(前編)タイ発 伝統の大衆料理「ガパオ」が大変身

タイの定番料理の1つとして人気が高いガパオ。大衆食堂や屋台の庶民的なこのメニューが、アレンジを加えられるなどの進化を遂げ、話題を集めている。前編では、従来の豚や鶏の肉以外を使用している店を紹介する。

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Vol.203

 日本でも人気が高いタイの庶民料理・ガパオ。豚や鶏の挽き肉を、唐辛子やホーリーバジル、ナンプラー(魚醤)、スパイスなどで炒め、半熟の目玉焼きと白いごはんとともにワンプレートで提供する大衆食堂や屋台の定番メニューだ。ちなみに「ガパオ」は、タイ語でホーリーバジルを意味する言葉で、正式な料理名は「パッガパオ」だが、タイでも日本同様「ガパオ」と呼ばれることが多い。近年、そんな庶民的な屋台料理を売りにする専門店が増えており、独自のアレンジを加えることでバリエーションが広がり、話題を呼んでいる。

 そのなかから、前編では従来の豚や鶏の挽き肉以外の肉を使ったガパオを提供する2店舗を紹介する。

牛スライス肉やポークソーセージなどでアレンジ

 タイの首都・バンコクの中心から少し北に外れたエリアを走るラチャダーピセーク通りは、新興企業のオフィスが建ち並び、昼はビジネス層が往来し、夜は歓楽街として賑わっている。この通り沿いに2016年1月オープンしたのが、ガパオメニューに力を入れる「ラチャバー32バー&レストラン(Ratchada 32 Bar & Restaurant)」だ。

 一番人気は「ラチャダー32・ガパオ」(120バーツ=約432円)。豚と鶏の挽き肉を使う一般的なガパオと違い、甘い豚肉のソーセージ「ネーム」と鶏のモモ肉、ホーリーバジル、唐辛子を炒めたものを使用しているのが特徴。ネーム特有の甘みと弾力、鶏モモ肉の食感がアクセントとなり、一般的なガパオとは異なる口あたりが楽しめる。

店名を冠した「ラチャダー32・ガパオ」。豚のソーセージと鶏のモモ肉を使っており、従来のガパオとは異なる食感が楽しめる。フライパンを模した皿で提供するのも特徴的

 タイでは牛肉を食べない人も少なくないが、近年、アメリカのハンバーガーやステーキのチェーン店が進出を果たし、若い世代のなかには牛肉を抵抗なく食べる人も増えてきている。そうしたニーズを受けて開発したのが「ビーフ・ガパオ」(130バーツ=約468円)だ。炊いた白米の上に薄焼きオムレツをのせ、牛のスライス肉と赤唐辛子、ホーリーバジルを炒めたものをトッピング。一皿に唐辛子を10本以上使っているが、ふわふわのオムレツが辛みをやわらげてくれる。

牛のスライス肉を使った「ビーフ・ガパオ」。半熟の目玉焼きではなく、オムレツを合わせているのも新しい

 また、白米ではなく、ホーリーバジルとニンニク、自家製のソースで炒めたカオパット(タイ風チャーハン)を使った「ポークスペシャル・ガパオ」(120バーツ=約432円)も好評。香草とニンニクの香りが食欲をそそり、炒めた豚モモ肉との相性も抜群だ。

「ポークスペシャル・ガパオ」。来店客から「ガパオと同じ味付けのカオパットと一緒に食べたい」というリスクエストに応えて作ったところ、好評だったのでメニューに加えたという

 来店客はビジネス層が中心で、夜はアルコールのニーズも高いため、酒のおつまみとしても楽しめるよう、ガパオはすべて「ごはん抜き」にも対応。濃くて辛い味付けがビールによく合うとアルコールのオーダーにもつながり、相乗効果を生み出している。

ラチャダー32バー&レストラン(Ratchada 32 Bar & Restaurant)
Ratchada 32 Streat 107 Soi Ratchada 36 Intersection 19-1 Bangkok
https://www.facebook.com/ratchabar32

自分好みのオーダーメイドができるガパオ

 バンコク市で最大級のショッピングモール「セントラルワールド」の7階に2019年12月オープンした「プラウ(Prow)」。バンコク市内のビジネス街で2018年4月に創業し、わずかな期間で人気店へと成長したガパオ専門店の2号店だ。

 「プラウ」では、オーソドックスな「ガパオ」(120バーツ=約432円)も提供しているが、ほかにはない食材を使ったガパオメニューもそろえている。その一つが「ラム・ガパオ」(220バーツ=約792円)だ。その名のとおり、子羊のモモ肉を使っており、香草がラム独特の風味と調和して、奥深い味わいに仕上がっている。

ラム肉を使った「ラム・ガパオ」。できるだけ臭みが少ないラムを使用している

 また、2号店のオープンに合わせて開発したのがカエル肉を使った「フロッグ・ガパオ」(180バーツ=約648円)。タイの地方にある伝統的なカエル料理からヒントを得たメニューで、柔らかく淡泊なカエルの肉はクセもなく食べやすい。

「フロッグ・ガパオ」。一番旨みを感じられる骨付きの部位も使用している

 こうした変わり種のガパオも特徴的だが、他店との差別化の最大のポイントになっているのが、ガパオの辛さやトッピングを選べることだ。辛さは、0(唐辛子抜き)~6までの7段階、トッピングはソーセージや野菜など30種類以上のなかから何個でも選ぶことができる。人気の組み合わせは、ローストした豚バラ肉と豚の挽き肉を合わせた「豚バラ肉のせポーク・ガパオ」(160バーツ=約576円)に、とびこ(25バーツ=約90円)とチーズ(20バーツ=約72円)をトッピングしたもの。焦がしたチーズとガパオの香りが混ざり合い、とびこのプチプチした感触と塩味も、よいアクセントになっている。

「豚バラ肉のせポーク・ガパオ」に、とびことチーズをトッピング

 巨大ショッピングモール内に立地していることもあり、子ども連れから外国人観光客まで様々な人が来店し、カスタマイズを楽しんでいる。これまでの常識に捉われないメニュー開発や豊富なトッピングによって、ガパオはより幅広いニーズに応えられる料理に進化しつつあるようだ。

プラウ(Prow)
Central World 7th Floor
999/9 Ratchadamri Road, Bangkok
https://www.facebook.com/prowthaibasil/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート1バーツ=約3.6円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。