(前編)アメリカ発 コーヒー&お茶を“スパークリング”で楽しむ!

アメリカ西海岸、サンフランシスコで近年人気となっているのが〝スパークリング系のコーヒー&ティー〟。すっきり爽やかで、ビールのような味わいもあると好評だ。前編ではコーヒーを提供している2店舗を紹介する。

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Vol.193

 アメリカ西海岸のサンフランシスコには、日本でも人気の「ブルーボトルコーヒー」1号店をはじめ、素材にこだわるサードウェーブ系のコーヒー店が集うほか、アジア系住民が多いこともあって、様々なお茶を提供するティー専門店も軒を連ねている。そんなカフェ激戦地だからこそ、どの店も来店客の心をつかむため、これまでにないコーヒーやお茶の楽しみ方の提案に力を注いでいる。

 そんななか、着実に人気を集めて定番になりつつあるのが、スパークリングのコーヒーやティーだ。炭酸水を使ったものや窒素を注入して作ったものがあり、独特のさわやかな口当たりが魅力だ。

 前編では、スパークリングコーヒーが看板メニューとなっているカフェを紹介する。

たっぷりのクリームがアクセント。暑い日に飲みたい炭酸コーヒー

 サンフランシスコのサウス・オブ・マーケット地区は、IT系企業が集中するビジネス街。その一角に建つオフィスビルの7階に、サンフランシスコを代表するサードウェーブ系カフェチェーン「アンディタウン・コーヒー・ロースターズ」の4号店がある。2019年1月のオープンから半年たらずで連日行列ができる人気店に成長している。

 看板メニューは、「サンフランシスコで一番おいしいドリンク」とも言われる「スノウィー・プローヴァー」(5ドル=約535円)。一見するとコーヒーフロートのようだが、中身はひと味違う。

炭酸水入りのアイスエスプレッソ「スノウィー・プローヴァー」。注文数は、4店舗合計で月に5,000杯をゆうに超える。このドリンクのために遠方からやって来る人も少なくない

 作り方は、まず、氷の入ったグラスに炭酸水を250cc注ぎ、自家焙煎のコーヒー豆で作ったエスプレッソダブルショット(60cc)とティースプーン1杯の自家製ブラウンシュガーシロップを加える。そこにテーブルスプーン山盛り1杯分の濃厚なホイップクリームを乗せて完成。シュワシュワと泡立つエスプレッソ・ソーダは、通常のアイスエスプレッソと比べてさわやかで、炭酸の刺激とまったりとしたクリームとの組み合わせが楽しい。クリームとコーヒーを別々に楽しむもよし、しっかりと混ぜ合わせて飲むもよしだ。

「ふわふわ」ではなく、しっかりと固めに泡立てた生クリームを乗せて完成。さわやかな炭酸に負けない存在感を追求した結果、この固さにたどり着いたという

 共同オーナーのローレン・クラブ氏とマイケル・マクロイ氏は、2014年に1号店を開くにあたり、マイケル氏の故郷であるアイルランドの食文化をメニューに取り入れた。例えば、名物の「スノウィー・プローヴァー」も、エスプレッソにウイスキーとクリームを加えたカクテル「アイリッシュ・コーヒー」がヒントになっているという。このドリンクは発売後すぐに評判を呼び、店の人気を支える商品に。2018年には、エスプレッソの代わりに抹茶を使い、炭酸水を注いでクリームをのせた「抹茶スノウィー・プローヴァー」(5ドル=約535円)も開発し、人気を獲得している。

「抹茶スノウィー・プローヴァー」。オリジナルの「スノウィー・プローヴァー」よりもあっさりとして、さらにさわやかな味わい

 周辺はベンチャーのIT系企業が多いビジネス街ということもあり、来店客は近隣で働く20~40代のビジネス層が中心。「スノウィー・プローヴァー」が仕事中にリフレッシュできるドリンクとして高い人気を集めている。

アンディタウン・コーヒー・ロースターズ(Andytown Coffee Roasters)
181 Fremont Street, San Francisco
https://www.andytownsf.com

まるで黒ビール!? 濃厚なナイトロ・コールド・ブリュー

 サンフランシスコのダウンタウン地区にある「マザラン・コーヒー(Mazarine Coffee)」は、サードウェーブコーヒーを提供するカフェ。2014年12月に、観光客や通勤客で賑わう目抜き通り、マーケット・ストリート沿いにオープンした。

 この店の看板メニューの一つが、「ナイトロ・コールド・ブリュー」(4.75ドル=約508円)。「ナイトロ」とは、窒素を意味する「ナイトロジェン」の略で、「コールド・ブリュー」は「冷たいまま淹れた」の意。20~24時間かけて水出しした濃厚なアイスコーヒー(コールド・ブリュー)を水で割り、専用の容器の中で窒素ガスを注入したスパークリングコーヒーだ。背の高いグラスに注がれ、色合いといい、表面を覆うふんわりとした泡といい、まるで黒ビールのよう。味わいもアイスコーヒーというよりも黒ビールに近く、窒素でできた泡は炭酸の泡よりも細かいため、前半で紹介した「スノーウィー・プローヴァー」と比べるとコーヒーの口当たりがまろやかで、苦みはあまり感じられない。その代わり、強いコクとほのかな甘みがあり、ナッツやチョコレート、柑橘類を思わせる豊かな香りが口に残る。窒素ガス自体に味はないが、コーヒーの味が変わったように感じられるのがおもしろい。

注ぎたての「ナイトロ・コールド・ブリュー」。窒素ガスによるきめ細かな泡が上にのぼっていく。液体中の泡が表面に上がりきってしまう前に、一気に飲むのがおすすめ

 「普通のコーヒーだけではつまらないと考え、『ナイトロ・コールド・ブリュー』をメニューに加えました」と、マネージャーのチン・リャオ氏は語る。当時、「ナイトロ・コールド・ブリュー」を出す店は全米でも数えるほどしかなかったという。様々な試行錯誤を経て完成した同店のナイトロ・コールド・ブリュー」は、新しいもの好きで味にうるさい地元のコーヒーファンをうならせた。ビールのようだがアルコールフリー、まろやかだが乳製品を使わず低カロリーという点で、健康志向の人にとって魅力的だったこともヒットの要因といえそうだ。

ナイトロ・コールド・ブリュー専用のタップ。窒素入りのコールドブリューを勢いよくグラスに注ぐことで、クリーミーな泡が生まれる

 オープン当初はほとんど知られていなかった「ナイトロ・コールド・ブリュー」だが、数年後にはスターバックスコーヒーも提供を開始して認知度が急激に高まった。今では、サンフランシスコの人気カフェの多くで飲むことができる。

 「マザラン・コーヒー」の店名は、パリの歴史ある「マザラン図書館」からとったもの。「いろいろな文化に触れられる図書館のように、多くの人にコーヒー文化を楽しんでもらえる場所にしたい」という想いが込められている。スタイリッシュな中にも温かみを感じさせる店内は、平日は主にビジネス層、休日は観光客でいつも賑わってる。

開店当時からのメンバーでマネージャーを務めるチン・リャオ氏。ナイトロ・コールド・ブリューの価格は、アイスコーヒーに比べおよそ2割増しだが、月に約1,000杯を売り上げる人気ぶり

 スパークリングにすることで、コーヒーの口あたりのみならず味わいまで劇的に変化し、新たなコーヒーの魅力に目覚める人も多い。スパークリングコーヒーの可能性はまだまだ広がっていきそうだ。

マザラン・コーヒー(Mazarine Coffee)
720 Market Street, San Francisco
https://mazarinecoffee.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約107円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。