(前編)アジア発 アートのような創作寿司が大人気

世界各国で人気を集めている「寿司」。オーソドックスな寿司を提供する店も多いが、近年アジアでは見た目にもアートのような創作寿司を提供している店も増えている。前編では、タイの事例を紹介する。

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Vol.207

 世界各国に広まり、ランチやディナーを問わず、日常的な食事として親しまれるようになった寿司。海外でも、日本と同様のオーソドックスな握り寿司やいなり寿司、細巻き、太巻きなどを提供する店が多いが、独自にアレンジした寿司を用意している店も少なくない。特に、近年アジアではそのアレンジした寿司を芸術作品のように美しく盛り付けた創作寿司が人気を集めている。

 前編では、タイの首都バンコクから、アートのような寿司を提供する店を紹介する(以下の記事はすべて2月中旬までに取材)。

色彩豊かなアレンジ寿司が人気に!

 タイのビジネスの中心地で、国内外の大企業や銀行の本店が集まるバンコクのサトーン地区。高層オフィスビルの57階に2018年12月オープンしたのが「コイ・レストラン」。2002年5月にアメリカ・ロサンゼルスで創業し、和洋の様々な食材を組み合わせたフュージョン寿司のブームを巻き起こした日本料理店の姉妹店だ。

 店の顔とも言えるメニューが「コイ・ドラゴン・ロール」(600バーツ=約2,058円)。シャリとエビの天ぷら、焼いたカニを、大豆を加工してシート状にしたソイペーパーで巻き、その上に細かくした天かすをたっぷりのせ、シラチャーソース(唐辛子やニンニクを原料としたピリ辛ソース)をかけている。プリプリとしたエビやカニと、天カスの異なる食感が新しい。ビジュアルに彩りを加えるため、エディブルフラワー(オレンジ色のモカラ、紫色のラン、黄色のゴールデンシャワー)と中華わかめを添えている。

オープン当初から一番人気の「コイ・ドラゴン・ロール」。シャリとエビ、カニが混然一体となり、天かすの食感がアクセントになっている。しょうゆはもちろん、ピリ辛のシラチャーソースで食べるのもおすすめ

 また、「アース・ウインド&ファイア・ロール」(480バーツ=約1,646円)は、バンコク店オリジナルの太巻き。シャリとサーモン、カニカマ、白アスパラガスをすだれを使って四角く巻き、薄切りにしたマンゴーとアボカドをのせた一品だ。のりではなく、マンゴーとアボカドを使うことで、サーモンやカニカマを含めた色のコントラストが映えるビジュアルに仕上げている。

マンゴーやアボカドを使った「アース・ウインド&ファイア・ロール」。タイには、ココナッツミルクなどで炊いたもち米をマンゴーとともに食べる「カオニャオ・マムアン」というデザートがある。米とマンゴーを組み合わるという発想は日本人には意外だが、タイの人にとっては自然なものなのかもしれない

 同じく、「ボルケーノ・ロール」(580バーツ=約1,989円)もバンコク店オリジナルの寿司。「ボルケーノ」とは英語で「火山」という意味。クルマエビの一種であるタイガープロウンとサーモン、カニカマ、アボカドなどを太巻きにし、衣をつけて揚げた後にカット。これを山に見立てて重ね、その上に噴き出す溶岩をイメージした細切りのフライドポテトとパクチーをのせて完成。揚げた寿司をフライドポテトと組み合わせるという斬新さと、立体的なビジュアルが印象に残るメニューだ。

プリプリのクルマエビ、ねっとりとしたアボカド、サクサクのフライドポテトと様々な食感が楽しめる「ボルケーノ・ロール」。太巻きにはスパイシーマヨネーズがかけてあり、パンチのある味付けになっている

 周辺は外資系を含む大企業が集まるエリアで、主な客層は欧米人を中心にしたアッパービジネス層。周囲にスタンダードな握り寿司を提供する店が多い中、「コイ・レストラン」の寿司は、使用する食材やビジュアルで他店と一線を画しており、口コミで一気に評判が広まり、多くのファンを獲得している。

コイ・レストラン(Koi Restaurant)
108 N Sathon Road, Silom, Bangkok 10500
https://www.koirestaurantbkk.com/

皿をキャンバスに見立てた絵画風の巻き寿司

 バンコク中心部の高級住宅街スクンビット地区を走るトンロー通り周辺は、富裕層や外国人居住者が多く、おしゃれなレストランやカフェが集まるエリア。その一画に2016年6月オープンしたのが寿司レストラン「マキ・オン・フィフス」だ。

 看板メニューは「ビューティ&ザ・リーフ」(450バーツ=約1,544円)。サーモン、ホタテ、アボカド、トビコを使った「リーフ(葉)」型の太巻きを枝葉のように並べ、アスパラガスを添えて茎に見立てている。皿の余白には、照り焼き風のソースでオリエンタルな模様を描いており、一枚の絵画のような一品に仕上げている。

その名のとおり、美しい葉をイメージした「ビューティ&ザ・リーフ」。寿司の上には、タイ料理でよく使われるライム「マナオ」がのせられ、さわやかな香りと風味がアクセントになっている

 また、“それが食べられるなら死んでもいい!(最高においしい!)”を意味する「トゥ・ダイ・フォー」(490バーツ=約1,681円)は、花をイメージした一品。シャリは使わず、とろサーモンや黒トビコ、まさごなどをのりで巻き、それを花びらに見立てて円を描くように並べ、その中央に刻みネギとウズラの卵の黄身を入れ、茎に見立てたアスパラガスを添えている。

シャリを使わない「トゥ・ダイ・フォー」。炭水化物をあまり摂りたくないというニーズに応えるために開発した

 さらに、子どもにも喜んでもらいたいと開発したのが、竜をモチーフにした「ジェイド・ドラゴン」(380バーツ=約1,303円)。煮アナゴやキュウリ、カイワレ、シャリをのりで巻き、その上にアボカド、黒トビコ、まさごをトッピングした一品。煮アナゴを使っているのは、生魚が苦手な子どもが多いためで、狙いどおり子どもから人気が高いメニューになっている。

緑色の長い竜を表現した「ジェイド・ドラゴン」。甘めの味付けの煮アナゴが子どもから好評だ

 来店客は、近隣に住むアッパー層の女性が中心。おいしさと美しさを兼ね備えたアートな寿司はSNSでも情報が拡散され、ファンを増やしている。

マキ・オン・フィフス(Maki on Fifth)
Thong Lo 5 Alley, Khlong Tan Nuea, Bangkok 10110
https://www.facebook.com/MakiOnFifth/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
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