(前編)ドイツ・ベルリン発 カフェのおしゃれな朝食がブーム

ドイツでは、古くから朝食や昼食をしっかりとり、夜は軽く済ませる風習がある。そんなドイツで近年、人気を集めているのが、朝食メニューを終日提供しているカフェだ。実際の店舗を取材し人気の秘密を探った。

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Vol.199

 ドイツには「朝食は皇帝のように、昼食は国王のように、夕食は乞食のように」ということわざがある。「朝と昼はたっぷり食べ、夜の食事は質素にすると健康によい」という意味で、実際にドイツの朝食はバラエティに富んでおり、夜はパンとチーズやハムのみの、朝食と同じようなカルテスエッセン(冷たい料理)で済ませる家庭が一般的だ。

 また、ドイツ人は週末はカフェでゆっくりブランチを楽しむのが好きなので、どんなカフェでも必ず数種類の朝食メニューが用意されている。カフェが密集する首都・ベルリンでは午後まで朝食をオーダーできる店も珍しくない。個人事業主やアーティストの居住者が多いベルリンならではの需要といえるだろう。ここ数年は移住者の急激な増加と世界的な朝食ブームにともない、朝食用、もしくはブランチ用のメニューのみを終日提供する店が人気を集めており、SNSを見てわざわざ来店する外国人旅行者も増えている。

 そんな朝食メニューが人気のカフェのなかから、前編では、独自の朝食メニューで地元の住民から旅行者まで幅広く人気を集めているカフェ2店舗をリポートする。

伝統的な朝食&創作メニューで常連から新規客まで虜に

 おしゃれなショップやカフェが密集するベルリンのプレンツラウアーベルク地区。そのなかの飲食店がひしめくオーダーベルガー通りで、ひときわ賑わう「クローネ・キッチン&コーヒー(KRONE KICHEN & COFFEE)」は、かつてパン店やバーとして使われてきた場所を改装して2010年にオープンしたカフェだ。“罪深いほどおいしい”をモットーに、営業時間の9~16時(土曜日は9時30分~18時30分、日曜日は9時30分~19時)の間、おしゃれな盛り付けの朝食用メニューを約20種類提供している。

 ドイツの朝食では、パンにチーズやハムなどをのせて食べるのが典型的なスタイル。同店でも、バターとジャム、ハーブ入りペースト、ハムとサラミ、3種のチーズ、くるみ、サラダに3種類のパンがセットになった「クローネプレート」(12.30ユーロ=約1,451円)が人気。くるみはチーズに合うようにキャラメリゼするなど、工夫されている。2人でシェアしても充分なボリュームがあり、ハムやサラミなどを追加(別料金)することも可能だ。

ドイツの朝食の定番をセットにした「クローネプレート」。チーズ類のみ、またはハム類のみの盛り合わせにも変更できる。右奥は、ターメリック入りの「ゴールデン・ラテ」(3.9ユーロ=約460円)

 創作メニューで人気なのは、ラム肉を使ったサンドイッチ「マリー・ハド・ア・リトル・ラム」(10.80ユーロ=約1,274円)。お酢でマリネしたラム肉をタマネギとともに柔らかく煮込み、ニンジンとフェンネル、ルッコラ、いちじくのコンフィをニンジン入りのバンズでサンドしており、深みのある味わいが特徴だ。

「マリー・ハド・ア・リトル・ラム」。サンドイッチは、ほかにターキー入りの「クローネ」(9.6ユーロ=約1,133円)とカマンベール入りの「フレンチ・コネクション」(9.4ユーロ=約1,109円)があり、どちらもさつまいもとじゃがいものチップスが付く

 女性に人気のパンケーキは、バナナとキャラメルソース、生クリームをたっぷり添えた「ザ・サン・オブ・パナマ」(8.9ユーロ=約1,050円)と、ベーコンと卵をのせた塩味系の「ベーコン・エッグ」(10.5ユーロ=約1,239円)の2種類。どちらも、バターミルクを使ったもっちりとした食感の生地が3枚付き、食べ応えも十分だ。

ボリュームたっぷりのバナナのパンケーキ「ザ・サン・オブ・パナマ」。青や黄色のエディブルフラワーやベリーをあしらっている

 近隣の住民に熱烈なリピーターが多く、近年は観光客も増加傾向。週末にはファミリーなどが朝食メニューでのんびりとブランチを楽しむ姿が見られる。ドイツの伝統的な朝食と、創作メニューを売りに、常連客、新規客を問わず高い人気を集めている。

KRONE KICHEN & COFFEE
Oderberger Straße 38, 10435 Berlin
http://www.krone-berlin.com/

ヘルシーで見た目も鮮やかな「ワンプレート朝食」が人気

 以前は庶民的なトルコ人街として知られたベルリンのノイケルン地区には、ここ数年で世界中から芸術家が移住するようになり、それに呼応するかのうように個性的な飲食店が続々と誕生している。2013年11月にオープンした「ローマーズ(Roamers)」は、大通りから離れた場所にもかかわらず連日行列ができるカフェ。こちらも営業時間の9時30分~16時(土・日曜日は10時~)の間、朝食用のメニューのみを提供している。

 メニューは、サンドイッチや卵料理を中心に、サラダ、シチュー、フレンチトーストなど約20種を用意。なかでもSNSで話題となっているのが、アルミ製のトレイに卵料理やサラダなどを盛り付けたワンプレートランチならぬワンプレート朝食。季節ごとに内容を変えており、2019年の秋は「カリフラワー・サニーサイドアップ」(15ユーロ=約1,770円)を提供。旬のカリフラワーのローストにタヒニ(ごまペースト)とグレモラータ(ニンニクとハーブで作る薬味)を絡ませ、味と食感の調和を楽しめるように工夫。目玉焼き、キャラメリゼした山羊チーズ、アボカド、サラダと、一つひとつはシンプルな料理ながら、ハーブやゴマをちらしておしゃれに仕上げている。

野菜がたっぷりとれる「カリフラワー・サニーサイドアップ」。フォトジェニックな盛り付けにもこだわり、SNSで拡散されたことが認知拡大にもつながっている

 寒い季節は、スキレットで提供する「ウエボ・ランチェロス」(12.5ユーロ=約1,475円)が人気。昨今、ベルリンでトレンドとなっているイスラエル発祥の朝食「シャクシュカ」(トマト、タマネギなどを炒め、真ん中に卵を落として焼き上げた料理)をアレンジし、スパイシーなトマトシチューにチェダーチーズやフムス(中東のペースト状の豆料理)を加えてマイルドに仕上げている。

アツアツのトマトシチューと半熟の目玉焼き、新鮮な野菜のバランスが絶妙な「ウエボ・ランチェロス」

 また、ヘルシーで個性的なドリンクも好評。鮮やかな赤ビーツのレモネード「ビートルート・レモネード」や、ホウレンソウとケールのスムージー「スピナッチ、ケール&ペア」(各4.5ユーロ=約531円)は素材そのものの味が鮮烈に感じられ、飲むだけで健康になれそうな気持ちになる。多くの来店客が料理とセットでドリンクを注文するため、客単価アップにも貢献している。

赤ビーツのレモネード「ビートルート・レモネード」(左)と、ホウレンソウとケールのスムージー「スピナッチ、ケール&ペア」(手前)。右は「カプチーノ」(3ユーロ=約354円)

 客層は、近隣住民から外国人旅行者まで国籍も年齢も幅広い。品目が多くて栄養のバランスもよく、見た目もフォトジェニック。一皿で3つうれしい「ワンプレート朝食」は、ますます人気を呼びそうだ。

Roamers
Pannierstrasse 64, 12043 Berlin
https://www.roamers.cc/

取材・文/坪井由美子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ユーロ=約118円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。