タイ発 伝統料理・ソムタムが変わる! 後編

青パパイヤを香辛料などと杵などで叩いて作る伝統的なタイのサラダ「ソムタム」。前編では、新たな調理法のメニューを紹介したが、後編では、青パパイヤ以外の素材を使ったものを取り上げる。

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Vol.166

熟す前の青パパイヤを細切りにし、香辛料や小エビ、トマト、魚醤などと一緒に臼に入れ、杵で叩いて作るタイの伝統的サラダ「ソムタム」。ソムは「酸味」、タムは「(杵などで)つく」という意味で、もともと隣国のラオスやイサーン(タイ東北地方)をルーツとした田舎料理だが、現在では全国に広がりタイを代表する定番料理の一つになっている。

そのソムタムが今、様々な形でアレンジされ新たな人気を呼んでいる。

前編では、斬新な調理方法を用いたものを伝えたが、後編では、青パパイヤ以外の具材を使って話題を呼んでいる店を紹介する。

タイでは、全国から選ばれた数十人の料理人が技術やアイデアを競う「ソムタム料理コンテスト」が開催され、シェフの認知度が上がる現象も
タイ料理のなかでもソムタムは定番中の定番。しかし、具材や調味料に細かい定義があるわけではなく、アレンジ次第で様々なバリエーションが可能だ
タイでも、女性はヘルシーなメニューに敏感。野菜をたっぷり摂れて、おいしく、かつ、見た目もフォトジェニックな新しいソムタムが話題を呼んでいる

シェフのアイデアが光る「ココナッツ・ソムタム」

ソムタムを売りにしたイサーン(タイ東北地方)料理店「ソムタム・クーン・カーン」(“カーン氏のソムタム家”の意)があるのは、バンコク東部の高級住宅街。2009年4月にオープンしたこの店のオーナーシェフ、カーン・クルアゲーウ氏は、タイ全土から腕に自信のある料理人が集う「ソムタム料理コンテスト」で、1999年にチャンピオンとなった人物だ。

青パパイヤの代わりにココナッツの果肉を使った「エビ入りココナッツ・ソムタム」。生ココナッツジュースが一緒に提供され、ペアリングを楽しめるのも人気のポイント

自慢のソムタムはバリエーション豊富で、その数、23種類。特に人気なのが、カーン氏ならではのアイデアが光る「エビ入りココナッツ・ソムタム」(120バーツ=約410円)だ。店をオープンするにあたり、「何か人々をアッと言わせるメニューを」と考案した一品で、一般的なソムタムの主役であるシャキシャキの青パパイヤの代わりに、正反対の食感を持つ、口あたりがまろやかなココナッツの果肉を使用。柔らかいココナッツに、プリプリとしたエビやしっかりした歯応えのカシューナッツが加わり、様々な食感が混ざり合うユニークな一品。ココナッツの甘みにトマトの酸味、ナンプラー(魚醤)の塩気が見事に調和している。

同じく、青パパイヤを使わずに、タイでフルーツの一種と見なされているトウモロコシを用いた「トウモロコシ・ソムタム」(90バーツ=約308円)も人気が高い。ソムタムでよく使われるライムやインゲンのほか、食感と彩りに変化をつけるため、角切りにしたタロイモを入れている。トウモロコシやタロイモの甘みが、酸っぱ辛いソースにマッチしている。

こうした様々なソムタムとセットで注文されることの多いメニューが、タイ東北地方の代表的料理「鶏の丸焼き」(180バーツ=約616円)。テイクアウトも含め1日に100羽以上が売れる。じっくりと低温で焼かれた鶏の皮はパリパリで、中はジューシー。トッピングされたガーリックチップがいいアクセントになっている。

同店のソムタムは比較的高めの価格設定だが、有名シェフのオリジナルメニューであることや、青パパイヤ以外の食材を使い、従来のソムタムのイメージを覆すようなメニューであることも話題となり、アッパー層を中心に高い支持を得ている。

若い女性や子供に人気の「トウモロコシ・ソムタム」。紫色のタロイモが彩りのアクセントにもなっている
さっぱりとしたソムタムと一緒にオーダーされることが多い「鶏の丸焼き」(手前)。奥は、一度焼いた鶏を揚げて、表面をさらにカリカリに仕上げた新メニュー「クリスピーチキン」(90バーツ=約308円)
ソムタム・クーン・カーン(Somtum Khun Khan)
Soi Punnawithi 28,Sukhumvit 101/1 Road, Bang Chak, Bangkok
https://www.facebook.com/PageSomtumKhunkan/

自由に味を決められるデザート感覚のソムタムが人気

バンコク市の中心部・チョンノンシー地区にある高級ショッピングモールのレストランフロアに、2010年2月オープンした「ザーブ・イーリー」。木と煉瓦を使った田舎風の雰囲気の内装が女性に人気のイサーン料理専門店だ。

4種のフルーツなどをアレンジした「スパイシー・フルーツ・ミックス・ソムタム」。見た目の鮮やかさも女性に好評な理由のひとつ

ソムタムは、全部で23種類。そのなかでも、若い女性に人気なのが「スパイシー・フルーツ・ミックス・ソムタム」(98バーツ=約335円)だ。リンゴ、ブドウ、グアバ、ドラゴンフルーツという4種類のフルーツに、トウモロコシやトマト、インゲンを混ぜ合わせた一品。自家製の甘いストロベリーソースがアクセントとなり、香辛料の塩気や辛みを引き立てている。

また、「スパイシー・ストロベリー・マンゴー・ソムタム」(180バーツ=約616円)も、フルーツを使った人気メニュー。大きめに切ったイチゴやマンゴーに、トウモロコシ、ニンジン、インゲンなどをミックス。そこに食感のアクセントとしてアーモンドスライスを散らした。ピリ辛のソースによってイチゴやマンゴーの甘みをより強く感じられるデザート感覚の一品だ。

同店のソムタムの特徴は、使用している食材だけではない。辛さを5段階から選べるほか、ビーフン(15バーツ=約51円)やゆで卵(25バーツ=86円)、ゆでエビ(75バーツ=約257円)などのトッピング(全24種)を追加することもできる。辛さを選べることで子ども連れも安心してオーダーでき、トッピングが豊富なことから自分好みのソムタムをカスタマイズできるのも魅力となっている。

客層の中心はアッパー層の女性やファミリー。大型ショッピングモールを中心に、バンコク市内に同業態で6店舗を展開するなど好調が続いている。フルーツを使ったオリジナルの新感覚ソムタムで他店と差別化しつつ、辛さの調節や豊富なトッピングで幅広いニーズにも対応したことが、高い人気につながっているようだ。

華やかな彩りの「スパイシー・ストロベリー・マンゴー・ソムタム」。デザート感覚で楽しめる一品
ソムタム用のトッピングは全24種類。「ビーフン」や「ゆで卵」のほか、「ミックス野菜」(20バーツ=約68円)、「干しエビ」(25バーツ=約86円)、「揚げた豚の皮」(25バーツ=約86円)など様々なアレンジが可能
ザーブ・イーリー(Zaab Eli)
6th Floor. Central Plaza Rama 3
79/3 Sathupradit Road, Chongnonsee, Bangkok

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.42円
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