ペルー発 ハーブドリンクがオシャレに進化

南米ペルーは多数のハーブが自生するハーブ王国。複数のハーブやフルーツを混ぜるなどアレンジを加えたハーブティーを提供して女性を中心に高い人気を集めるカフェバーを紹介する。

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Vol.168

南米ペルーは、アンデス地方を中心に多数のハーブが自生しているハーブ王国。古くから先住民はこれらを病気の治療や健康増進に利用してきた。スペイン由来の麦茶「アグア・デ・セバダ」に数種類のハーブを加えて煮出した健康茶「エモリエンテ」も人気だ。

ただ、いずれも家庭や屋台で気軽に飲める、いわば庶民向けの飲み物だったため、ここ数年でペルーが“美食の国”として脚光を浴びるようになっても、ほとんど注目されることはなかった。そんななか、世界的なヘルシーブームとともに、リマでも身体によいものを求める人が急増。それまで1種類のハーブを使って飲まれることが多かったハーブティーに、複数のハーブやフルーツを混ぜるなどアレンジしたハーブドリンクを提供して、女性から高い支持を得ているカフェバーを紹介する。

ペルーの市場にはほとんど流通していない、アンデスやアマゾン産のハーブをそろえる店も。こうした珍しいハーブを安定して確保するためには、地元のハーブ農家とのパイプが重要になる
スペインの麦茶「アグア・デ・セバダ」に、スギナ、アマニなどのハーブを加えて煮出し(写真)、その後、レモンやハチミツで味を調えると、「エモリエンテ」というハーブティーに。一般的な屋台では、1杯1ソル(約33.6円)で飲むことができる
薬膳茶として人気の「エモリエンテ」。基本的な素材は決まっているが、作り手によってアレンジすることも多いため、エモリエンテを愛飲する人のなかには、行きつけの屋台を持つ人も少なくない

33種類の薬草と、フルーツを駆使したハーブティーが人気

ペルーの首都・リマ市のバランコ区は、“エコ”や“ナチュラル”といったキーワードに敏感な人が多く住む、おしゃれなエリア。その一画に2016年オープンした「バー・メディシナル(Bar Medicinal)」は、広さわずか10平米のカフェバー。メディシナルとは、“薬効のある”という意味だ。

一番人気の「エル・マヌー」。ユーカリの小枝で作ったマドラーで、グラスの底に沈んだフルーツの果肉を混ぜながら飲む。ハーブティーの地味なイメージを覆した、色鮮やかな見た目が女性に大人気

人気のドリンクは、複数のハーブとフルーツをブレンドした10種類の「フルーツ入りハーブティー」(各10ソレス=約336円)。メニュー表には、それぞれのドリンクに使っているハーブなどの素材を表記し、注文するときの参考にしてもらうために「リラックス効果」「消化促進」「呼吸を整える」「浄化作用」といった、ドリンクごとの効能も記している。すべて、ホットとアイスのどちらでもオーダーが可能だ。

一番人気は、リラックス効果があるという「エル・マヌー」。使用するハーブは、「レモンバーベナ」「レモンバーム」「レモングラス」というレモン系の香りを持つ3種類に、「ブラックミント」「ハイビスカス」を加えた計5種類で、そのほかトゥンボ(パッションフルーツの仲間)、イチゴ、マンゴーをミックスし、アクセントにハチミツを足している。レモン系の爽やかな香りと、マンゴーやハチミツのまったりとした甘みが絶妙なハーモニーを奏でる。

また、ランチ後のカフェタイムにオーダーが多いのが、消化促進効果があるとされる「ゴクタ」だ。ミネラル成分が豊富な「ホーステール」(和名はスギナ。ツクシの栄養茎)のほか、通称“アンデスミント”と呼ばれる「ムニャ」や「レモンバーベナ」、マメ科の「クレン」、シソ科の「パニサダ」などのハーブをブレンドし、ブドウやパッションフルーツ、パイナップルで風味を加えている。フルーツの爽やかな酸味や甘みによって、わずかに残るスギナ特有の青臭さが緩和され、気にせずさらっと飲むことができる。そのほか、来店客の要望に合わせて数種類のハーブを調合する「クラシック・ハーブティー」(8ソレス=約268円)もある。

メインの客層は、健康志向やエコ意識が高く、普段から身体によい食材を積極的に食事に取り入れている女性たちだ。様々な効能を持つハーブをブレンドし、フルーツも加えて味わいのある創作ドリンクに仕上げたことで、一般的なハーブティーの数倍の価格設定ながら、多くのファンを獲得している。

消化器系を助ける効能があるとされ、食後のカフェタイムにオーダーされることが多い「ゴクタ」(右)と、滋養強壮の効果が期待できる「ピコ・アルト」(左)。「ピコ・アルト」は、緑茶、ムニャ、免疫強化作用を持つ薬用植物・キャッツクロー、マメ科のマナユパ、アンデスのサボテンの一種サンキ、食用ほおずき、赤サボテンなどを使用しており、酸味とほのかな苦みが絶妙な味わい
シェフとしての知見を高めようとアンデスやアマゾンを旅し、ハーブの魅力とその可能性に気づいたというオーナーのホルヘ・セア氏。「将来は日本のハーブも取り入れてみたい」と意欲的だ
Bar Medicinal
Av. Nicolás de Pierola 285, Barranco - Lima
https://www.facebook.com/barmedicinal/

ハーブティーが、おしゃれなカクテルに変身

リマにおける観光とグルメの中心地、ミラフローレス区。その目抜き通りに、2013年オープンしたのが「ラ・エモリエンテリア・バー(La Emolientería Bar)」だ。

アマニから出る成分によって、一般的なモヒートより口当たりが滑らかな「モヒート・エモリエンテロ」。エモリエンテが入っているため、色は少し濁っている

同店の売りは、前半に紹介した「バー・メディシナル」でも登場したハーブティー「エモリエンテ」を使ったカクテルだ。ベースにするハードリカーは、ブドウから作ったペルー名産の蒸留酒「ピスコ」。原液をそのまま使うだけでなく、エモリエンテの材料となる複数のハーブを一緒に漬け込んだ「ピスコ・マセラード」や、ハーブかフルーツを単体で漬け込んだ15種類以上の「オリジナルピスコ」も駆使して、様々なカクテルを生み出している。ハードリカーとしてピスコを使っている理由は、無色透明で味にクセがなく、ハーブを漬け込んだり、カクテルに使うのにうってつけだからだ。

一番人気は「モヒート・エモリエンテロ」(28ソレス=約940円)。スペインの麦茶、アグア・デ・セバダやアマニ、ミント、レモンバーベナ、レモングラス、レモン、パイナップルを煮出して作った「エモリエンテ」を、ベースの「ピスコ・マセラード」に合わせ、仕上げにミントとレモンでアクセントをつけている。ミントやレモンの清涼感だけでなく、麦の香ばしさも楽しめる。アマニから染み出るトロリとした成分のせいで、一般的なモヒートより口当たりが滑らかだ。

また、フローズンカクテルの「エモリエンティーニ」(28ソレス=約940円)も人気が高い。ミキサーに、「ピスコ・マセラード」と、パッションフルーツを漬け込んだ「オリジナルピスコ」、ココナッツクリーム、砂糖、クラッシュアイスを入れてかくはんし、シャーベット状にする。濃厚なココナッツクリームによってパッションフルーツの酸味がほどよく抑えられ、とてもまろやかな口当たりだ。

飲み口のよい創作カクテルを数多くそろえていることもあり、客層の8割が女性。ペルーは、女性の飲酒に関して保守的なお国柄だが、「身体によいエモリエンテ入りのカクテルなら問題ない、という心理も働いているかもしれません」と、オーナーのミゲル・アキヘ氏。

もともとペルーには、温かいエモリエンテに蒸留酒のピスコを加えた「ピテアード」というホットカクテルがあった。日本でいうと“焼酎のお茶割り”のように、おしゃれさとは縁遠い飲み方だったが、そこにレモンやミントを加えたり、フローズンカクテルにするなど、ひと工夫することで、都会的でおしゃれなドリンクに昇華させることに成功している。

ココナッツクリームがかくはんされることで乳化し、こんもりと盛りつけたビジュアルが特徴の「エモリエンティーニ」。甘くてデザート感覚で飲みやすい。ショットグラスで一緒に提供される「ピスコ」を加えて、アルコールの強さを調整する
オーナーのミゲル・アキヘ氏(左)と、カクテルの鍵を握るエモリエンテづくりを担当するマウレリア・フェルナンデス氏(右)。フェルナンデス氏は、飲食業に携わって40年のベテラン
La Emolientería Bar
Av. Diagonal 598, Miraflores - Lima
https://www.facebook.com/Laemolienteriabar/

取材・文/原田慶子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ソル(複数形はソレス)=約33.6円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。