上海発 B級激辛串料理「串串」がブーム (後編)

中国・四川省のローカル串料理「串串」が上海で若者を中心にブームになっている。テイクアウト専門店などを取り上げた前編に続き、後編では若い女性をターゲットにした、比較的高単価の店での「串串」の人気ぶりを紹介する。

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Vol.180

 あらかじめ下茹でしておいたホルモンや海鮮、野菜などを串に刺し、麻辣ダレに浸けてから提供する料理「串串(チュアンチュアン)」が上海で人気を呼んでいる。もともと、四川省発祥の庶民的な料理で、前編で取り上げたようにテイクアウト専門店やカジュアルな飲食店で若い世代を中心に話題となっている。

 後編では、前編よりも高級業態の飲食店が「串串」を売りにし、若い女性を中心に集客している事例を紹介する。

富裕層やホワイトカラーに人気の串串ダイニングバー

 上海の中心部に位置する黄陂南路駅に直結する複合商業施設「K11」は、上海でも1、2を争う流行発信地。高級ブランドのテナントや美術館、話題のレストランなどが入っており、トレンドに敏感な女性たちで賑わっている。このビルの4階に2018年3月オープンしたのが、四川料理をメインにしたダイニングバーの「辣椒星球串串集合店CHILICHILI(ラージャオシンチウチュアンチュアンジーフーディエンチリチリ)」だ。

 「鉢鉢鶏(蒸し鶏のラー油漬け)」や「干鍋牛蛙(ウシガエルのスープなし鍋)」など、約30種類のメニューを提供しており、なかでも一番の売りが店名にも入っている「串串」。庶民的な料理である「串串」を、オシャレなダイニングバーで取り入れた理由は、高級感あるモダンな空間でゆっくりと味わってもらいたいという想いからだという。

ブロッコリー、センマイ、香腸(中国ソーセージ)、レンコンなど、様々な具材が楽しめる

 「串串」の具材は約30種類。「毛肚(センマイ)」「黄喉(牛の気管)」「麻辣鴨舌(カモタン)」といった定番のほか、タレの辛みをやわらげてくれる「芝士年糕(チーズ入り餅)」、スープがよく絡むよう細かく切り込みを入れ、濃厚な大豆の風味も味わうことができる「千叶豆腐(切り込み入り干し豆腐)」などの手の混んだ具材や、独特のコリコリした食感を楽しめる「郡把(カモの食道)」、鶏の砂肝より柔らかく、ややレバーにも似た風味の「小郡肝(カモの砂嚢)」、コラーゲンが含まれていることから女性に人気の「無骨鳳爪(骨なしもみじ)」(すべて1本4元=約66円)など、他店の「串串」にはない珍しい具材もそろえている。オーダーは12本から受け付けている。

「串串」と同じタレで具材を煮込んだ「冒菜」も提供。「冒鴨血(鴨の血)」(写真)のほか、「豚脳(豚の脳みそ)」「あさり」「寛粉(厚みがあり幅の広い春雨)」がある

 また、串を刺すと崩れてしまう柔らかい具材は、「串串」とほぼ同じ麻辣味のスープで煮込んだ「冒菜(ホルモンや野菜を串に刺さず、麻辣風味に煮込んだ料理)」として提供される。一番人気は「冒鴨血」(19元=約314円)。鴨の血を豆腐のように固めた定番食材「血豆腐」を煮込んだもので、なめらかな食感とほのかなレバーのような風味、激辛スープが融合してクセになる味わいを生み出す。

 「串串」によく合うドリンクとして人気なのが「莫吉托(モヒート)」(35元=約574円)。ミントの清涼感が、激辛の串串によく合う。

来店客の8割が女性。おしゃれな空間で「莫吉托(モヒート)」などと一緒に食べられ、庶民的な食べ物というイメージが強かった「串串」が変わりつつある

 近年、上海では健康志向のホワイトカラーが増え、庶民派料理や屋台料理を高級化したレストランが人気を集める傾向にある。アッパーミドル層にとっても、「串串」に代表される昔ながらのカジュアルな料理は魅力的だが、一方で店内の清潔感やおしゃれ度、食材の安全性などが整っていないと、なかなか足が向かないのかもしれない。「酸奶冰淇淋(フローズンヨーグルト)」(19元=約314円)をはじめとする豊富なデザートも好評で、客単価は100元(約1650円)。「串串」をおしゃれに楽しめる店として20~30代の女性を中心に絶大な人気を誇っている。

辣椒星球串串集合店CHILICHILI(ラージャオシンチウチュアンチュアンジーフーディエンチリチリ)
上海市淮海中路300号K11購物芸術中心4階

高級四川料理店でも串串が人気に

 1900年代初頭から上海随一の繁華街として栄え、現在も多くの買物客が行き交う大通り・淮海中路。その並びに建つ複合商業施設「iapm」6階に2017年8月オープンしたのが、市内に7店舗を構える四川料理店「孔雀」の系列店「孔雀皇朝(コンチュエホワンチャオ)」。女性を意識した店づくりをしており、「孔雀」よりワンランク上の高級業態だ。

 ディナーでは前菜が約30種類、メインが約20種類そろっており、「串串」も前菜の一つとしてオープン当初から人気が高い。同じ四川料理でも庶民の味である串串を高級料理店で取り入れた理由を、広報のカレン・ジャン氏は「伝統的な味をより洗練させ、ほかの店にはないスタイルで提供したいと考えました」と語る。

「楽山冷串串」は7種類の串串のセット。そのうち、「鶏肫(鶏の砂肝)」「金銭肚(牛のハチノス)」「鴨肫(カモの砂肝)」「鴨郡把(カモの食道)」は固定で、必ず入れている

 「串串」の特徴は、来店客が具材を選ぶのではなく、店が決めた7本セットであること。「楽山冷串串」(53元=約875円)というメニュー名から連想できるように、他店とは違って冷製タレに浸けているのもポイントだ。タレは花椒とゴマの香りが効いていて上品な辛さ。激辛ではあるが油っぽさがなく、後味もスッキリまろやかだ。「四川料理は、唐辛子などのスパイスと油で胃がもたれることも少なくありません。しかし、当店の料理は油を極力使わないようにしているため、すっきりと食事を終えられると好評です」とジャン氏。

 7つの具材のうち、厚みがあり、ほのかに牛の内臓の香りがする「金銭肚(牛のハチノス)」、「鶏肫(鶏の砂肝)」、「鴨肫(カモの砂肝)」、淡白な風味で歯ごたえのある「鴨郡把(カモの食道)」の4種類は固定。残りの3種類は入荷状況によって毎日変わり、「レンコン」「茎レタスのスライス」「スパム」などが入る。

日替わりの具材は3種類。写真は「レンコン」「茎レタスのスライス」「スパム」。ほかに、「エビ」「もみじ(鶏爪)」などが入る日もある

 「上海の若い女性はそれほどアルコールを飲まないため、ノンアルコールカクテルが人気です」と、ジャン氏。さわやかな青リンゴ味をベースにした「苹果莫吉托(アップルモヒート)」や、ロングアイランドアイスティーをベースにした「孔雀氷茶(ピーコックアイスティー)」(ともに38元=約627円)など、辛い料理に合う甘口のノンアルカクテルがヒット中だ。

青リンゴの味をベースにした「苹果莫吉托(アップルモヒート)」(写真右)。激辛の串串には、さわやかで甘めのドリンクがよく合う

 主な客層は、20~30代の女性グループで、客単価は180元(約2970円)。「インテリアをピンクに統一することで、あえて男性が入りにくい雰囲気にし、ターゲットである女性が存分に食事を楽しんでもらえるようにしました」(ジャン氏)。「庶民的な四川料理を食べたいけど、食堂や屋台の雰囲気は苦手」という、若い女性のニーズを敏感に察知して、店づくりに落とし込んだことが最大の成功ポイントになったといえる。

孔雀皇朝(コンチュエホワンチャオ)
上海市淮海中路999号iapm6階603室-7階702室
http://fccworld.cn/home/?lang=zh-hans

取材・文/萩原晶子(海外書人クラブ)
※通貨レート 1元=約16.5円
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