(後編)アジア発 アートのような創作寿司が大人気

世界中に広まっている和食の代表格「寿司」。近年、アジアでは、オリジナルのアレンジで見た目も美しく盛りつけた創作寿司が話題だ。後編では、インドから独自の食材や盛り付けで人気の寿司をリポートする。

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Vol.208

 和食を代表する料理の1つとして海外でも人気の高い寿司。伝統的な握り寿司だけでなく、カリフォルニアロールのように、海外で独自の進化を遂げたものも多い。さらに近年アジアでは、まるで芸術作品のように美しく盛り付けられた創作寿司が話題を呼んでいる。

 後編では、“インドのシリコンバレー”と呼ばれるIT都市・ベンガルール(旧名バンガロール)の事例をリポートする。

見た目のインパクトがオーダーを喚起

 インド有数の大都市・ベンガルールにある大型の商業施設「オリオンモール」。そこでひときわ大きな賑わいを見せているのが、2019年7月にオープンした多国籍レストラン「ユーミー(YouMee)」だ。

 料理は、和食や中国料理、韓国料理などアジア系が中心で、特に寿司の人気が高い。 一番人気は「アボカドとマンゴーの黒米寿司」(4個380ルピー=約584円)で、アボカド、キュウリ、クリームチーズを、黒米で四角く巻き、マンゴーをトッピングしたもの。「黒、白、緑、オレンジというカラフルな色彩で、お客様の食欲をかきたてようと考えました」と、店長のマックス・マソリン氏は語る。滋味深い黒米に、濃厚なクリームチーズとアボカド、みずみずしいキュウリ、甘みたっぷりのマンゴーが見事に調和している。

「アボカドとマンゴーの黒米寿司」は、食材の組み合わせが斬新で、色彩もインパクトがある。ほかの寿司と同じように、わさびとしょうゆで食べる

 また、竜をイメージした「ハマチ ニューヨーク ドラゴン」(8個815ルピー=約1,252円)も特徴的。ハマチの巻き寿司で竜の胴体を作り、目はハラペーニョのピクルスとマヨネーズ、カイワレダイコンの葉、ひげはダイコンとニンジンのツマ、耳はキュウリで表現している。巻き寿司には、ハマチのほか、アボカドとエビの天ぷらを使い、ハマチの臭みを消すためにトウガラシマヨネーズを使っている。

竜を表現した「ハマチ ニューヨーク ドラゴン」。インドでも竜は縁起がよいと考えられているため、特に誕生日など記念日利用での人気が高い

 このほか、「スパイシーチキンカツ」(4個450ルピー=約691円)は、チキンカツとレタスをのりとシャリで裏巻きにし、上からトウガラシマヨネーズとチリソースをかけ、天かすをふった巻き寿司。裏巻きにすることで、白い酢飯とオレンジのトウガラシマヨネーズの色のコントラストが印象的な一品に仕上がっている。

「スパイシーチキンカツ」はチキンカツと天かすのサクサクした食感が特徴。トウガラシマヨネーズとチリソースのパンチの効いた辛さがインド人に好評だ

 主な客層は、和食をはじめ様々な国の料理に関心の高いミドルアッパー層。見た目がカラフルでインパクトのある寿司を多く用意しているため、別のテーブルに運ばれる寿司を見た人が、「同じものを食べたい」と注文することも多く、SNSなどでの情報拡散にもつながっている。

ユーミー(YouMee)
Shop 9A, Orion Mall, Brigade Gateway, Mariappanapalya, Malleshwaram, Bengaluru
https://www.lbf.co.in/brand/you-mee

常識にとらわれないタコライスの寿司が人気

 ベンガルールの繁華街・コラマンガラ地区に位置するブルーパブ(店内でビールを醸造している店)「ゾックスブルーミル(XOOX Brewmill)」。2019年3月には、店内の一部に創作寿司を提供する別業態「ジャパニーズテラス(The Japanese Terrace)」をオープンし、話題を呼んでいる。

 看板メニューの「オキナワタコライス」(3個695ルピー=約1,070円)は、その名のとおり沖縄県の郷土料理・タコライスをアレンジした寿司。型を使って白米と牛肉のタコミートを円柱型に成形し、ゆず味のクリームチーズや枝豆、ドライトマトなどのほか、ヨットの帆のようにトルティーヤチップスを添え、立体的で色鮮やかな一品に仕上げている。

「オキナワタコライス」。味のベースはタコライスだが、どこか上品さを感じさせる

 また、「ヤサイロール」(5個890ルピー=約1,370円)は、レタス、キュウリ、ニンジンなど、数種類の日替わり野菜をゴマ入りのシャリとのりで裏巻きしたもの。上から照り焼きソースをかけ、ゆず風味のマヨネーズとサルサソースをトッピングしている。寿司と寿司の間に薄切りにしたレモンを立てたり、ダイコンとビーツで作った紅白のツマを添えるなど、彩りの華やかさにもこだわっている。

インドにはベジタリアンも多いため、「ヤサイロール」も人気のメニュー。わさびでスマイルマーク(写真右下)を作る遊び心も

 また、「寿司盛り合わせ(grand sushi platter)」(2,995ルピー=約4,612円)もビジュアルにこだわった盛り付けが印象的な一皿。シェフのセレクトで、日替わりの握り寿司6貫と巻き寿司16個、刺身4切れを盛り合わせた大皿だ。

「寿司盛り合わせ」。握り寿司と巻き寿司のシンプルな盛り合わせだが、エディブルフラワーなどを使って美しく盛り付けている

 主な客層は30~50代のミドルアッパー層。メニュー開発はインド人の寿司職人アキル・カム氏が行っており、インド人のニーズに合わせて独創的な寿司を次々に生み出している。インドでは寿司への注目度が年々高まっているが、ベジタリアンが多く、生魚を食べることに抵抗を感じる人も少なくない。魚の生臭さを感じさせない味付けや色とりどりの野菜を使った寿司は、まさにそうしたニーズを的確にとらえたもの。寿司の伝統や常識に捉われず、食材や盛り付けにこだわった創作寿司は日々進化を続けている。

The Japanese Terrace at XOOX Brewmill
#8 Koramangara Industrial Layout, Ward No.67, Bengaluru

取材・文/さいとうかずみ(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1インドルピー=約1.54円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。