(後編)米国発 「ファストファイン」業態が急成長

アメリカで長らく人気を集めていた業態「ファストカジュアル」が、素材やサービスにもこだわった「ファストファイン」として注目を集めている。後編では、既存の高級店の姉妹店として生まれた店を紹介する。

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Vol.202

 アメリカでは、「ファストフード」に近い価格帯と手軽さで、料理のクオリティは高い「ファストカジュアル」という業態が人気を呼んできたが、最近ではさらに素材の質やサービスにこだわった「ファストファイン」という業態が生まれ、注目を集めている。従来の「ファストカジュアル」よりも素材、居心地などがグレードアップしている一方で、気軽に手早く食事を楽しめるのも特徴だ。

 前編で紹介したように、新ブランドの「ファストファイン」店として出店するケースが多いが、最近はフルサービスの高級レストランが知名度を活かし、姉妹店としてカジュアルな「ファストファイン」店を出店する例も増えてきている。後編では、このような「ファストファイン」店を紹介する。

セントラルキッチンも活用し、お手ごろ価格で提供

 サンフランシスコ近郊の町・オークランドに、南インド料理のファストファイン店「ドーサ・バイ・ドーサ(dosa by DOSA)」がある。南インド料理の高級店「ドーサ(DOSA)」をカジュアルダウンした姉妹店として、2017年12月にオープンした。

 看板メニューは、10種類の「ドーサ」だ。ドーサとは、米とレンズ豆の粉で作った生地を、透けるほど薄く伸ばしてパリッと焼き上げたもの。このドーサで、クレープのように各種カレーをくるみ、筒状にして提供する。価格は、7.95ドル〜13.95ドル(約867円〜1,521円)で、本店で提供している同メニューと比べて6割程度の価格に抑えられている。

 人気の「マサラ・ポテト・ドーサ」には、じゃがいもとじっくりと炒めたタマネギを使ったドライカレーがくるまれている。隠し味のカシューナッツが風味に深みを加えている。

「マサラ・ポテト・ドーサ」。ディップは、(左上から)サンバール(トマトベースの辛い野菜スープ)、トマト・チャツネ、ココナッツ・チャツネの3種類

 また、「ライスボウル」(9.5ドル〜13.95ドル=約1,036円〜1,521円)は、カレーとごはんを、それぞれ4種類から選ぶ。一番人気は、「チキン・ティッカ・マサラ」と「ココナッツライス」の組み合わせだ。

チキン・ティッカ・マサラとココナッツライスを組み合わせた「ライスボウル」。じっくり煮込んだチキンが口の中でほろりとほどけ、マイルドなカレーとココナッツライスとよく合う

 さらに、スパイシーな羊のひき肉を細長く整形し、串焼きにした「タンドーリ・ラム・ケバブ」(7.95ドル=約867円)も人気。まろやかなヨーグルト・チャツネと、鮮烈な酸味のコリアンダー・ミント・チャツネの2種類のディップをつけて食べる。

「タンドーリ・ラム・ケバブ」。羊肉を含め、ほとんどの素材は本店と同じく地元産のオーガニック素材を使っている

 「ドーサ・バイ・ドーサ」が、高級業態である本店と同じ味を安価で提供できる理由として、人件費や家賃を抑えていることやメニューを絞り込んでいること以外に、セントラルキッチンの存在がある。調理時間がかかるカレーやソースなどは、セントラルキッチンで作ることでコストを抑えている。

 店内は天井が高くスタイリッシュな雰囲気で、1人での食事やデート、商談など、様々なシーンで利用されており、来店客は20〜30代が中心。カウンターで料理を注文して客席で待っていると、5〜10分ほどで料理が運ばれてくる。112席と、「ファストファイン」にしては大箱だが、オペレーションが効率化されているため人手は少なめだ。創業者の一人、アンジャン・ミトラ氏は、「自慢の料理を安く提供することで、より多くの人に店の味を知ってもらえ、利益も十分出ています」と、新業態に手応えをつかんでいる。

ドーサ・バイ・ドーサ(dosa by DOSA)
758 Valencia Street, San Francisco
https://www.dosasf.com/dosa-oakland

ファミリーに最高級の料理を提供すべくオープン!

 おしゃれな飲食店が集まるサンフランシスコのヘイズ・ヴァレー地区に、2017年6月オープンした「RTロティサリー(RT Rotisserie)」。ミシュラン一つ星の高級店「リッチ・テーブル(Rich Table)」のシェフ、サラ・リッチ氏とエヴァン・リッチ氏の夫妻が開いたカジュアルな姉妹店だ。

 人気が高く予約の取りづらい「リッチ・テーブル」とは違い、「RTロティサリー」は事前予約の必要はなく、カウンターで注文して席で待っていれば、10分もせずに料理が運ばれてくる。「自分たちが子育てをするようになり、子どもを連れて行けるカジュアルさと高級店に劣らないメニューを兼ね備えた店を出したいと考えたのが出店のきっかけです」と、リッチ夫妻は語る。

 店名のとおり、売りはロティサリー(回転式肉焼き器)を使ったメニューで、一番人気は「ロティサリー・チキン」(半羽10ドル=約1,090円、一羽19ドル=約2,071円)。皮はパリッと焼けて香ばしく、身はジューシーで旨みが強い。塩、ポルチーニ・パウダー、ニンニクなどを使ったオリジナルのタレに丸鶏を24時間浸け込み、さらに2日間干して旨みを凝縮させてからロティサリーで焼く、という手間のかかった一品だ。

半羽の「ロティサリー・チキン」。ソースは5種類から2つを選べる。写真は、「サワークリーム」(左)と「ハニーマスタード」

 また、「ロースト・カリフラワー(9ドル=約981円)」も評判だ。丸ごと一株のカリフラワーをじっくり、こんがりと焼き上げ、ビーツ風味のタヒニ(ごまのペースト)をかけたもの。素材の甘みと香ばしさが引き立つ。

ひと株丸ごと使った大迫力の「ロースト・カリフラワー」に、タヒニソースのピンク色が映える

 そのほか、新鮮な野菜を使った「RTRサラダ」(10ドル=約1,090円)も用意。トッピングも豊富にそろえ、ポークベリー(豚ばら肉)やチキンなど、好みの肉(3ドル=約327円)をトッピングすれば、一皿で栄養満点の食事になる。

ポークベリーをトッピングした「RTRサラダ」。テイクアウトの場合は、写真のような箱で提供。持ち帰りやデリバリーは、子どものいる家族やオフィスランチで人気だ

 子ども連れでも気軽に高級店の味を楽しめるとあって、来店客にはファミリーも多く、幅広い世代が常連になっている。この成功を受け、同店は2019年8月に2店舗目をオープンした。

 おいしく質の高い料理と手軽さを両立して人気を集める「ファストファイン」。高級店の経営者にとっても、姉妹店を出す際の選択肢の一つとしてさらに注目を集めていくかもしれない。

RTロティサリー ヘイズ・ヴァレー店(RT Rotisserie Hayes Valley)
101 Oak Street, San Francisco
https://www.rtrotisserie.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約109円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。