(前編)米国発 モチモチの「米粉スイーツ」が流行中

アメリカの西海岸では、「カリフォルニアロール」のようにアジアの料理が独自の進化を遂げる例が少なくない。そんななか、近年、注目を集めるのが「米粉」を使ったスイーツだ。モチモチ食感で人気の商品を取材する。

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Vol.197

 アジア系の住民も多く住むアメリカ西部では、寿司から派生した「カリフォルニアロール」に代表されるように、アジアの料理が独自の進化を遂げることも少なくない。

 その一つとして、最近人気を集めているのが、「もち米粉」を使ったスイーツだ。以前は、求肥の中にアイスクリームを入れた「アイス大福」が主流だったが、近年はもち米粉を用いたマフィンやドーナツ、ワッフルなどバリエーションも多彩になっている。「モチモチ」食感でアメリカ人を魅了する新たな米粉スイーツの数々を紹介する。

米粉スイーツのブームを牽引する「モチ・マフィン」

 アメリカ西海岸に位置するカリフォルニア州の都市・バークレー。その郊外の住宅地、おしゃれなカフェやブリュワリーの集うエリアに、2018年、テイクアウト専門店「サード・カルチャー・ベーカリー(Third Culture Bakery)」がオープンした。

 看板商品は、もち米粉を使った「モチ・マフィン」(3.75ドル=約401円)。内側はしっとり、モチモチした重めの食感で、外側はカリッと焼けている。甘さは控えめで、ココナッツミルクとパンダン(東南アジアでよく使われるハーブ)の香りがよく合う。

もち米粉を使った「モチ・マフィン」。小麦粉で作る通常のマフィンに比べ、焼き時間が2〜3倍長くかかるが、独特の弾力を持っているのが特徴だ

 モチ・マフィンは、創業者でシェフのサム・ブタールブタール氏が考案したもの。以前、彼がフランス風のパンを売りにしたポップアップショップを経営していたときに、「グルテンフリーの商品が欲しい」という来店客からの要望で、小麦粉ではなくもち米粉を使ったスイーツを開発した。それが予想以上に好評だったことから、自分の出身地であるインドネシアに伝わる、米粉を使った伝統菓子「クエラピス」をヒントに「モチ・マフィン」を生み出したという。グルテンフリーであることや、独特の食感が話題となり、現在は週に約1万個を売り上げる名物となった。

 さらに、「モチ・ドーナツ」(3ドル〜3.25ドル=約321円〜348円)もモチ・マフィンに次ぐ人気商品。もち米粉をベースにした生地を焼き上げ、様々な種類のグレーズをかけたもので、こちらもモチモチ感が特徴だが、生地はモチ・マフィンに比べて軽く、ふんわりとしている。グレーズの種類は季節ごとに変わり、平日は約6種、週末は約13種を販売している。

種類の豊富な「モチ・ドーナツ」。左端から時計回りに黒ゴマ、抹茶、ブルーベリー・レモン、ウベ(ヤムイモ)・ココナッツ、マンゴー・パッションフルーツ。どのフレーバーも、素材の味が鮮やかに感じられる

 写真映えするカラフルさも魅力だが、実はすべて素材の色で、着色料は使用していない。「例えば、人気の『黒ゴマ』のグレーズは、ごまを石臼で36時間ひいて作ったもの。じっくりと手間暇をかけることで、味だけでなく、色もよくなります」とブタールブタール氏。米粉の生地は小麦粉に比べて味が強くないので、グレーズの味がしっかり引き立つのだという。

共同創業者のサム・ブタールブタール氏(左)とウェンター・シュー氏(右)。ともにアジアにルーツを持つ両氏は、「慣れ親しんだアジアの味をアメリカの食文化と融合させたい」と笑顔を見せる

 客層は20~30代の女性が中心だが、一度にたくさん購入する年配のリピーターも少なくない。出発点はグルテンフリーの商品を開発することだったが、もち米ならではの食感が新たなファン獲得につながっている。

サード・カルチャー・ベーカリー(Third Culture Bakery)
2701 8th Street, Berekley
https://thirdculturebakery.com

カリカリ&モチモチの「モチ・ワッフル」

 サンフランシスコの観光地ゴールデンゲートパークの南側に位置する飲食店街に、2018年の5月オープンしたカフェ「ゲーム・パーラー(The Game Parlour)」。ここで名物となっているのが「モチ・ワッフル」だ。もち米粉で作った4種類(プレーン、チョコレート、抹茶、黒ゴマ)の生地をベースに、フルーツなどをトッピングした7種類のワッフルを提供している。

 一番人気は、「バナナグラム」(2個8.5ドル=約910円)。プレーンの生地にバナナ、ヌテラ(チョコレート風味のヘーゼルナッツペースト)、チョコレートソース、ココナッツ風味のホイップクリームをのせた一品。焼きたての生地は、表面がカリッと香ばしく、中はもっちりとして、食べごたえがある。

人気の「バナナ・グラムズ」。ワッフルは外がカリカリで中はもちもち。サイズはそれほど大きくないが、確かな満腹感を得られる

 同じく、「バトルシップ」(2個で8.5ドル=約910円)も人気の商品。黒ゴマをたっぷり練り込んだ生地に、イチゴ、コンデンスミルク、ホイップクリームをトッピングしたもの。

「バトルシップ」の生地には、黒ゴマが練り込まれていることもあり、まるでこんがり焼いた餅を食べているような感覚になる

 もち米粉のワッフルは、創業者ブライアン・リュウ氏の家族が以前から家でよく作っていたメニューとのこと。約8年前、日本文化をテーマにした祭に出品したところ好評だったため、メニューに取り入れたという。

 オープン当初は、モチモチの食感になじみのない来店客から、「生焼けでは?」と聞かれることもあったという。現在では、認知度の上昇とともにファンも増え、モチ・ワッフルを目的に来店する人も多い。この人気について、リュウ氏は「グルテンフリーの商品なので、社会的なニーズにも合って人気が出たのかもしれません。ただ、最大の魅力は、カリカリとモチモチという異なる食感の組み合わせだと思います」と語る。

創業者のブライアン・リュウ氏は、「私のルーツは中国なので、餅や米粉は家庭の料理にもよく使う身近な存在でした」と語る

 客層は男女を問わず、若者からファミリー、高齢者までと幅広い。もち米粉ならではの「モチモチ食感」に魅せられた人は多く、グルテンフリーであることも手伝い、食の嗜好や人種、年齢に関係なく、もち米のスイーツは多くの人たちから受け入れられている。

ゲーム・パーラー(The Game Parlour)
1342 Irving Street, San Francisco
https://www.thegameparlour.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約107円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。