(後編)米国発 「高級モクテル」が人気上昇!

ここ数年、日本でも注目を集めているノンアルコールカクテル「モクテル」。アメリカでは、これまでのイメージを覆すような高級感のあるモクテルが人気だ。後編では、レストランで提供されている事例を紹介する。

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Vol.206

 近年、日本と同様に、健康のためにアルコールを飲む量や頻度を減らしたり、飲まないようにする人が増えているアメリカで、ノンアルコールのカクテル「モクテル」に注目が集まっている。

 しかも、従来のソフトドリンクに近いものではなく、素材やレシピに独自の工夫を凝らし、高級感のあるモクテルが次々と登場。お酒が苦手な人はもちろん、お酒好きからも好評を得ている。前編ではバーの事例を紹介したが、後編ではレストランが提供するモクテルにスポットを当てる。

インド料理によく合うエキゾチックなモクテル

 アメリカ・サンフランシスコの中心部、荘厳なサンフランシスコ市庁舎や歌劇場「サンフランシスコ・オペラ」といった歴史的建築物が集まるエリアにある「オーガスト・ワン・ファイブ(August 1 Five)」。2016年11月にオープンした、モダンな創作インド料理店だ。

 来店客のなかにはインド人を含めて宗教上の理由でアルコールが飲めない人も多く、ノンアルコールドリンクへの社会的なニーズにも応えるために、モクテルに注力するようになったという。

 モクテルは全部で6種類。なかでも一番人気は、「スパイシー・ゴールド」(10ドル=約1,100円)。パイナップルジュースとレモンジュースをベースに、インド料理店らしくターメリック、ショウガ、黒コショウなどのスパイスを使い、フルーツの甘みにアクセントを利かせている。

電球型のグラスで提供する「スパイシー・ゴールド」。カレーにもよく合う

 また、「ファニー・バニー」(10ドル=約1,100円)は、インドで飲まれる発酵させたキャロットジュースに、マスタード、はちみつ、カルダモン、ジンジャービア(ショウガと砂糖を発酵させた微炭酸のノンアルコール飲料)を合わせたモクテル。美しい色合いと、ほのかに甘くやさしい口当たりが特徴だ。

インド特有の発酵キャロットジュースをベースにした「ファニー・バニー」は、ヘルシー志向の人に人気。グラスに浮かべた青いパンジーとのコントラストが美しい

 そのほか、季節ごとに新作モクテルも登場する。今年の冬に登場した「コクム・ココ」(10ドル=1,100円)は、ココナッツウォーターに自家製のマンゴスチンシロップとクミンで風味付けし、泡立てたココナッツミルクをのせたもの。同じくこの冬に提供した「シンカジ・クーラー」(10ドル=1,100円)はインドの伝統的なドリンクをアレンジしている。炭酸水で割ったライムジュースにチャートマサラ(酸味と硫黄臭のあるスパイスミックス)、ショウガを利かせた、さわやかなドリンクだ。

ミントの葉が清涼感を際立たせる「シンカジ・クーラー」(右)。「コクム・ココ」(左)のうえにかかっている青いパウダーは「エディブル・グリッター」(食用のラメ)。味わいだけでなく見た目にも気を配っている

 創業者のヘタル・シャー氏は、「モクテルは、様々な事情でお酒を飲めない人はもちろん、お酒好きの方にも好評です。これまで、“モクテルはダサい”と感じていた人もいたと思いますが、見た目も含めて期待感や満足度を高めるメニューを開発したことで、イメージが変わったと思います」と語る。客層はインド系の近隣住民に加え、劇場でオペラやコンサートを鑑賞した人、近隣のオフィス街で働くビジネス層など幅広い。多様なニーズに応えるドリンクとして、モクテルが愛されているようだ。

オーガスト・ワン・ファイブ(August 1 Five)
524 Van Ness Avenue, San Francisco
https://www.august1five.com

高級モクテルでブランチタイムの収益が向上

 ブティックやレストランが集まるサンフランシスコのヘイズバレーは、ここ5年ほどで急激に発展しているおしゃれなエリア。この地で1998年から営業しているカジュアルなフランス料理店「アブサン・ブラッスリー・アンド・バー(Absinthe Brasserie & Bar)」は、カクテルやモクテルにも力を入れている。

 モクテルを導入したのは2014年ごろで、現在は4種類を提供。なかでも人気の「バージン・ジンジャー・ロジャース」(8ドル=約880円)は、看板カクテルをノンアルコールにアレンジしたもの。ライムジュースとジンジャービアをベースに、自家製のショウガシロップとたっぷりのミントを加えた微炭酸のモクテルだ。底に溜まったシロップをよくかき混ぜて飲むと、ショウガの強い香りと甘み、ほのかな酸味が混ざり合い、爽やかな味わいだ。

「バージン・ジンジャー・ビア」は、ショウガとミントの風味で軽やかな飲み心地

 また、「ボディ・ポリティック」(8ドル=880円)は、セージ(清涼感のあるハーブ)で香りを付けたヴェルジュ(未熟ぶどうを搾った酸味の強いジュース)がベース。グレープフルーツ果汁、はちみつ、レモンを加えてシェイクし、氷をグラスいっぱいにして注ぐ。ひと口飲むとぶどうの香りがふわりと広がる。甘さは控えめでやさしい酸味があり、様々な料理に合う。

「ボディ・ポリティック」は、フランス料理にも使われるヴェルジュをベースにした、フランス料理店らしいモクテル

 「サムシングズ・アップ」(8ドル=880円)は、パイナップルシロップ、ライム果汁、細かく砕いたバジルをシェイクしてグラスに注ぎ、さらに炭酸水を加えたモクテルだ。南国風の味わいにバジル独特の香りが加わり、奥行きのある味わいになっている。

底の浅いシャンパングラスで提供される「サムシングズ・アップ」。ビジュアルも含めて、十分にカクテル気分を味わえる

 来店客は、主に地元の住民。昔ながらの常連に加え、ここ数年はエリア全体の発展に伴って若い層も増えた。モクテルを注文するのは、この若い層が中心で、特にブランチの時間帯に注文が増えるという。広報担当のハンナ・バウマン氏は、「当店のブランチはおよそ15〜20ドル(約1,650~2,200円)。3ドル(約330円)の炭酸水の代わりに8ドル(約880円)のモクテルを注文していただくことも多く、客単価アップにつながっています」と語る。ノンアルコールゆえに仕事中でも気軽に飲めるモクテルは、ブランチタイムの収益向上に貢献している。

アブサン・ブラッスリー・アンド・バー(Absinthe Brasserie & Bar)
398 Hayes Street on Gough, San Francisco
http://absinthe.com/menus/dinner/

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約110円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。