韓国発 マッコリがオシャレに大変身! 前編

韓国の伝統酒「マッコリ」。これまでは、おしゃれとは程遠いイメージだったが、アレンジが加えられ、イメージが変わりつつある。前編では、地マッコリやオリジナルのマッコリを出す店を紹介。

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Vol.139

韓国の伝統酒、マッコリ。米などから作られた白濁した色合いが特徴の、日本のどぶろくに近いものだ。これまで韓国では、マッコリというと“中高年の男性がただ酔うためだけに飲む酒”という印象が強く、高級感やおしゃれとは程遠い存在だった。しかし最近、この伝統酒を愛する人たちの手でアレンジが加えられ、イメージが変わりつつある。また、韓国でも健康志向が高まっており、ビタミンやミネラル、乳酸菌が豊富に含まれている“体によい酒”という点でも注目が集まっているのだ。

前編では、韓国各地で作られている特徴的な地マッコリを数多くラインナップしたり、味にこだわったオリジナルマッコリを出している店を紹介する。

ソウル市内に韓国各地のおいしい地マッコリを集めた店ができ、マッコリの価値が見直されるきっかけとなった
「マッコリ・レストラン」として特徴あるメニューを出そうと、自分たちの理想とするオリジナルのマッコリを醸造所と共同で開発する店も登場
これまで、韓国でマッコリを提供する飲み屋は、賑やかでお世辞にもおしゃれとはいえない店がほとんどだった。そんななか、清潔感のある落ち着いた雰囲気の店でもマッコリが提供されるようになっている

品ぞろえは30種! 個性的な“地マッコリ”で人気店に

韓国の首都・ソウルのバンチョン地区は、大人向けのおしゃれなレストランやバーが建ち並ぶエリア。ここに、2010年1月、韓国各地の地酒ならぬ“地マッコリ”を売りにしたマッコリ・バー「タモットリ・ヒュッ」がオープンした。

「ポクスンドガ」は、女性に人気の地マッコリ。爽やかな炭酸が特徴で、見た目の泡立ちも、ほかのマッコリとは一線を画す

オーナーのキム・ミンホ氏は、「酒と旅が昔から好きで、国内のいろいろな醸造所に行き、そこで非常に個性豊かな地マッコリに出合いました。『マッコリなんてどれも同じ』と思っているソウルの人に、その多様さと深さを知ってほしいと思ったのが出店のきっかけです」とオープンの経緯を語る。店で用意している地マッコリは30種以上。いずれもキム氏が直接醸造所に足を運び、選びに選んだ一級品ばかりだ。

そのなかには、“幻の酒”と呼べる名品も。「これを飲めるのは醸造所のある鬱陵(ウルルン)島と当店だけです」と、キム氏が胸を張るのが「マガモク」(800ml入り瓶。1万7,000ウォン=約1,700円)。島にいる酒造りの名人だけが造れるこのマッコリは、通常マッコリ造りで用いられる小麦粉を一切使わず、米と麹だけで仕上げた、いわば“純米酒”。また、一般的には1回だけ行う発酵を3回も重ねた“三醸酒”で、甘みが強く乳酸菌が豊富で、酸味のなかに深い味わいがある。

マッコリは、発酵によるナチュラルな炭酸をほんのり感じられるお酒だが、まるでシャンパンのように豊かな泡立ちを誇るのが「ポクスンドガ」(935ml入り瓶。1万8,000ウォン=約1,800円)。口当たりが柔らかくて甘酸っぱく、初心者や女性でも飲みやすいのが特徴だ。また、通常は米が主原料だが、米・小麦・麦・トウモロコシ・粟の五穀を使った「オゴク・ジンサンジュ」(750ml入り瓶。 7,000ウォン=約700円)は、酸味と甘みの調和が最高と言われるマニア向けの一品。

こういった個性豊かな地マッコリの違いを飲み比べてもらいたいと用意したのが、「見本セット」(3,000ウォン=約300円)。キム氏おすすめのものや、来店客がドリンクメニューから選んだものなど、計5種を20mlの小さなお猪口に入れて提供する。来店客のなかで、「見本セット」を最初に注文する人がおよそ9割で、次のオーダーを最初の「見本セット」で提供された銘柄のなかから選ぶ人が約8割。お試しの効果はしっかりと表れている。

料理も、マッコリに合うものを意識して取りそろえている。なかでも一番人気は、「カルビグイワブチュセド」(豚カルビ&ニラのサラダ。2万2,000ウォン=約2,200円)で、豚肉の脂とマッコリの酸味が相性抜群だ。

客層の中心は、“地マッコリ”を飲み比べる楽しさを知った20~30代の男女。オープン当初こそ客足が振るわなかったものの、口コミなどで客が客を連れてくる流れが生まれ、売上も徐々に伸びた。日本の地酒と同様のブームが、今、韓国のマッコリにも起こっている。

5種類のマッコリを飲み比べできる「見本セット」。写真は、キム氏がセレクトしたおすすめの5種。手前から「オゴク・ジンサンジュ」、「マガモク」、爽やかな後味の「ジョンチョン」、「ポクスンドガ」、美人濁酒と書く「ミインタクジュ」は、すっきりとした後味が特徴
二人三脚で店を営むキム夫妻。今も新たなおいしいマッコリを追い求めて、情報収集をし、韓国各地に足を運んでいる
タモットリ・ヒュッ(Damotori H)
1-44-18 Yongsan-dong 2-ga, Yongsan-gu, Seoul

こだわりのオリジナル・マッコリで、“安っぽい酒”のイメージを一新

ソウルにマッコリ・レストラン「ウオルヒャン」1号店がオープンしたのは2009年11月。「マッコリ=安っぽい酒」というイメージを変えようというのが同店のコンセプトだ。新聞社や政府官庁、大使館などが集まる光化門地区に立地する3号店(2015年12月オープン)は、高級感にあふれている。

玄米を原料にしたオリジナルの「ウオルヒャン・ヒョンミ」。アルコール度数は10%で、6~8%が平均的なマッコリにしては高め

店の売りであるオリジナル・マッコリは3種類で、すべて醸造所と意見交換をしながらつくるものばかり。なかでも一番人気が、「ウオルヒャン・ヒョンミ」(750ml入り瓶。1万ウォン=約1,000円)。ほかのマッコリとは異なり、有機玄米を使っているため、香ばしくコクが深い。2007年から試作を始め、1号店オープン当初から提供しており、今なお究極の味を求めて試行錯誤を続けているという。ほかのオリジナルは、新米を使った喉越し爽やかな「ウオルヒャン・サル」(750ml入り瓶。8,000ウォン=約800円)と、コンドレ(高麗アザミ)やジャガイモなどを使った野菜マッコリ「ウオルヒャン・チェソ」(750ml入り瓶。1万ウォン=約1,000円)。後者は、韓国での健康志向の高まりに合わせて開発したもので、微かな苦味のアクセントとこってり感が特徴だ。

これらのオリジナル以外に、元新聞記者のオーナー、イ・ヨーユン氏が韓国全土を旅したときに出合った7種類の地マッコリも置いている。なかでももっとも人気が高いのが韓国南端に近い釜山で作られている「クムジョンサンソンマッコリ」(750ml入り瓶。8,000ウォン=約800円)。酸味の少ない飲みやすさが特徴だ。

料理は、「庶民的なメニューをちょっとおしゃれに、高級に」がコンセプト。例えば通常はトック(餅)だけ、もしくは野菜を少し入れる程度の「トッポギ」に、シーフードを加えた「クンジュントッポギ」(2万ウォン=約2,000円)を提供。モチモチなトッポギとエビやイカの味がよく合う人気メニューだ。また、ニラやネギ、タマネギの代わりにズッキーニとポテトとエビを入れた「ホガンチジミ」(2万ウォン=約2,000円)は、細切りにしたポテトの触感が楽しく、少し油っ気があるのでマッコリに合うと好評だ。

店の壁や家具は、木目を基調にしたもので統一。これまでマッコリを提供していた多くの飲み屋とは一線を画した落ち着いた雰囲気で、女性も入りたくなる清潔感と高級感のある空間を作り上げている。

主な客層は、男女問わず周辺で働くビジネスパーソンが中心。同店オリジナルのマッコリの提供から空間づくりにまでこだわることで、マッコリのイメージを覆す、新しいトレンドの発信地になっている。

ズッキーニとポテト、エビなどの具材を、溶いた小麦粉と一緒に焼いた「ホガンチジミ」。マッコリと合うメニューとして人気が高い
店内は約100席で、高い天井と重厚な柱のある落ち着いた雰囲気。李氏朝鮮時代を連想させる絵画が飾られるなど、高級感が漂う
ウオルヒャン(Wolhyang)
30 Sejong-daero 21-gil, Jung-gu, Seoul
http://www.tasteofthemoon.com/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ウォン=約0.1円
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