(前編)タイ発 多彩なオリジナルカクテルが人気

タイの首都・バンコクでは、最近タイならではの食材をつかったオリジナルカクテルが人気だ。外国人観光客からも人気が高く、見た目にもユニークでおしゃれなカクテルの開発について取材をした

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Vol.185

経済的な発展により中間層が増え、おしゃれなバーやレストランで食事やお酒を楽しむ人が多くなっているタイの首都・バンコク。欧米人からの在住者や観光客の多いバンコクでは、以前からレベルの高いクラシックカクテルを出す店が少なくなかった。そんな状況を背景に、2010年代前半からオリジナルカクテルのブームが起こり、タイならではの食材を使ったり、タイ料理をイメージしたオリジナルカクテルが話題を集めている。 前編では、タイの食材を使ったカクテルで人気の2店舗を紹介する。

「タマリンド」「ベルノキ」「ローゼル」などを使った素材のカクテルで人気店に

 バンコク市内の北に位置しているランナム通りは、穴場のレストランやカフェが軒を連ねるエリア。その並びにあるプルマンホテルの1階に、タイらしさを前面に出したオリジナルカクテルを提供する「グレン・バー」が2007年10月オープンした。

 数あるオリジナルカクテルのなかで代表的なのが、「リン・カム・ラム・コーン」(350バーツ=約1,231円)。東南アジア各国を流れるメコン川からの恵みをコンセプトに開発したカクテルで、2019年版「ミシュランガイドバンコク」の特別イベント会場でも提供された自慢の一品。サトウキビとタイ米を使ったリカー「メコン」(アルコール度数35度)をベースに、タイ料理でよく使われる香辛料ガランガルのほか、レモングラス、ハーブの1種・パンダンの葉をブレンドした「香草茶」、東南アジアで広く栽培される梅干しのように甘酸っぱいマメ科の果実・タマリンドのシロップ、バナナのシロップを加えたもので、豊かな香りとほのかな甘みが特徴的な一杯だ。

スライスしたバナナをのせて出される「リン・カム・ラム・コーン」(右)。タイでよく食べられる揚げたバナナのチップ(左)も一緒に供される

 また、タイ語で「刺激的な爽快感」を意味する「スッジャイ」(350バーツ=約1,231円)も人気のカクテル。タイ語でマトゥームと呼ばれ、アジアの熱帯地域に広く分布する柑橘系のフルーツ「ベルノキ」をラム酒に漬け込み、中国系タイ人が好む梅のシロップを加えたもの。ラム酒のパンチある味わいとベルノキの酸味が一体となって、名前のとおり暑さを吹き飛ばしてくれそうな爽快感が楽しめる一品だ。

「スッジャイ」(左)の上には乾燥した甘いベルノキがのせられている。また、梅のシロップ(中央)とラム酒(右)で好みの味に変えられるのも好評。「実験のように味を調節して楽しんでほしい」という想いを込めて、シロップとラム酒はフラスコに入れて提供している

 ほか、タイ語で「魅惑」を意味する「サネー」(350バーツ=約1,231円)は、アオイ科の熱帯フルーツ「ローゼル」の果汁を使ったラム酒ベースのカクテル。鮮やかなダークレッドが印象的で、特に女性からの人気が高い。ローゼル自体に味はほとんどなく、シナモンのような香りを持つトウシキミ(香辛料「八角」の原料)で香りづけをしている。

魅惑的な色が特徴の「サネー」。提供直前にペッパーミルで挽いたトウシキミをかけて、香りを際立たせている。カクテルの上には飾りとしてトウシキミをのせる

 これらのオリジナルカクテルをメニューに導入したのは2016年8月。それまでは、定番のクラシックカクテルやリカーを提供していたが、他店との差別化のためにオリジナルカクテルのレシピをタイの有名なバーテンダーに開発してもらった。来店客の半数がホテルの宿泊客で、欧米からの旅行者が中心。そして残りの半分がバンコクに在住する欧米人だ。見た目にも楽しいタイならではの素材を使ったカクテルが好評で、オリジナルカクテルの提供を開始してから集客力が格段に上がったという。

グレンバー(Glen Bar)
Pullman Bangkok King Power
8/2 Rangnam Road, Phayathai, Bangkok
https://www.pullmanbangkokkingpower.com/restaurant-bar/best-bar-bangkok-glen-bar/

タイらしい香草や唐辛子を使ったカクテル

 バンコク市内のラン・スアン通りは、アメリカ大使館を初めとする各国大使・領事館のほか、外資系大手企業のオフィスビルもあり、欧米系のビジネス層の往来が多い場所。その一画にある「ホテル・ミューズ」と同時に2012年11月オープンしたのが、「ザ・スピーク・イージー・ルーフトップ・バー」だ。店名にあるようにホテルの屋上に位置している。

 ここでもタイらしいカクテルが人気を呼んでおり、「サイアム・クラッシュ」(370バーツ=約1,301円)もその一つ。コブミカンの葉などの香草を2~3日漬け込んだウォッカをベースに、タイ産の柑橘類のマナオ(ライム)、レモングラス、唐辛子などを使っている。香草の香り、柑橘系の酸味、唐辛子の辛さが一体となった刺激的な味で、特に欧米人から好評だ。

タイならではの素材を使った「サイアム・クラッシュ」。唐辛子などをトッピングして彩りにも気を配っている

 また、「モヒートタイ」(320バーツ=約1,126円)は、タイ南部にある人気ビーチリゾート・プーケット島で製造されているシャロン・ベイというラム酒をベースにしたカクテル。ラム酒はサトウキビの搾り汁などを原料とするのが一般的だが、シャロン・ベイは生のさとうきびをそのまま発酵させており、従来のラム酒より香りが高い。このラム酒にスイートバジルをふんだんに入れている。強いラムとスイートバジルの香りの組み合わせが爽快で、マナオの搾り汁もアクセントになっている。

スイートバジルの緑色が印象的な「モヒートタイ」。見た目どおりの爽快感が人気の秘密だ

 同店ではもともと、本格的なクラシックカクテルやジンなどを提供していたが、タイならではのカクテルを求める声が多く、タイの素材を使ったオリジナルカクテルを導入した。「コンセプトは“一日の仕事の後、夜風に吹かれながら飲む一杯に相応しい刺激的なカクテル”です」と、レシピを開発したバーテンダーのラーサック・ジャムカッドシン氏は語る。

オリジナルカクテルを考案したバーテンダーのラーサック・ジャムカッドシン氏。外国人の来店客から「自分の国に戻ってからも飲みたい」という要望があれば、惜しみなくレシピを教えるという

 ユニークなアイデアのレシピだが、クラシックカクテルをベースにしていることから飲みやすく、来店客からの反応も上々。王道と独自性を絶妙にブレンドすることで生まれた、タイならではの新しいカクテルが好評を博している。

スピーク・イージー・ルーフトップ・バー(The Speakeasy Rooftop Bar)
Muse Hotel 55 Lang Suan Road, Lumphini, Bangkok
https://hotelmusebangkok.com/restaurants-bars/bangkok-rooftop-bar-speakeasy/#the-bar

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.52円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。