⑥世界各国発 コロナショックからの再出発

新型コロナウイルスの抑え込みに成功していると言われている台湾だが、一方で一気に利用者が増えたのがデリバリー。宅配事業で成功している飲食店の事例を紹介する。

URLコピー

Vol.220

 新型コロナウイルス感染拡大の抑制に成功している台湾。しかし当初は、市民の行動自粛などの施策も行っており、3月、コロナ禍によって飲食店の店内営業が制限されてから、一気に利用が広がったのがデリバリーだ。もともと、台湾では自宅で調理をする人があまり多くないことも背景にあるかもしれない。その後、規制は解除されたが、引き続きデリバリーが好調な店も多い。どんな店のデリバリーが人気を集めているのか、リポートする。

新鮮な油にこだわった、冷めてもおいしい揚げ物が人気

 台北市内の名門・台湾師範大学にほど近い場所にある師大夜市は、学生向けの食堂や屋台が集まるエリア。その一角にある「師園鹽酥雞(スーユェンイェンスージー)」は、1986年創業の揚げ物専門店(現在、台北市内で2店舗を展開)だ。イートインやテイクアウトだけでなく、デリバリーにも対応しており、デリバリーの利用率はコロナ禍以前より20~30%増加しているという。

店先には、鶏肉やソーセージのほか、エリンギやサツマイモなどの野菜、イカ、豆腐といった食材が並ぶ。これらを、注文後にその場で揚げて提供する

 「台湾では、油が高価なことから、あまり油を入れ替えずに同じものを何日も使い回す飲食店が少なくありません。しかし、油の質が悪いと、時間が経って冷めたときに風味や食感が悪くなります。これは、テイクアウトやデリバリーでは致命的。当店では、ご家庭でもおいしく食べてもらえるように、新鮮な素材を使うことはもちろん、油も毎日入れ替えています」と、オーナーのジミー・シェ氏は語る。一部の野菜は素揚げをしており、鶏肉は小麦粉などを衣にして揚げている。

 宅配業務は専門業者に委託しており、送料は注文数や距離に関係なく一律60元(約216円)。店内メニューはすべて注文可能で、デリバリー専用メニューとして、数種類の揚げ物を少しずつ楽しめる3種類の「コンボセット」(299元=約1,080円、499元=約1,800円、799元=約2,890円)も用意している。

揚げ物の種類ごとに袋に小分けして届ける「コンボセット」(写真は2~3人前、299元)。五香粉(中国の混合香辛料)や台湾バジルで味付けした看板商品の「鶏から揚げ」のほか、イカやジャガイモ、エリンギのフライなどが入っている

 また、蒸気で揚げ物の衣が湿気てしまうことを防ぐため、プラスチックの容器ではなく紙の小袋に料理を入れるなど工夫。また、袋の上部はあえて開けて通気をよくすることで、揚げたての食感が損なわれないようにしている。

オーナーのシェ氏(左)と、店長のジェリー・シュー氏(右)

 営業時間は12~24時半。その中で、特にデリバリーの注文が集中するのは、金~日曜日の22~24時だ。「週末の夜、小腹が空いて、唐揚げなどの揚げ物をつまみにビールを飲みたくなるのかもしれません」とシェ氏。一気に高まったデリバリーのニーズを獲得し、好調を維持している。

師園鹽酥雞(スーユェンイェンスージー)
台北市師大路39巷14號
https://www.facebook.com/ShiYun23633999

「タピオカミルクティー」などドリンクのデリバリーが好調!

 台湾で“美食の都”と呼ばれる台南市。この地で1987年に創業した「清心福全(チンシンフーチュァン)」は、台湾全土にFCで960店舗を展開するドリンクスタンドだ。緑茶やプーアール茶などをベースにしたオリジナルドリンク(1杯45~70元=約162~252円)を70種類近く提供。どのドリンクも甘さを0%、20%、50%、70%、100%の5段階から選ぶことができ、タピオカやプリン、アロエ、アイスクリームなどのトッピングも有料で追加可能。イートインもできるが、多くの人がテイクアウトで購入する。

 コロナ禍の影響で、同店では3月下旬から2カ月は売上が落ち込んだ。「台湾全体の自粛ムードが影響したのだと思います」とCEOの趙啟宏(チャオ・チーホン)氏は推測する。だが、その“魔の2カ月”が過ぎると、各店舗の売上は昨対110%にまで回復。それを牽引したのがドリンクのデリバリーだ。デリバリーは、合計200元(約720円)以上の注文から対応しており、最寄りの店舗から、スタッフが徒歩や自転車、バイクなどで無料配達。家庭やオフィスでまとめて注文する人が多いという。

人気のタピオカミルクティー「珍珠鮮奶茶」(写真は小サイズ45元=約162円、大サイズは60元=約216円)

 台北市内のオフィス街に近い「清心福全 信義世貿店」の店長・簡志倫(ジェン・ジールン)氏によると、デリバリーの注文が多いのは平日の12~15時と、仕事や学校が終わった後の18時~20時半だという。

 また、土曜日の夜も注文が多く、特に人気があるのは乳酸飲料に緑茶をブレンドしたアロエ果肉入りの「蘆薈優多綠茶」(70元=約252円)だ。「さっぱりした味が特徴の消化を助けるドリンクです。週末、昼に食べすぎたから、夜はドリンクだけで済ませるという人も少なくないようです」と趙氏は語る。

ヘルシーさが好評の「蘆薈優多綠茶」(中央)。ほか、グレープフルーツを使った乳酸飲料「優多葡萄柚」(右/60元=約216円)、渋めのプーアール茶とフレッシュミルク、タピオカを組み合わせた「珍珠蜂蜜鮮奶普洱」(左/70元=約252円)も人気

 加えて、デリバリーをする上で気をつけているのが、商品の温度だ。ぬるいとおいしくない上に、氷が溶けて味が薄くなってしまう。そこで、オリジナルのロゴ入りクーラーボックスに入れて宅配。ロゴマークを見て、「あの店はデリバリーもしてるのか」と知る人も多く、認知度アップにもつながっている。

「清心福全 信義世貿店」の店長・簡氏(右)。コロナ禍でも好調なデリバリーに手応えを感じている

 コロナ禍による観光客減少の影響は大きく、もともと外国人観光客が多いエリアの店舗では苦戦を強いられたという。一方で、住宅街やオフィス街の店舗は、デリバリーでまとめ買いをする近隣住民やビジネス層の取り込みに成功。デリバリーの売上はどの店舗も昨対比115~120%をキープしている。

清心福全 台北信義世貿店
台北市信義区呉興街152號
https://www.chingshin.tw/

取材・文/mimi(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1元=約3.6円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。