豪州発 朝食「ブレッキー」が進化 後編

かつて、バーベキューメニューの盛り合わせのイメージが強かった、オーストラリアの朝食「ブレッキー」が新たな進化を遂げている。後編では、多国籍メニューやオーダーメイドスタイルを紹介。

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Vol.172

「ブレッキー(BreakyもしくはBrekkie)」とは、オーストラリアでの「ブレックファスト」の省略形。かつてはどんな店でも、「ブレッキー」というとソーセージ、ベーコン、目玉焼き、焼きトマト、ハッシュドポテト、トーストかバンズを一皿に盛ったものばかりだったが、近年、素材や調理法を変え、おしゃれに進化したものが続々と誕生している。前編では、モーニングがもっとも混雑する時間帯になるなど、新しいブレッキーが絶大な人気を獲得しているカフェを紹介した。

後編では、引き続きブリスベンのカフェにスポットを当て、移民の国・オーストラリアならではのエスニックの進化系ブレッキーや、「オーダーメイドブレッキー」というスタイルを取り入れた店舗をリポートする。

バーベキューが大好きなオーストラリア人。シーフードはあまり好まれず、ソーセージやベーコン、焼きトマト、目玉焼きなどがメイン。これをそのままワンプレートに盛ったのが従来のブレッキーだ
進化系ブレッキーは店舗ごと、プレートごとに特徴があり、見た目も鮮やか。移民が多い国らしく、エスニック素材などを取り入れることで、ますますメニューの幅が広がっている
新しいブレッキーを提供するカフェのオーナーとスタッフ。共同オーナーの一人である左の男性がセルビア出身であることから、東欧風のメニューを取り入れたところ大人気に

エスニック素材を加えて変化をつけた進化系ブレッキー

オーストラリア東海岸の大都市・ブリスベンの中心部から南へ22キロ。車や家具などの大型販売店が居並ぶエリアに、「エクストラクションアーティザンコーヒー(Extraction Artisan Coffee)」がオープンしたのは2016年2月のこと。ここでは、おしゃれなブレッキーメニューがモーニングの時間帯に限らず、終日楽しめる。現地で、「オールデイブレックファスト」と呼ばれているスタイルだ。

ソースのあしらいなど、ビジュアルにもこだわった「ケト・カンバーバッチ」。朝食の時間は混雑するうえに、来店客もゆっくり食事ができる人ばかりではない。調理時間をコンパクトにして素早く提供し、かつ美しい盛り付けも実現することがブレッキーのメニュー開発のポイントといえそうだ

ブレッキーの一番人気は、「ケト・カンバーバッチ」(20.5ドル=約1,681円)。ポーチドエッグ、焼いた生ハムとマッシュルーム、プチトマトに添えられるのは、卵黄とバターが濃厚なオランデーズソース。共同オーナーの1人、ヘザー・スコット氏が昔ながらのブレッキーを洗練させた一皿で、生ハムやプチトマトにクリーミーなオランデーズソースが混ざり合って、様々な味わいが楽しめる。

同じくオリジナリティーのあるブレッキーメニューが、「チェバプチチ」(20.5ドル=約1,681円)。もう一人の共同オーナー、アレックス・ミロセヴィッチ氏の出身地である東欧セルビアやその周辺国の料理を取り入れた一品。メニュー名にもなっているチェバプチチは牛ひき肉を焼いた東欧の伝統的な料理。ほかに、柔らかく炊いた米をぶどうの葉で巻いたドルマ、ヤギ乳とヒツジ乳から造られるハールミチーズを焼いたもの、ポーチドエッグ、赤キャベツの酢漬けが一皿に盛り付けられている。肉汁たっぷりのチェバプチチ、ちまきのようなもちもちした食感のドルマ、クセになる塩気が特徴のハールミチーズなど、それぞれを楽しみながら、ポーチドエッグを崩して食べればまろやかな味わいに。

主な客層は地元住民で、周辺にある大型販売店で働く人たちも多く、朝食をとりながらミーティングをする姿も少なくないという。大きい通りから細い道を60~70メートル入った場所にあり、立地条件は決していいとは言えないが、見た目が鮮やかで、他店とは違うメニューも取り入れたブレッキーと、ミロセヴィッチ氏が店内で焙煎する高品質なコーヒーが評判で、遠方から足を運ぶ人が絶えない。

営業時間は平日が6~15時で、土・日曜日が7~14時。夜の営業は行わず、1日9時間程度の営業でも、従来よりも高単価なブレッキーによって十分な売上を実現している。

東欧の味を取り入れた「チェバプチチ」。プチトマトを加えたフランス風のベシャメルソースが添えられている
鮮やかな緑が映える「アボカドトースト」(18.5ドル=約1,517円)も、人気のブレッキーメニュー。ヤギの乳のチーズやニンジンのピューレ、挽いたヘーゼルナッツを加えて華やかかつ、上品に仕上げている
Extraction Artisan Coffee
7/3375 Pacific Highway, Slacks Creek, Queensland
http://extractionartisancoffee.com.au/

好みの組み合わせを選べる「オーダーメイドブレッキー」

ブリスベンの中心部から南へ2キロ。中小企業のオフィスや高層マンションなどが混在するウールンギャバ地区で人気を呼んでいるのが2016年11月オープンの「パールカフェ(Pearl Cafe)」だ。主な客層は、平日の朝が近所の高層マンションの住民や近隣に勤めるビジネス層。休日になるとリタイア世代や子どもを連れたファミリーも加わり、朝から行列ができる。

「スモークトラウト」「マッシュルーム」「グリーン野菜」「アボカド」を組み合わせた「オーダーメイドブレッキー」。シメジのフリットやマスなどは、数年前まで「ブレッキー」にはなかったメニューだ

同店の朝食が特徴的なのは、客自身が料理を組み合わせて、オーダーメイドのブレッキーを作れる点だ。「もともと、珍しい創作メニューが多いのですが、ブレッキーまで創作メニューだけにしてしまうと、オーソドックスな朝食へのニーズに応えられません。そこで、ブレッキーの定番素材と当店ならではの新たな素材を用意して、“メイク・ユア・オウン”、つまり自由に組み合わせてもらい、好みのブレッキーを作ってもらうことにしました」とオーナーのマニータ・アーノルド氏。サワードウブレッドとポーチドエッグ2つ(11ドル=約902円)がベースで、そこに5種類のメニューから好きなものを加えていくスタイルだ。選ぶメニュー数は人によってまちまちだが、平均で約2種類で、朝食の平均客単価は22ドル(=約1,804円)という。

選べるメニューのなかで人気の一つが、マスの切り身を軽くスモークした「スモークトラウト」(7ドル=約574円)。脂がのった切り身の豊かな風味とやわらかな口当たりが好評で、塩加減も絶妙。また、「マッシュルーム」(5ドル=約410円)は、シメジとパセリのフリット。粗塩が振られており、素材の味を引き立てている。そのほか、サヤインゲンやブロッコリーなどをオリーブオイルで炒めて、塩コショウで味付けした「グリーン野菜」(5ドル=約410円)や、エキストラバージンオリーブオイルと塩コショウを一振りした「アボカド」(5ドル=約410円)なども人気。

もう一つユニークなブレッキーが「ベネディクト」(18ドル=約1,496円)。使用する素材は、豚肉、卵、トマトなどブレッキーの定番だが、豚肉はなんと厚切りのチャーシューで、グラタン皿に入れオーブンで焼き上げるという手法も、従来のブレッキーとはまったく異なる調理法。見た目もこれまでのブレッキーとは一線を画す仕上がりで、寒い季節にぴったりの朝食として人気を集めている。

ビジュアルやヘルシー志向へのニーズに応えるだけでなく、様々な国の料理や調理法、“好みに合わせて選べる”という自由度の高さなどをプラスすることで、人気を獲得している新しいブレッキー。長く続く好景気も追い風に、様々なカフェで高単価の朝食がヒットしており、モーニングが売上の軸として今後も注目を集めそうだ。

従来のブレッキーの素材を使い、グラタン皿で焼き上げるという手法が新しい「ベネディクト」。寒い季節には特にオーダー率が高くなる
デザート感覚のブレッキーとして「パンケーキ」(18ドル=約1,517円)も用意。ラズベリーやストロベリーのほのかな酸味と焼きカスタードのやさしい甘みに、甘酸っぱく煮たルバーブでアクセントを付けている
Pearl Café
28 Logan Road, Woolloongabba, Queensland
https://www.facebook.com/pearl.cafe.brisbane/

取材・文/柳沢有紀夫(海外書き人クラブ) 撮影/TAiGA(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約82円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。