上海発 B級激辛串料理「串串」がブーム (前編)

昨年から中国・上海でブームを起こしている四川のローカルメニュー「串串」。ホルモン、海鮮、野菜などを串に刺し、激辛のタレにつけて食べる料理だ。前編では、テイクアウト専門店などでの人気ぶりをリポートする

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Vol.179

 近年、中国・上海では、「冒菜」(野菜やホルモンの辛口煮込み)など四川省の様々な庶民派激辛料理が繰り返しブームになっている。そんななか、2018年から注目を集めている料理が「串串(チュアンチュアン)」だ。

 「串串」は、もともとは、飲食店のメニューというよりテイクアウトで販売されるケースが多かった四川省のローカルメニュー。ホルモン(センマイ、ガチョウの腸、砂肝、鶏のハツなど)、海鮮(エビ、イカ)、野菜(レンコン、白菜、空芯菜、キノコ類など)、練り物(魚肉団子、カニカマ、ソーセージなど)といった具材を串に刺して(1本の串に1種類の具材を刺すのが基本)下茹でしておき、熱々の麻辣(花椒と唐辛子のしびれるような辛さ)のタレに浸けて仕上げる。これが、単価の安さや刺激的な辛さ、ほどよいカジュアル感も手伝って、上海で若い世代を中心に高い人気を集めている。

 前編では、そんな「串串」で人気を集めるテイクアウト専門店と、庶民的な飲食店をリポートする。

ランチだけでなく、おやつにも!大評判の串串テイクアウト専門店

 上海有数の繁華街が広がる静安寺駅周辺。高級ブランド店などが複数入る複合商業施設「Reel」の地下にある飲食店フロアで連日行列を作っているのが「哎哟麻呀川卤小吃铺(アイヨーマーヤーチュワンルーシャオチープー)」。2017年10月にオープンした「串串」のテイクアウト専門店だ。来店客は、店頭に並ぶ約20種類の具材から好きなものをチョイス。スタッフが麻辣のタレにくぐらせてから紙製の箱に入れて販売している。

店頭に並んだメニューは常時約20種。なかでも野菜は「ロール白菜」「ブロッコリー」など約10種類もあり、若い女性から高い人気を誇っている

 人気の具材は「厚厚de毛肚(肉厚センマイ)」(1本8元=約132円)。歯ごたえのあるセンマイのひだに、しびれるような激辛のタレが絡み、噛むほどに旨みがにじみ出る。ほかにも、弾力のある食感が特徴の「白鹵鴨腸(カモのホルモン)」や、独特の粘り気が麻辣の風味と合う「秋葵(オクラ)」、タレがよく染み込む「娃娃巻菜(ロール白菜)」、豆腐とかまぼこを足して割ったような独特の風味と食感を楽しめる「魚豆腐立方(魚肉豆腐)」(すべて4元=約66円)なども好評。ランチで購入する人は、10本くらいオーダーするケースが多く、これは近隣の食堂のランチ(40~50元=約660~825円)と同じくらいの価格。また、手軽に食べられるため、街歩きや通勤時などに小腹を満たすため、おやつとして5〜6本買う人も少なくない。

立ち食いや食べ歩きができるよう紙製の箱に入れて提供。左から「豆皮小結(結び湯葉)」「藕片(レンコン)」「黒木耳(キクラゲ)」「百叶(センマイ)」「鴨肫(カモの砂肝)」

 四川省とは異なり、上海には辛いものが苦手な人も少なくない。そのため、四川風の「麻辣ダレ」だけでなく、ニンニク風味で醤油ベースのタレ「蒜香(スアンシャン)」も用意。また、2018年の夏には、青山椒風味の冷たいタレ「麻呀藤椒(マーヤートンジャオ)」も期間限定で導入したところ、「辛いけど熱くなくて、味も爽やか」と話題になり、ヒットした。

夏場に用意した“冷たくて辛いタレ”「麻呀藤椒」が、若い女性を中心に大ヒット。写真の具材は、「黄喉(牛の器官)」「厚厚de毛肚(肉厚センマイ)」「ブロッコリー」

 あらかじめ具材を茹で、串をタレにくぐらせるだけで完成する串串は提供スピードが早いため、テイクアウトに向いている。店のあるビルが駅と直結しているため、通勤で電車を使うビジネス層や商業施設に買い物に来た人が客層の中心。具材に野菜が多く、ヘルシーなイメージもあって、特に20代女性から絶大な支持を得ている。

哎喲麻呀川鹵小吃鋪(哎哟麻呀川卤小吃铺)
上海市静安区南京西路1601号芮欧百貨B258

飲食店のメニュー&デリバリーでも大人気

 戦前に建てられた西洋建築が多く残る上海市内のフランス租界エリアは、“SNSで人気の飲食店”を意味する「網紅(ワンホン)店」(網=インターネット、紅=ホット)が集まる場所。「SNS映えする場所や料理」を求める10〜20代の女性たちがスマホを片手に行き交い、パンケーキやフレンチトーストが人気のダイナー、日本スタイルのかき氷を提供するカフェなどが軒を連ねている。そんな一角に店を構える「付小姐在成都(フーシャオジエザイチョンドー)」は、2017年11月にオープンした串串専門の飲食店。上海市内に6店舗を展開(2018年10月時点)している人気チェーンだ。

ステンレス製のボウルに入った麻辣ダレ(8元=約132円)に串を浸けて提供。中国の人は最初にまとめて注文する傾向があり、追加オーダーをする人はほとんどいないが、具材を追加注文する場合は、タレの料金ももう一度かかる

 「串串」の具材は約60種類と豊富。特に人気なのは「黒毛肚(黒センマイ)」(1本5元=約83円)で、薄く弾力のあるセンマイに辛いスープがよく絡む一品だ。また、まろやかなチーズが辛さを和らげる「芝士丸(チーズ入り魚肉団子)」(1本5元=約83円)のほか、四川料理の定番食材である「鴨舌(カモタン)」(1本3元=約50円)、イカのような歯ごたえと淡白な風味が楽しめる「黄喉(牛の気管)」(1本5元=約83円)などもそろえる。オーダーすると、別料金の麻辣ダレ(8元=約132円)に串が入った状態で提供される。

タレの辛さは4段階から選ぶことができる。もっとも辛さが抑えられている「不辣」(写真)でも、食欲をかきたてる辛みが口いっぱいに広がる

 1本あたりのボリュームは決して多くないが、具材の種類が豊富で、1人20本食べれば十分お腹は満たされる。価格帯は1本0.5〜5元(約8〜83円)で、平均客単価は50元(約830円)とリーズナブルな点も魅力のひとつ。

 また、「鮮榨芒果汁(フレッシュマンゴージュース)」(30元=約496円)などドリンクメニューも充実していて、庭付き3階建ての古い洋館を改装した店内では、夜はロックバンドなどの生演奏も楽しめる。

「空芯菜」(写真、0.5元=約8円)など、野菜だけで20種類以上のメニューがそろう。葉物野菜はスープによく絡むので、より強く辛さを感じられる

 学生でも財布を気にせず注文できる価格帯と、程よくカジュアルで気軽に楽しめるのが人気の秘密。主な客層は、学生や20代のビジネス層が中心で、女子会での利用も好調だ。また、最近の中国の飲食業界で急成長している「アプリによるデリバリー注文」の分野でも絶好調。スマホアプリから注文が入ると、専門業者が配送するシステムで、“タレに浸けるだけ”という圧倒的な提供スピードの早さがデリバリー事業でも成功のポイントとなっている。

 飲食店だけでなく、テイクアウトやデリバリーなど、様々な業態で躍進している「串串」。火鍋がブームとなった日本にも、上陸するかもしれない。

付小姐在成都
上海市徐匯区五原路137号
http://www.fuxiaojie.cn

取材・文/萩原晶子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1元=約16.5円
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