スコットランド発 クラフトジンが人気沸騰

小規模の酒造所などによる少量生産のクラフトジンが日本でも人気だ。このトレンドの発信源とされるスコットランドで、様々なボタニカル食材を使ったクラフトジンを提供する店を取材する。

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Vol.167

小規模な酒造所などが、オリジナルの味を追求して造る、少量生産の「クラフトジン」。日本でも流行の兆しを見せているが、そもそも、この流行の発信源は、スコッチウイスキーのふるさと・スコットランドだといわれている。スコットランドの名産であるウイスキーは、樽の中で最低3年以上熟成させる必要があり、一般的には販売までに10年ほどの月日と多額の資金を必要とする。一方、ジンは熟成を必要としないため、コストを早く回収できることから、資金力が乏しくても開発に参入しやすい。そうした背景から、スコットランドの酒造メーカーが、自社の酒造りのノウハウや豊富な経験とアイデアを活かして様々なクラフトジンを開発・販売した結果、話題になったのだという。

また、ジンは、味わいが画一的だと思っている人もいるかもしれないが、ハーブやフルーツといった様々なボタニカル(植物性の)食材で風味付けをするため、実はバリエーションが豊富。使用する素材によって様々な個性を出しやすいことも、クラフトジンがトレンドになっている背景にあるかもしれない。

そこで、スコットランドのクラフトマンシップ(職人技)を活かした様々な種類の「クラフトジン」にスポットを当て、専門店やステーキハウスで人気のクラフトジンを紹介する。

ジンの代表的な楽しみ方「ジントニック」。クラフトジンを提供する店では、トニックウォーターなどの「ミキサー(割り材)」も数多く用意し、それぞれのジンに合った最適な組み合わせを提案することも多い
ジンには「ガーニッシュ(飾りや味付けのための素材)」を添えるのが一般的で、クラフトジンを出す店では、ライムのほかにもオレンジ、ラズベリーといった様々なフルーツや、バジルなどのハーブを用いる。ジンの香りを引き立てつつ、見た目を華やかに演出する役割も
クラフトジンを約100種類そろえる専門店も出現。自分好みの銘柄を見つける楽しさがあり、ボトルのデザインや形も様々で、眺めているだけでも楽しい

約100種類を取りそろえるクラフトジン専門バー

クラフトジンを専門に扱うバーとして、スコットランドでまず名前が挙がるのが「ジン 71(Gin 71)」。スコットランド最大の都市であるグラスゴーの繁華街に、2014年5月創業し、現在はグラスゴー市内に3店舗、首都エディンバラ市内に1店舗を展開している。

バラの花びらの香りがする、ゴルフの聖地として知られるセントアンドリュースで造られる「エデンミル」。相性のよい「エルダーフラワートニック」で割り、イチゴを添えて見た目にも華やかに

クラフトジンの品ぞろえは約100種類。ロックなどでもオーダーできるが、ほとんどの来店客が、ジンとミキサー(割り材)、ガーニッシュ(飾りや味付けのための素材)をセットで注文する。好きなジンを選び、計38種類のミキサー(約20種類のトニックウォーターを中心にジンジャーエール、レモネード、フルーツジュースなど)と、約30種類のガーニッシュ(ハーブやフルーツ、スパイスなど)から一つずつチョイス。50mlで8.5ポンド~(約1,261円~)と、一般的なバーで提供される量産タイプのジンと比べると価格はおよそ1.5倍だ。一番人気は、スコットランド・ハリス島で造られた「アイルオブハリスジン」に、フィーバーツリー社の「プレミアムトニックウォーター」と、グレープフルーツのガーニッシュの組み合わせ(9.5ポンド=約1,410円)。オレンジ、グレープフルーツ、コリアンダーを香りづけに用いている「アイルオブハリスジン」は爽やかでフレッシュな風味があり、そこへグレープフルーツの甘酸っぱさとほのかな苦味が加わって絶妙なハーモニーを奏でる。

2番目に人気なのは、セントアンドリュース産のクラフトジン「エデンミル」と、同じくフィーバーツリー社の「エルダーフラワートニック」、イチゴのガーニッシュの組み合わせ(9.5ポンド=約1,410円)。華やかな香りの「エデンミル」に、イチゴの甘い香りと甘み、酸味が加わって、非常に飲みやすい。

こうした人気の組み合わせを楽しむのもよいが、自分好みの組み合わせを見つけるのも楽しみのひとつ。とはいえ、初来店の人やジンになじみのない人は、100種類ものジンを前に何を選べばよいか迷ってしまうことが多い。そこで、同店では扱っているクラフトジンを6種類に分類。地元スコットランドのボタニカル食材を使って風味付けされた「スコットランド系」、海外で生産された「ワールド系」、花やフルーツで香り付けされた「フローラル&フルーティ系」、コショウやシナモンなどを用いた「スパイス系」、柑橘類を含む「シトラス系」、ウイスキーやラムのように樽で寝かせた「熟成系」と、大まかな特徴がわかるようにしている。さらに、メニューブックには、この6つの分類とともに、それぞれのジンの特徴や相性のよいガーニッシュをイラスト付きで表記するなど、ビギナーでも選びやすい工夫も喜ばれている。

また、様々なクラフトジンを試してみたいという人向けのお試しセット「ジンフライト」(17ポンド=約2,523円)を3種類用意。なかでもオーダー率が高いのが、3種類のジントニックと、それぞれに合うチョコレートをセットにした「ジン&チョコフライト」、ティーカップで英国風にジンカクテルを楽しむ「ジンティーポットフライト」、3種類のジンベースのリキュールをスパークリングワインで割って味わう「ジンフィズフライト」のセットなど。手軽さとかわいい見た目が相まって、ジンの初心者や女性を中心に好評だ。

一方、料理もジンに合うものを豊富に取りそろえており、なかでも「魚の天ぷら」(8.5ポンド=約1,261円)が売りだ。衣にはビールが混ぜてあり、フィッシュ&チップスの国らしいサクッとした仕上がりになっている。脇に添えられるタルタルソースにもジンを混ぜることで味に深みが生まれ、クラフトジンとの相性も抜群。一口サイズでおつまみにもぴったりの一品だ。

客層は、20~50代の女性やカップルが中心。種類豊富で個性豊かなクラフトジンの登場により、味のバリエーションはもちろん、様々な割り材やトッピングとの組み合わせを楽しめ、今まで以上におしゃれなドリンクに変わりつつある。

シロップで作った氷が入ったティーカップに、ジン、ソーダ、ジュースがミックスされたカクテル3種類をシェイカーから注いで楽しむ「ジンティーポットフライト」。カクテルが甘めなので、ジンになじみがない人でも飲みやすい
ジンベースのカクテルも用意。写真は、ブラックベリーの香りが漂うクラフトジン「ブロックマン」を使用した「ブランブル」(9ポンド=約1,336円)。ブラックベリーのリキュール、フレッシュなレモンの絞り汁、ブラックベリーの実をガーニッシュとして添えて、甘さと酸味、果実感あふれる味わいを楽しめる
ジン 71(Gin 71)
4 Virginia Court, Glasgow G1 1TE
http://www.gin71.com

ステーキとも相性がよいクラフトジン

グラスゴーの玄関口、セントラルステーション駅の地下に、2014年5月から店を構えるステーキハウス「アルストンバー&ビーフ(Alston BAR & BEEF)」。スコットランド特産の素材を使った前菜とランプ肉のステーキなどのセット(13ポンド=約1,929円)が人気で、4種類の塩から好きなものが選べる「フライドポテト」(4ポンド=約594円)や、「オリーブの酢漬け」(3.5ポンド=約519円)などのおつまみやアルコール類も豊富にそろえており、夜はバーとして利用する人も少なくない。

「スターリングジン」に、オレンジとバジルを付け合わせた「スターリング ジントニック」。ジンに使われている食材に合うガーニッシュを添えることで、クラフトジンの香りと個性が一層高まる

ステーキハウスながら、取りそろえているクラフトジンの種類は90以上。売りのステーキとともにオーダーされることが多いのがスターリングの「ジントニック」(6.9ポンド=約1,024円)。これは、スターリング産の「スターリングジン」に、オレンジとバジルの葉を付け合わせたもの。フレッシュな香りで立ち上がるスターリングは、最後に漂う柑橘系の甘い香りに、オレンジの甘酸っぱさ、バジルの風味が見事にマッチした一杯だ。

同じくステーキに合うのが、「アーバイキー」というクラフトジンにブルーベリーとレモンを付け合わせたアーバイキーの「ジントニック」(6.7ポンド=約994円)。アーバイキーは爽やかなブラックベリーの香りと華やかなバラの香りがありながらも味わいはスッキリしており、肉料理にぴったりだ。どちらのジントニックも、様々なクラフトジンと相性のよいフィーバーツリー社の「プレミアムトニックウォーター」と合わせている。

また、クラフトジンをベースにしたカクテルも約20種類と充実。一番人気は「ラズベリーロワイヤル」(9ポンド=約1,336円)。エディンバラ産の「ラズベリージン」をイタリアのスパークリングワイン「プロセッコ」で割ったもので、ライムとリンゴジュースで甘みと酸味をプラス。スパークリングワインの爽快感から、やみつきになる人が多いという。

駅の地下という立地もあり、ビジネスマンや旅行者、買物客と、客層は幅広い。様々なフルーツやハーブなどのすっきりとした風味が楽しめるクラフトジンは、おつまみはもちろん、肉料理などとの相性がよいものも多い。様々なリキュールと組み合わせてカクテルを作ることも可能で、より幅広い客層のニーズを捉えるアルコールとしてさらにトレンドは広がっていきそうだ。

クラフトジンをベースにした一番人気のカクテル「ラズベリーロワイヤル」。クラフトジンになじみがない人にも飲みやすく、女性からの注文率が高い
店の入口近くに本格的なスタンディングバーがある。クラフトジンを中心に、生ビール、ワインと多種多様のドリンクを備えており、食事を摂らずサクッと一杯飲んで帰る客もいる
アルストン バー & ビーフ(Alston BAR&BEEF)
Central Station, 79 Gordon Street, Glasgow G1 3SQ
http://www.alstonglasgow.co.uk

取材・文/石橋貴子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ポンド=約148.4円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。