豪州・タイ発 新・屋台村の人気を探る 後編

世界で人気が高まっている大規模な屋台村。前編のオーストラリアに続いてスポットを当てるのはタイのチェンマイ。旧来の屋台村の概念を変えるエンタメ色の強い「進化系屋台村」を紹介する。

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Vol.174

世界で人気が高まっている大規模な屋台村。前編のオーストラリアに続いてスポットを当てるのは、もともと「屋台」のイメージが強いタイだ。タイ第2の都市・チェンマイでも、日が暮れると市内各所に屋台がいくつも出現し、それぞれの屋台から立ち上る湯気や煙とともに、アジア特有の熱気や喧噪に街全体が包まれる。

チェンマイで新しい屋台村が誕生することも珍しくないが、すでに固定客をつかんでいる既存の屋台村には対抗できず、集客に苦戦しているケースがほとんどだ。

そんな“屋台飽和状態”といえるチェンマイで、旧来の屋台村の概念を超えたエンターテインメント色の強い「進化系屋台村」が登場し、トレンドに敏感な若者やファミリーなど、幅広い層の支持を集めている。なぜ、既存の屋台村に負けず、大成功を収めているのか、その秘密に迫る。

タイ国内の商業施設として最大の敷地面積(東京ドーム2個分)を誇る「プロムナーダ・リゾートモール」。その名のとおり、リゾートを意識した空間で、日が暮れると中庭に屋台村とステージが出現する
中央ステージでのライブ演奏は迫力満点! 有名アーティストのコンサートもたびたび開催され、「プロの音楽ライブが聞ける」ことが集客のフックになっている
チェンマイの一般的な屋台村の屋台の数は20~30くらいだが、進化系屋台村では50以上もの屋台が並ぶ。「安い・うまい・早い」の三拍子そろった店舗を主催者側が厳選。ニーズに応えて、顧客満足度の向上に努めている

屋台大国タイに新トレンド! 進化系「屋台村」がモール集客の目玉に

タイ北部の基幹都市・チェンマイの中心部から車で約30分の郊外にあるショッピングモール「プロムナーダ・リゾートモール」。2013年6月のオープン当初は、チェンマイに2カ所しかショッピングモールがなかったため、待望の郊外型巨大モールとして大きな話題を集めた。しかし不運なことに、その後、市街地に大型モールが2カ所も相次いで開業。アクセスの悪いプロムナーダは、集客とテナント確保に苦戦を強いられることになる。

人工池のせせらぎの上に設営されたステージを約700席が囲む。ステージから離れた席では、音楽を遠くに聞きながら会話を楽しむことができる

そこに手を差し伸べたのが、地元の若手実業家であるジャー・チュラヌカ氏。2棟のモールに挟まれた中庭部分、緑と豊かな水をたたえた開放感あふれる広場は、飲食店街の立地条件として申し分ないと判断。この広場を借り受け、モール本体とは別に独立して「屋台村」を運営する契約を交わした。「せっかくリゾートを意識して設計された素晴らしい広場なのに、有効活用されていませんでした。斬新な外観のモールは、そのまま音楽ライブのための最高の舞台装置になる。これ以上望めないぐらいの環境でした」と、ジャー氏は参入した理由を語る。

こうして、ショッピングモールの中庭を活用した屋台村「GREAT NIGHT OUT(グレートナイトアウト)」が、2015年10月から木曜日限定(営業時間は17~23時)でスタート。タイの屋台村は共用のテーブル・イスを用意し、着席して好きな屋台から料理を持ち寄って楽しむスタイルで、200~300席くらいが一般的。しかし、この屋台村はショッピングモール内ということもあり、700席以上も用意してある。それでも日が暮れるころにはすべて埋まり、空いているイスの奪い合いになるほど。業績低迷でテナントが次々に撤退していたモール本体にとっても、この屋台村は一躍目玉スポットとなり、集客アップの起爆剤となった。オープンから1年後には、来場客やテナントの要望に応えて営業日を木~日曜日に拡大した。

人気の最大の要因は、中庭の中央にある池の上に作られた特設ステージで行われる迫力満点のライブ演奏。もともとチェンマイでは、生演奏を楽しめる飲食店が少なくないが、多くはBGMのように聞き流されていて演奏に注目する人は少ない。一方で、「GREAT NIGHT OUT」は、実力が高くハイセンスな演奏を聴かせるプロのバンドを厳選し、ライブ演奏を目当てに来場する人が多い。「地元のアーティストに、多くの人の前で演奏するチャンスを与えたい、という思いもありました。屋台村の成功はもちろん、この場所から新しいスターを誕生させるのも夢です」と、ジャー氏は熱い思いを語る。

ステージを間近に望む席の人気が高く、特に週末には大盛況。観客が、立ち上がって踊り出すことも
屋台村を運営するジャー・チュラヌカ氏。モールとは独立した運営で屋台村を成功に導いたバイタリティあふれる若手実業家
『プロムナーダ・リゾートモール』は、シネマ・コンプレックスなどが入る大型の商業施設。広大な敷地を活かした開放的な空間と斬新なデザインが特徴。屋台村の成功によって、チェンマイのランドマークとしてさらなる成長が期待される

「毎日通える屋台村」を目指し、豊富なバリエーションを提供

臨場感たっぷりのライブ演奏と並ぶもう一つの売りは、約50店の屋台が提供するコストパフォーマンスの高いメニューの数々だ。地元特産の川魚プラー・タプティムの蒸し焼きが60バーツ(約200円)、タイ東北地方の名物「ソムタム」(青パパイヤのサラダ)が50バーツ(約170円)で、市内の大衆食堂並みの価格帯。一般的なショッピングモール内のレストランでこれらを食べようとすると、通常200~300バーツ(約700~1,000円)は必要になる。アルコール込みでお腹いっぱい食べても、一人300バーツ(1,000円)でおつりがくるため、値段を気にせず食事が楽しめるのだ。

最大65店もの営業が可能な屋台スペース。テーブルやイスだけでなく、屋台もすべて赤で統一され、屋台村としての一体感への徹底したこだわりが見受けられる

食事中のテーブルを見ると、一般的な屋台村で人気の高い揚げ物などの軽食は脇に追いやられ、野菜・ハーブがたっぷりの東北タイ(イサーン)料理や、まるごと一尾をぜいたくに使った魚料理などが並んでいることに気づく。ライブ演奏を鑑賞しながら1~2時間かけてゆっくり食事を楽しみたいということだろう。また、3リットル入りの「ビアサーバー」(420バーツ=約1,400円)も好評で、テーブルに所狭しと並んだ料理と酒を、音楽とともに楽しむエンタメ空間に、多くの人が虜となっている。

ジャー氏に、屋台メニューについての基準を聞くと、「安さ、おいしさ、提供時間の早さは必須。さらに、音楽を聴きながらゆっくり楽しめる料理であること。そして何度足を運んでも飽きないバリエーションの豊富さです」という。来場者に豊富な選択肢を提供するため、同じ料理を提供する屋台を2店舗以上出さないルールにしている。しかし、テナントのなかには、売上を上げるためにルールを破り、運営側に無断でメニューを変更しようとする店も少なくない。イメージどおりの運営を維持するために、まだまだクリアしないといけない課題が残っているのも事実だ。

来場者の主な年齢層は、20~30代で、週末には子ども連れのファミリーが目立つ。爆発的な人気を受けて、近日中に営業を週5日(水~日曜日)に拡大する予定で、ここまで来れば年中無休も視野に入ってくる。ジャー氏に今後の展望を聞くと、「今すぐ年中無休にしたとしてもおそらく採算はとれるでしょう。しかし、ほかの屋台村では味わえない料理を提供したり、出演してくれるバンド数を増やすなど、まずは全体のクオリティを上げていくのが先です。リピーターをどんどん増やして、お客様から毎晩営業してほしいという期待感が高まってきたとき、満を持して新しいステージに足を踏み入れるつもりです」と語る。謙虚に現状を見据えつつ、貪欲に高いレベルでの成功を目指しているジャー氏。1年後にこの屋台村がどんな姿となっているのか、これからの成長に今後も注目したい。

「プラー・タプティム」という淡水魚の蒸し焼き(1尾60バーツ=約200円)。旨辛酸っぱいタレにつけて食べるのがタイ流。ビールのお供に最適な一品
「ムーチュム」(199バーツ=約680円)はタイ東北地方の土鍋料理。直径15センチ程度だがどっしり深みがあり、2~3人前のボリューム。ハーブが効いたスープで豚肉や野菜をじっくり煮込む
GREAT NIGHT OUT@PROMENADAプロムナーダ・リゾートモール(Promenada Resort Mall)
192-193 Moo 2, Tumbon Tasala, Amphur Muang Chiang Mai, Chiang Mai
http://www.promenadachiangmai.com/

取材・文/横山忠道(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1タイバーツ=約3.4円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。