Vol.210
新型コロナウイルス感染症の影響で、世界中の飲食店が休業に追い込まれたりテイクアウトやデリバリーのみの営業を強いられてきた。そんな中、徐々にイートインの営業を再開している店も増え始めている。後編では、まだまだ感染者が多いアメリカから、「ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、および衛生管理」と「高級感」を両立させながら営業を再開したレストランの取り組みを紹介する。
屋内の席数を減らし、例年よりも早めにテラス席を開放
アメリカ北西部、オレゴン州の大都市・ポートランド。その中心部から車で約1時間、ワインの生産地として有名なウィラメットバレーにある「ザ・ジョエル・パーマー・ハウス・レストラン(The Joel Palmer House Restaurant)」は、歴史的邸宅を改装して1996年にオープンした高級レストランだ。オーナー家族やスタッフが収穫した野生のキノコを使う料理や地元産のワインを売りに、多くのファンを獲得してきた。
そんな同店も、新型コロナの影響で2020年3月16日から休業してきたが、州から営業再開の許可が出たことを受けて、5月22日にイートインの営業を再開。オープンにあたってまず配慮したのは、ソーシャルディスタンスの確保だった。もともと店内はテーブル14卓、約40席を備えており、テーブル同士の距離も近かった。そこで、テーブルを8卓に減らしてそれぞれの距離を取り、全体の席数も半分程度にした。
しかし、当然、席数を減らしたことで集客できる人数は以前よりも減ってしまう。そこで、例年夏場の6月中旬~9月末ごろまで開放しているテラス席を前倒して使えるようにした。ここでもテーブルが近づかないよう配慮して、4人掛けを9卓設置。5月は特に日が暮れるとまだ肌寒いため、大型の屋外用ヒーターを3台置くほか、防寒のための膝掛けも準備した。(6月中旬現在もヒーターは設置している)
予約の際に屋内席を希望する客もいるが、特に指定がなければ、テラス席を優先的に案内するようにしている。
テラス席は中庭に面しており、よく手入れされた奥行きのある庭を眺めながらの食事が好評だ。
高級感を損なわずに、衛生管理を徹底
さらに、「ザ・ジョエル・パーマー・ハウス・レストラン」では、高級感ある店の雰囲気を壊さないようしつつ、衛生管理も徹底している。
入口に置く消毒液もその1つ。スーパーマーケットで販売しているような市販のプラスチック容器ではなく、陶器のボウルに入れており、入店前にスタッフが来店客に消毒液にタオルを浸して手を拭くよう案内している。
さらに、テーブルはもちろん、椅子の背もたれ、クレジットカードにサインするペンにいたるまで、店にあるものは使用するたびに消毒。また、メニュー表は消毒液で拭くと紙が湿気て波打ってしまうため、それまで使っていた厚紙のものにプラスチックのシートを付けた。「プラスチックのシートだけでは安っぽく見えるので、皮製のボードを組み合わせることで高級感を損なわないように意識しました」と、オーナーシェフのクリストファー・チャーネッツキ氏は語る。
チャーネッツキ氏は、「当店では野生のキノコを多く扱うこともあり、以前から食の安全には気を使ってきたつもりですが、営業再開にあたりこれまで以上に衛生管理を徹底しています」と語る。安心して食べられなければ、どんなに素晴らしい料理でもおいしくは感じられないからだ。
休業中はFacebook、InstagramといったSNSに加えて、これまで3カ月に1回常連客に送ってきたデジタルニュースレター(メールマガジン)の頻度を月2回程度に上げることで、店の近況報告をしてきた。さらに、ギフトカードを購入した人の中から抽選で「1,500ドル以上の価値の特別なコース」が当たるフェアや、シェフと地元のワイン生産者たちによる対談をライブ配信するなど、SNSでも情報発信を続けてきた。その甲斐あってか、営業再開を発表すると、わずか1時間でその週末の予約がすべて埋まり、上々の再出発を果たすことができた。
主な客層は、地元のワイン好きを中心にしたアッパー層。例年であれば、夏場は周辺のワイナリーを訪れる州外からの観光客も増えるが、今年は未知数な部分が大きい。「ソーシャルディスタンスの確保」「衛生管理」を徹底しつつ、店の高級感も損なわないように工夫している同店。課題も多く、楽観はできないが、来店客を笑顔にするためにできることを一つひとつ、手を抜かずに続けていく考えだ。
600 Ferry Street, Dayton, OR 97114
http://www.joelpalmerhouse.com/
取材・文/東リカ(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約108円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。