①世界各国発 コロナショックからの再出発

世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルス。そこから立ち上がろうと営業を再開した事例を紹介。感染防止に努めつつ、どんな工夫で集客につなげているのか。前編では台湾とニュージーランドの店を取材した。

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Vol.209

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界各国の飲食店が「全面的な営業停止」や「テイクアウトとデリバリーのみ営業可」などの制約を受け、経営面で大きな影響を受けた。そんな中、新規感染者数の減少により、5月ごろから、来店人数に制限を設けるなどの条件の下、飲食店の営業が再開された国も増えつつある。

 営業を再開した飲食店では、感染予防や集客の対策としてどのような取り組みを行っているのか。前編では、感染拡大防止への早期対策を打ち出し、「コロナ対策の優等生」と称された台湾とニュージーランドの事例を紹介する。

台北の8坪のカレー専門店の感染防止対策

 台湾では、早期の対策が実り、ロックダウン(都市封鎖)や外出禁止令などが出されることもなく、収束へと向かっている。飲食店の営業についても強制的な規制は設けられなかったが、店内営業をする場合は「テーブル同士の間隔を空ける」「飛沫防止用のアクリルボードを設置する」といった対策が推奨された。そうした中、店舗側の自主的な判断で営業を自粛したり、営業形態を変更するケースも数多く見られた。台湾の首都・台北の信義(シンイー)区の一角に2012年オープンした日本風カレー専門店「寅樂屋(とららくや)」もその1つだ。

 店内はわずか8坪で、厨房とカウンター3席、2人用テーブル6卓(12席)の計15席を備えるこぢんまりとした空間。そのため、推奨されていた感染防止の対策を行うことは難しく、店内での感染リスクを抑えられないと考え、3月下旬ごろからイートインは一時休止し、もともと行っていたテイクアウトとデリバリー(半径5キロ以内)のみの営業にした。

 その後、台湾内の市中感染者が2週間以上、1人も確認されなかったことから、「政府の動向や、街の状況、雰囲気から、人々の心の中に安心感が広がっていると感じたため、4月中旬から店内での営業を再開しました」と、オーナーの高振御(ツォック・カオ)氏は振り返る。

 再開後の感染防止対策の1つが、入店前の来店客への検温だ。額にかざすと約1秒で測定できる体温計を用意し、37.5度以上あった場合は入店を断っている。さらに、検温に合格した人には、手のアルコール消毒もお願いしている。

非接触型体温計(右)で体温を測り、37.5度未満であればアルコール消毒液(左)で手を消毒してから入店してもらっている。台湾では商業施設などで検温が行われていることもあり、検温によって入店を断ってもクレームやトラブルにつながることはほぼないという

 また、営業再開後、しばらくの間は入口のドアを取り外して、店内を換気。台湾では、同様の換気対策が多くの飲食店で取り入れられているという。

営業再開当初は、ドアを外して通気性をよくした(写真)。ただ、5月中旬頃から気温が上がってきたため、ドアを戻し、クーラーで店内を冷やしつつ、定期的な換気にも気を配っている

 このほか、店内のテーブルも6卓から5卓に減らし、テーブル同士の間を空けている。さらに来店客が帰った後、同じ席に次の人を案内する前に、テーブルや椅子のアルコール消毒を徹底している。

 メニューは、「ビーフカレー」と「チキン&ポークカレー」(ともに店内飲食200元=約720円、テイクアウト135元=約490円、デリバリー150元=約540円)の2種類のみ。現在は、席数を減らし、客単価の高い店内飲食が減ったことなどから、新型コロナ発生前に比べて営業利益はやや下がっている状態だ。

「ビーフカレー」(写真はテイクアウト用)。「目玉焼き」や「福神漬け」「寅樂屋オリジナルの台湾揚げパンのフレーク」「みそ汁」などは各20元(約70円)

 親日家の高氏は日本の状況も気にかけており、沖縄でカフェを営む日本人の友人とも情報交換をしている。「日本で飲食店を経営されている方々も“自分の城”を守るために、焦らず段階を踏みながら、慎重に再開を進めてほしいです。真面目で衛生観念がしっかりしている日本だから大丈夫だと信じています」と、日本の飲食店にエールを送っている。

寅楽屋咖啡咖哩小食堂(TORARAKUYA-TAIPEI)
台北市大安區延吉街294號
https://www.facebook.com/TORARAKUYA

ニュージーランドで義務付けられた営業再開の条件とは

 台湾同様、早めの対策が功を奏し、コロナ対策では世界の模範とされているニュージーランド。3月下旬に出された非常事態宣言が5月13日に解除され、店内営業を再開する飲食店が増えている。その1つが、国内に約37店舗ある創業1952年の老舗カフェチェーン「ロバートハリス」。ニュージーランド北部のハミルトン市にあるチャートウェル店も、ほかの系列店同様、5月14日に営業を再開した。

 ニュージーランド政府は、飲食店がイートインを再開するにあたり、大きく2つの条件を義務付けている。その1つが、感染者が出た場合に備える「コンタクトトレーシング(接触追跡)」だ。「ロバートハリス チャートウェル店」では、店舗入口の消毒液で手を消毒したあと、自分のスマートフォンで登録用のQRコードを読み込み、個人情報を入力してからでないと入店できない。もしスマホを持っていない場合は、専用の用紙に来店日時と名前、電話番号などを記入する。

入口にあるコンタクトトレーシング用のQRコード。家族など複数人数で入店する場合も追加機能を使って、必ず全員分の情報を登録する

 もう1つの条件が、「フィジカルディスタンス(物理的距離)を取ること」。具体的には、立食ではなく座ること(Seated)、テーブルごとの距離を1メートル以上離すこと(Separated)、テーブル1卓につきスタッフ1人が対応すること(Single Server)で、それぞれの頭文字を取って「3S」というキーワードが浸透している。また、どんなに大きなテーブルでも1卓に座れるのは10名以内、店の大きさに関係なく、入店人数も100名以内に制限するよう定められている。そこで、同店ではテーブルの数を3卓減らすなどしている。

政府の定めた条件に従い、テーブルの間を1メートル以上空けたレイアウトに変更した

 これに加え、チャートウェル店では接触を避けるため支払い方法をクレジットカードとデビットカードのみにしている(姉妹店の中にはスマートフォン決済での支払いに対応している店もある)。さらに会計時は、前の人と2メートル以上の距離を保ってもらうために、立ち位置を示すシールを床に張っている。

 営業再開後は、エスプレッソとスチームした牛乳をブレンドしたニュージーランドの国民的ドリンク「フラットホワイト」(5ドル=約356円)などを求めて徐々に客足が戻ってきている。

「フラットホワイト」(写真奥)や「チョコレートムース」(同手前6.80ドル=約484円)などが人気

 居住地区のショッピングモール内に位置しているため、近くにある高齢者専用集合住宅に住む高齢者や、子ども連れのファミリーなどが常連だ。QRコードでの情報入力など新しい営業スタイルは手間で時間もかかるが、安心して外食ができる喜びには代えがたい。こうした取り組みが今後、世界の飲食店の新常識になっていくのかもしれない。

Robert Harris Café
Shop 104 Westfield Chartwell Shopping Centre, Chartwell Hamilton, New Zealand
https://robertharris.co.nz/your-local-cafe/robert-harris-chartwell/#

台湾 取材・文/mimi(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1台湾元=約3.6円

ニュージーランド 取材・文/りんみゆき(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約71円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。