(後編)タイ発 伝統の大衆料理「ガパオ」が大変身

タイの定番料理の1つとして人気が高いガパオ。大衆食堂や屋台の庶民的なこのメニューが進化を遂げ、話題を集めている。後編では、シーフードを使ったものや、麺類と合わせたガパオを紹介する。

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Vol.204

 タイの定番大衆料理の一つ「ガパオ」。香草のホーリーバジル(タイ語でガパオ)と豚や鶏の挽き肉を炒めたシンプルなメニューだが、近年、様々な素材を使った新しいガパオで人気を呼ぶレストランが増えている。

 前編で取り上げた牛肉やラムを使ったメニューに続き、後編ではシーフードを使ったり、米の代わりに麺を用いたガパオを提供する飲食店を紹介する。

シーフードを用いた進化系ガパオ

 バンコクのビジネス街であるシーロム地区に2017年2月オープンしたガパオ専門店「ガパオクーンポー」。その看板メニューが、様々なシーフードを用いたガパオだ。「多種多様な魚介類が手に入るバンコクで、なぜ誰も魚介系のガパオを作らないのか?」という発想が開発のきっかけだったという。

 シーフードガパオのなかで人気が高いのが、「ステアフライド・シュリンプ・ガパオ」(179バーツ=約644円)。大ぶりなバナメイエビを、ホーリーバジルやナンプラー、オイスターソースとともに炒めたもの。用いる調味料は一般的なガパオと同じだが、エビならではの風味とぷりぷりした食感が新しい。

「ステアフライド・シュリンプ・ガパオ」は、バナメイエビとホーリーバジルの組み合わせ。風味とぷりぷりの食感を出すために、冷凍ではなく生のエビを使っている

 また、「フライド・シーバス・ガパオ」(129バーツ=約464円)もオープン当初から人気の一品。もともとタイで人気の白身魚のスズキを揚げ、ホーリーバジルやバター、ナンプラー、オイスターソースなどで炒める。白身魚は豚や鶏の挽き肉と比べてあっさりしているので、炒める前に一度揚げ、普通のガパオでは使わないバターを用いることで、濃厚な味わいに仕上げている。

揚げたスズキをバターなどとともに炒め、濃厚さを出した「フライド・シーバス・ガパオ」。すべてのガパオに「目玉焼き」や「オムレツ」(各10バーツ=約36円)を追加できる

 さらに、昨年10月からメニューに加わった「サーモン・ガパオ」(189バーツ=約680円)も好評。近年、寿司などの日本食ブームでサーモンが以前よりも人気になったことから開発した。塩とコショウで焼いたノルウェー産サーモンの切り身、ナンプラー、オイスターソースで炒めたホーリーバジルと卵黄をトッピング。サーモンなどに卵黄をからめて食べると、まろやかな味わいで、ご飯とよく合う。

サーモンの切り身と卵黄をトッピングした「サーモン・ガパオ」。日本好きのオーナーが牛丼や卵かけご飯からヒントを得て、卵黄を使うことにした

 ほかにも、カニやカキなどを使ったガパオが用意されており、バリエーションは全部で27種類。主に、周辺の企業で働くビジネス層が来店しており、他店にはないシーフードを用いた新機軸のガパオが話題を集め、ヒット中だ。

ガパオクーンポー(Kaprow Khunphor)
30 Soi Pradit, Suriya Wong Road, Bang Rak, Bangkok
https://www.facebook.com/kaprowkhunphor1

“ガパオ×麺”の意外性でヒット!

 住宅地と工業地帯が隣接しているバンコク郊外のバンスー地区に、2013年7月にオープンしたのが、ガパオ専門店「ガパオカイラパート(Kaprow Kairapert)」。他店と違うのは、ライスだけでなく、麺類と合わせたガパオを用意している点だ。もともとタイでは、タイ風五目焼きそば「パッタイ」をはじめ、麺料理も人気が高いことから生まれたアレンジメニューだ。

 “ガパオ×麺”の代表的なメニューである「ママー・ガパオ」(60バーツ=約216円)は、インスタントラーメンの麺を一度ゆで、それをホーリーバジルや豚肉とともに炒めたもの。ナンプラーやオイスターソースのほか、インスタントラーメンについている粉末スープ(しょうゆ味)も加えており、辛めの焼きそばのような仕上がりに。味が浸みこみすぎないように、挽き肉ではなく、スライスした豚肉を使っているのも特徴だ。

インスタントラーメンを利用した「ママー・ガパオ」。調理法はシンプルだが、今までにないメニューとして人気になっている

 そのほか、「スパゲティ・ガパオ」(60バーツ=約216円)は、その名のとおりスパゲティを使ったガパオ。ゆでたスパゲティに豚のひき肉やホーリーバジル、イタリア料理の定番食材であるトマトとパプリカを加えて、ナンプラーやオイスターソースとともに炒めたものだ。タイ米を使った普通のガパオとは違う、スパゲティのモチモチした食感が楽しめる。

「スパゲティ・ガパオ」。イタリアとタイの代表的な料理を合わせた新感覚の一品だ

 また、「クイティオ・センヤイ・ガパオ」(70バーツ=約252円)には、米粉を原料とする太麺「クイティオ・センヤイ」を使用。麺とイカを揚げ、貝などとともに、ナンプラー、オイスターソース、ホーリーバジルで炒めている。麺を揚げているのは食感を際立たせるためだ。

揚げた米粉の太麺とシーフードを組みわせた「クイティオ・センヤイ・ガパオ」。揚げた麺のカリカリ食感が楽しめる

 近隣の大衆食堂で提供される一般的なガパオと比べて、同店のガパオの価格は1.5倍ほど高い。しかし、麺を組み合わせるという新しいスタイルが受けて、中間層からアッパー層のファミリーや会社員のリピーターを生んでいる。今では、このメニューを真似する店も続出しており、今後もガパオのイメージを変えるような新メニューが誕生するかもしれない。

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート1バーツ=約3.6円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。