(後編)米国発 モチモチの「米粉スイーツ」が流行中

近年、アメリカのサンフランシスコ周辺で「もち米粉」を使ったスイーツが人気だ。グルテンフリーのニーズの高まりとあいまって、モチモチの食感が評判となっている。後編では、前編同様、人気のスイーツを紹介する

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Vol.198

 米国・サンフランシスコ近辺で、「もち米粉」を使ったスイーツが流行している。求肥でアイスを包んだ「モチ・アイス」の人気を追いかけるように、マフィンやドーナツ、ワッフルなど様々な種類のスイーツが登場。グルテンフリーの需要の高さも、人気の理由のひとつだが、なんといっても「モチモチ」の食感が新鮮で、現地の人々を魅了しているようだ。

 後編でも、米粉スイーツで人気の飲食店2店舗を紹介する。

しっとり、もっちり、風味豊かなモチ・パンケーキ

 サンフランシスコから車で30分ほど南にある小さな町、サン・ブルーノ。その繁華街のはずれに、ブランチ専門店「モーニング・ウッド(Morning Wood)」がある。オープンは2017年12月。日本と韓国にルーツを持つハワイ出身のシェフが、韓国系アメリカ人の妻と営む人気店だ。メニューには、ロコモコや和風の朝食など、ハワイの日系文化を感じさせるものが多い。

 看板メニューは、もち米粉を使った「モチ・パンケーキ」だ。フレーバーは月替わりで、抹茶、黒ごま、ゆず、ポイ(タロイモを蒸してすりつぶしたハワイの伝統食)の4種類がある。密度が高くしっとりとした生地は、モチモチの食感が楽しい。厚みはそれほどないが、直径が25cmほどもあり、食べごたえは十分だ。

 一番人気は「抹茶・モチ・パンケーキ」(18ドル=約1,926円)。抹茶をふんだんに混ぜ込んだモチ・パンケーキ2枚に、さらに抹茶のほか、各種ベリー、ゆず風味のハニーバターをトッピングしたものだ。

一番人気の「抹茶・モチ・パンケーキ」。もち米粉は焦げやすく、低温で焼く必要があるため、小麦粉で作ったパンケーキに比べて焼き時間は4倍ほどかかる

 日本らしい抹茶味と好対照なのが、ハワイの食文化を組み合わせた「ポイ・モチ・パンケーキ」(18ドル=約1,926円)だ。ポイを練り込んだもち米粉の生地を焼き上げ、リーヒン・パウダー(ハワイで一般的な、干し梅を粉状にしたもの)、各種ベリー、ゆず風味のハニーバターで仕上げてある。こちらは、もちもち食感に加えて、タロイモの優しい風味が印象的だ。

「ポイ・モチ・パンケーキ」。ポイはタロイモから作るため粘り気があり、モチモチの米粉の生地とも相性がよい

 モチ・パンケーキの生みの親は、創業者のチャド・カネシロ氏の妻で料理人のモニカ氏。ハワイでも広く使われるもち米粉でパンケーキを作ろうと発案した。「試行錯誤の末に、『これはおいしい!』と思えるレシピにたどり着き、メニューに加えました。ただ、当初はまさかここまで人気になるとは、予想していませんでした」と、チャド氏は笑顔を見せる。

創業者であるカネシロ夫妻。モチ・パンケーキは一日に60~80食を売り上げているという

 来店客の中心は近隣地域の住民で、性別問わず年齢層は幅広い。開店前からできる長い行列に、モチ・パンケーキの人気が表れている。

モーニング・ウッド(Morning Wood)
260 El Camino Real, San Bruno
https://www.instagram.com/morningwoodsf/?hl=en

モチ・ドーナツがアメリカ人の心をわしづかみに

 地元の人々や観光客で賑わうサンフランシスコの日本人街。その中心、日本食レストランや商店が集うショッピングセンターの中に、モチ・ドーナツ専門店「モッチル・モチ・ドーナツ(Mochill Mochi Donuts)」がある。2019年7月にオープンしたばかりだが、開店直後から口コミでファンが増え、平日も行列が絶えない。

 看板は、もち米粉を使った生地を油で揚げて作る「モチ・ドーナツ」。チョコレートでコーティングしたり、パウダーでアレンジするなど、全部で50種類ものバリエーションを開発した。価格は1個2~2.5ドル(=約214~268円)。来店のたびに異なるフレーバーを楽しんでもらうために、週替わりで1日6種類を販売している。

 これまで紹介してきたモチ・スイーツはずっしりとした生地が多かったが、このモチ・ドーナツはもっちりとしながらもふわりと軽い。

モチ・ドーナツの「シナモン・シュガー味」。モチモチ食感と軽やかさの両立が人気を呼んでいる。アメリカではシナモン・シュガーをまぶしたドーナツは、プレーンのドーナツと並ぶ基本のフレーバーだ

 チョコレートのコーティングをつけた定番の「チョコレート味」のほか、抹茶コーティングの「抹茶味」やきなこパウダーをまぶした「きなこ味」、黒ごまコーティングの「黒ごま味」など和風のものも好評だ。生地があまり主張しない分、それぞれのフレーバーが際立つ。

「抹茶味」(右)と「きなこ味」(左)。きなこはアメリカでなじみがないため、「大豆の粉」と説明をつけている

 また、最近アメリカで流行しているウベ(ヤムイモの一種)のグレーズをかけて上からココナッツ・フレークを散らした「ウベ・ココナッツ味」は、薄紫色のかわいらしい見た目もあいまって人気が高い。

「ウベ・ココナッツ味」(右)と、チョコレートをコーティングして上から砕いたビスケットの「オレオ」をトッピングした「チョコレート・オレオ味」。コーティングとトッピングの組み合わせで豊富なバリエーションが生まれるのも特徴

 経営するのは、ハワイに2店舗を構える「たこ焼き山ちゃん」だ。同店がサンフランシスコ進出の際、店舗の一角でスイーツを販売することを社長の山本明宗氏が決断した。ハワイではここ数年、日本の商品を参考に生まれたモチ・ドーナツが人気になっており、「アメリカ本土でも受け入れられるのでは」と考え、およそ1年をかけて独自のレシピを完成させたという。

 ディレクターの山本たいすけ氏によると、同店の客層は10代後半~30代の女性が中心。一日に2,000~3,000個を売り上げるモチ・ドーナツの好評ぶりを受けて、山本明宗、山本たいすけ両氏は「今後は、ドーナツ以外のモチ・スイーツも開発していきたいです」と声をそろえる。

 ドーナツやマフィンなどに派生を続けるもち米粉を使ったスイーツ。その可能性はまだまだ広がっていきそうだ。

モッチル・モチ・ドーナツ(Mochill Mochi Donut)
1737 Post Street, #395, San Francisco
https://www.mochillsf.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約107円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。