にスマートフォンでの自撮りを楽しむ人も多く、若者やファミリー、外国人観光客など客層の幅は広い。これまでカンボジアでピザといえば、本格的なレストランでしか食べられない高級メニューの1つだったが、屋台で気軽に味わえるようになったことで、人々の食生活に新たな彩りを加えている。

焼き窯へのピザの出し入れは屋台の後方で行う。ピザピール(ピザを窯に出し入れするときに使う道具)は、ラージサイズと同じ大きさ
屋台内部にあるステンレス台の上で、団子状にこねておいた生地を均等な厚さに伸ばし、トッピングを乗せる。調理過程を見せる演出も人気の秘密
トゥクトゥク・ピザ(TukTuk Pizza)
Krorlagn village, Siem Reap, Siemreab-Otdar Meanchey, Cambodia
http://www.facebook.com/Angkor-Pizza-TukTuk-1646208632274605/?fref=ts

パスタなどを出すフードトラックも登場

先ほどの店があるジーン・コマイル通りの斜め前の空き地で、2015年10月から店を出しているのが「マダム・ピザ(Madam Pizza)」だ。店名にピザとついているが、パスタやハンバーガー、ホットドッグなども販売している。

厚めの生地と大きいソーセージが現地の子供に人気の「ホットドッグピザ」。夕方には子供連れのファミリーがおやつ代わりに購入するケースが多い

店のオーナーであるタイ・ヴッティー氏も、「トゥクトゥク・ピザ」のリッティー氏と同様、シェムリアップにある5つ星ホテル内レストランの元シェフ。こちらの店は、トゥクトゥクではなく、いわゆるフードトラックを用いた屋台で、「ピザ用」「パスタと軽食用」の2台あり、その前には簡易屋根を付けたテーブル席を用意している。

ピザ用のフードトラックのなかには、4台のオーブンが並んでおり、ピザは「チキン」「シーフード」「ビーフ」「ハム」「ホットドッグ」の5種類を提供。価格はスモールサイズ約23センチ(3ドル=約339円)、ラージサイズ約28センチ(各5ドル=約565円)で、5枚以上購入するとプラス1枚が無料になる。

いちばんの売れ筋は「ビーフ」で、牛挽肉とスイートコーン、ピーマンが乗っていて、トマトソースとチーズの旨味が具材と見事に混ざり合う。チーズハンバーグに似た、重量感のある一品。また、子供に人気なのは「ホットドッグピザ」だ。ホットドッグ用のソーセージの輪切りと、小さく切ったパイナップル、スイートコーンが載っており、ソーセージの塩味とパイナップルやコーンの甘みがミックスした柔らかい味わいだ。

一方、「パスタと軽食用」で販売しているパスタは、「シーフード」「ビーフ」「クリーム」の3種類(各3ドル=約339円)。「クリームパスタ」はベーコン入りなので見た目はカルボナーラ風だが、スイートコーンがたっぷり入っており、コーンクリームスープのようなまろやかな甘みが特徴的だ。ほかにも、「ホットドッグ」(1.5ドル=約170円)や「ビーフハンバーガー」(3ドル=約339円)などを販売している。

営業時間は15時~22時。客層はカップルや子連れのファミリーが多いという。元5つ星ホテルシェフたちが、自身の技術を活かす場所として「屋台」というスタイルを選択した背景には、経済成長などで市内中心部の家賃が軒並み値上がりし、固定式の店舗を出すなら高級店にせざるをえないという事情もある。その点、屋台ならば現地の人も食べられるリーズナブルな価格で提供することも可能だ。事実、今回取材した屋台を追うようにして、ケバブや中華まんなど、カンボジアの伝統料理とは異なる料理を出す屋台を、市内で見かけるようになってきている。

パスタと軽食用のフードトラックで販売している「クリームパスタ」。オーダーが入るたびに、タンクに積んできた飲料水を鍋で沸かしてパスタを茹でている
「4つのオーブンがフル稼働すると、屋台内はかなりの暑さになります」と語るオーナーのタイ・ヴッティー氏。換気扇は備えているが、ただでさえ気温が高いカンボジアでの屋台営業は体力勝負だ
Madam Pizza(マダム・ピザ)
Krorlagn village, Siem Reap, Siemreab-Otdar Meanchey, Cambodia
http://www.facebook.com/madampizza/?fref=ts

取材・文/青山 直子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約113円
※カンボジアの通貨単位はリエル(1ドル=約4000リエル/変動制)ですが、米ドルでのやり取りが一般的なため、ドル換算での表記にしています。
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。