(後編)米国発 飲食店×機械化の最前線

日本でも飲食店の悩みの種になっている人件費や家賃。これらのコストを抑える対策として、アメリカでは、近年飲食店の機械化が進んでいる。後編では、ホールで活躍するロボットなどの事例を紹介する。

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Vol.188

 人件費や家賃は、飲食店経営の必要経費だが、同時に悩みの種にもなっている。こうしたコストを抑えるための対策として、サンフランシスコやシカゴでは、機械化を進めるレストランが増えつつある。

 前編では、調理を担当する機械を導入している飲食店を取り上げたが、後編では、ロボットなどがホールで活躍する2店舗を紹介。そのメリットに迫る。

フードもドリンクもお任せ! 頼れるウェイターロボット

 SF映画に出てきそうなかわいらしいロボットが、サラダを乗せて、客席の間を縫うようにすいすいと進んでいく。進行方向に人や物を感知すると、自動でよけたり、しばらく止まって障害物がなくなるのを待って、また動き始める。このロボットの名前は「ペニー(Penny)」。周囲にいる来店客も笑顔でペニーの動きを見守り、「ペニー、頑張ってるね」と声をかけたりしているのが印象的だ。

 このペニーがウェイターとして働いているのが、1987年に創業し、現在10店舗を展開するカジュアルなピザレストラン「アミーチズイーストコーストピッツェリア(Amici’s East Coast Pizzeria)」のマウンテンビュー店だ。サンフランシスコから車で南へおよそ1時間、グーグル本社のお膝元として賑わう町マウンテンビューの中心部近くに位置している。

自動でテーブルへ料理などを届けるペニー。人件費の削減に貢献している

 ペニーは普段、キッチンとホールの間にあるレジカウンター横で待機している。料理ができあがると、スタッフが皿を乗せ、レジカウンター内のタブレットで行き先のテーブル番号を指定。すると、ペニーは席までの最短ルートを通って料理を運んでいく。

 ペニーが客席に料理を運ぶと、来店客か近くにいるスタッフが皿をテーブルへと移動させる。その後、食べ終えた食器をキッチンに運んだり、会計の際に客席からレジ(またはその逆)に伝票やクレジットカードを運ぶのもペニーの仕事だ。

ペニーが運んできた料理をスタッフがテーブルへ。「休憩時間を用意する必要もありませんし、絶対に無断欠勤もしないから助かります」と、同店の創業者であるピーター・クーパーシュタイン氏は笑顔を見せる

 ペニーを開発したのは、サンフランシスコ近郊のベアロボティックス社。創業者のジョン・ハ氏は、グーグルのITエンジニアを経て韓国料理店の経営者になった異色の経歴の持ち主。店を運営するなかで、人材確保の難しさやホールの仕事の大変さを痛感したことから、スタッフの負担を減らし、オペレーションの効率が上がるようなロボットを開発したという。

 「アミーチズイーストコーストピッツェリア」は、もともと慢性的な人手不足に苦しんでいたこともあり、ペニー導入後も、ホールスタッフの数は減らしていない。だが、同じ人数でも以前より余裕を持って作業ができるようになり、スタッフと来店客が会話する時間も増えて、客単価やチップの金額も上がったという。

 そして、何よりも効果を実感しているのは、ペニー自体の話題性だ。子どもを中心にペニーは大人気で、子ども連れのファミリーの新規客が増加。幅広い層の来店につながっているという。「ペニーに対して好意的な意見が多く、お客様から苦情が出たこともありません。今は台数が少なく手に入りにくいですが、いずれ、ペニーが量産されるようになったら、ほかの系列店にも導入したいですね」と、同店の創業者であるピーター・クーパーシュタイン氏は語る。

専用のトレーを使えば、最大12個のドリンクをこぼさずに運ぶことができる

 まだ、ペニーの導入店舗は少ないが、2019年5月にはより使いやすい第2世代のペニーが発表された。月額定額制(価格は導入する台数などによる)のリース契約でレストラン向けに提供されていく予定。リースなので初期投資を抑えられることもあり、今後、ペニーを利用する飲食店は増えていくかもしれない。

アミーチズイーストコーストピッツェリア マウンテンビュー店(Amici’s East Coast Pizzeria Mountain View)
790 Castro Street, Mountain View, CA 94041
https://www.amicis.com/

「全自動風」レストランで、提供までの時間も大幅短縮

 次に紹介するのは、シカゴの市街地の賑やかな目抜き通りにある「ワオバオ(Wow Bao)」のミシガン通り店。8種類の中華まんを売りに、カレーや丼もの、スープなども販売するアジア系ファストフードチェーンだ。店内に入ってすぐに気づくのは、ホールにスタッフが1人もいないこと。そして、中が見えるようになっているロッカーのようなボックスが12個並んでいる。これが人の代わりに料理の提供を行うシステム「カビー(Cubby)」だ。

写真左奥にあるタブレットでオーダーすると、右にあるボックスに料理が用意される仕組み

 来店客は、まず専用のタブレットで自分の名前を入力し、料理をオーダー。すると、カビーの上にある画面に、自分の名前とボックスの番号が表示される。一方、調理は奥のキッチンでスタッフが行い、完成した料理をボックスの反対側の扉から入れる仕組み。スタッフがボックスに料理を入れている間だけ、来店客側からボックス内を見られないようにしているため、まるで手品のようにいきなり料理が現れたように感じる。オーダーから料理の受け取りまで、来店客がスタッフと一度も接することなく完結するユニークな仕組みも話題になっているポイントだ。

ボックスの扉は透明で、中の様子が見える。料理の完成を待つ間、扉にはかわいらしいアニメーションが表示される

 カビーを開発したのは、サンフランシスコにある「イーツァ(Eatsa)」という企業。同社は、2015年からカビーを使った「世界初の無人レストラン」(実際にはキッチンスタッフは常駐)を自社で展開した後、ほかのレストランにも同様のシステムを販売するビジネスに軸足を移した。

 「ワオバオ」11店舗のうち、カビーを導入しているのは3店舗。社長のジェフ・アレクサンダー氏によれば、2017年12月に導入して以来、大きなトラブルもなく、来店客にも好意的に受け入れられているという。注文用のタブレットが5つ、受け取り口が12個もあることで待ち時間が短くなり、注文からわずか2分ほどで料理が受け取れるのが人気の理由。「店員と会話しなくてよい気楽さも、若い世代に喜ばれているようです」と、アレクサンダー氏は分析する。

 オーダーを受けたり、料理を渡したりするスタッフが不要なので、当然、人件費も抑えられている。導入前は常駐するスタッフは3人以上は必要だったが、カビー採用後は2人で十分。1人がキッチンを担当し、もう1人はホールでタブレットの使用方法がわからない人への対応と、キッチン業務を兼務している。曜日や時間帯などによっては、1人だけで業務を回すことも可能だ。一方で、「カビーの導入費用は、様々な効果を計算に入れたうえでも、決して安いとは言えません」(アレクサンダー氏)とのこと。費用の面ではハードルが高く、多くの飲食店が気軽に導入できるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。

売りの「中華まん」は1時2.19ドル(約245円)で、2個セットは4.29ドル(約480円)。テリヤキチキン味やスパイシー・モンゴルビーフ味などの「肉まん系」6種類と、チョコレート味、ココナッツカスタード味の「デザート系」2種類を用意。 右奥は「タイ風ハーブ骨スープ」(2.89ドル=約325円)

 ロボットや様々な機械を導入することで、飲食店の業務が効率化されるのは間違いない。ただ、人だからできる温かみのある接客は、来店客にとっての居心地のよさにも大きく関係するはず。テクノロジーを上手に活かしつつ、人ならではのサービスを残していくことも重要になりそうだ。

ワオバオ ミシガン通り店(Wow Bao Michigan Avenue)
200 N. Michigan Avenue, Chicago, IL 60601
http://www.wowbao.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約112円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。