⑧世界各国発 コロナショックからの再出発

新型コロナの世界的な感染拡大が続いているが、国ごとに状況は異なっている。店内営業の禁止と解除が繰り返されている中国・香港と、約半年間、新規感染者がほとんど出ていないタイ・バンコクでの取り組みを紹介する。

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Vol.222

 コロナ禍を生き抜こうと、新たな商機を模索し続ける世界各国の飲食店。世界各国の料理を「日替わりデリバリーメニュー」として販売している中国・香港の店と、「うどん」や「パフェ」をSNS映えするメニューにアレンジすることで、集客に成功しているタイ・バンコクの飲食店を紹介する。

系列店で協力し合い、デリバリーメニューを日替わりに

 中国の香港では新型コロナの影響により、2020年3月から11月までの間に3回、店内での飲食が禁止になった。12月1日現在、イートイン営業は許可されているが、テーブルの大きさに関係なく、1卓に座る人数を4人以下にしなくてはいけないといった制限が設けられている。

 こうした中、デリバリーでユニークな試みをしているのが、飲食企業「ブラックシープ」だ。2012年に1店舗目を商業地区・セントラルにオープンし、2020年12月現在、香港内で27店舗を展開。特徴的なのは、同じブランドを展開するのではなく、店ごとに料理のジャンルが異なっている点。中国料理はもちろん、タイ料理、ベトナム料理、レバノン料理、日本料理、イタリア料理など、合計17カ国の料理を各店舗で提供している。

「ブラックシープ」のグループ店舗が出す料理は国際色豊か(写真はイメージ)

 そんな同グループが自社の強みを生かして、2020年7月にスタートしたのが、デリバリーサービス「サパーカルトミールプラン」だ。これは、毎晩、利用者が指定した同じ時間にさまざまなジャンルの日替わり料理を配達するもので、料金は5日分で1人前1,400ドル(約1万9,000円)。

 料理のラインアップは、前週に発表。例えば、月曜日はインド料理店から「魚のティカカレー/レンズ豆のカレー/インド風サラダ」、火曜日はタイ料理店から「グリーンチキンカレー/青パパイヤのサラダ/空心菜の炒め物」、水曜日はギリシャ料理店から「ローストチキン/ギリシャ風サラダ/ハムス(ひよこ豆のペースト)の野菜スティック添え」、木曜日は日本料理店から「すき焼き/水菜のサラダ/漬物盛り合わせ」、金曜日はイタリア料理店から「鯛のグリル/ローマ風サラダ/ブロッコリーニ(スティックセニョール)の炒め物」といった内容だ。1日およそ3品ずつ(白米などは除く)で、同じ飲食店でもできるだけ毎回違うメニューを用意することでリピーターが飽きないように工夫している。

ある日のデリバリーメニューは ベトナム料理。アカメの仲間の大型魚・バラマンディ(右下)と生野菜(左下)をライスペーパー(下)で包んで食べる「バラマンディのベトナム生春巻き」のほか、「ベトナムハーブとキャベツのサラダ」(左上)、「オクラ、サヤエンドウ、ホウレンソウ炒め」(右上)

 「サパーカルトミールプラン」の利用者は、1人暮らしの人や共働きの夫婦が中心だが、中にはホテルで2週間の検疫隔離中という人も。「外出制限で外食の機会は減ったが、家庭でも飲食店の本格的な料理を食べたい」という人や、「毎日献立を考えたり、料理を作るのが大変」という人たちから好評を得ている。ベジタリアンやアレルギーは予約時に伝えてもらうことで対応。さらに、予約時に伝えれば通常メニューとは別のサプライズメニューの提供も無料で対応しており、記念日などでの利用にもつながっている。

デリバリー業務を外部委託するとコストが掛かるため、オートバイ20台、車5台、バン2台、自転車5台を用意して自社で配達に対応。オリジナルアプリも開発して、受注を管理している

 11月下旬から第4波が襲ってきている香港では、4度目となる店内営業禁止も現実味を帯びている。デリバリーのニーズはさらに増えていくであろう状況で、他店とどう差別化し、食の喜びをどう演出するかが飲食店に問われているといえそうだ。

BLACK SHEEP RESTAURANTS Le Garcon Saigon
G/F, 12-18 Wing Fung Street, Wanchai Hong Kong
https://blacksheeprestaurants.com/

来店したくなるSNS映えメニューの開発に注力

 12月現在、新型コロナの新規感染者数がほぼゼロの状態がおよそ半年間続いているタイ。首都バンコクの街は活気を取り戻し始めているが、感染リスクを恐れて食事はテイクアウトやデリバリーで済ます人が多いこともあり、イートイン営業をしている飲食店の多くが集客に苦しんでいる。

 そうした中、日本人オーナーの和久田徹氏が、日本人が多く住むバンコク・プロンポン地区で6月20日にオープンしたイートイン専門のうどん専門店「KOMUGI」が好調だ。もともと、うどんはデリバリーには不向きなので、イートイン営業でしっかり売上を上げる必要があるが、駅から歩いて10分で、駐車場もなく、決して恵まれた立地とは言えない。にもかかわらず、週末になると1~2時間待ちも珍しくないほどの盛況ぶりを見せている。

 人気の理由は、「SNS映えするメニュー」だ。その筆頭が、真っ白な泡状の層で表面が覆われた「白いカレーうどん」(300バーツ=約1,000円)。ふかしたジャガイモに牛乳と生クリームを加えてミキサーにかけてペースト状にしたものをカレーうどんの上にかけている。「日本で話題になった白いカレーうどんを参考に、魚介系の出汁という淡泊な味ではヒットしないタイ人客の舌を意識して、見た目で差別化させたいと考えてメニューに取り入れました。カレーとジャガイモは相性がよく、牛乳や生クリームを使うことで、カレーが滑らかでコクのある味わいになります。見た目が面白いので話題になるはずと思い、オープン時から提供しています」と和久田氏。カレーは魚介系のだしを使ったパンチの利いた辛さが特徴。これを白いペーストと合わせることで、マイルドな味わいを楽しむことができる。

「白いカレーうどん」。飲食店でランチが200~300円程度で食べられるタイで、1杯約1,000円はかなり高額だが、それでも1日100杯近くを売り上げる人気メニューになっている

 もう一つの人気メニューが、巨峰やマスカットなどをふんだんに使った「たっぷり葡萄のパフェ」(280バーツ=約960円)だ。ブドウをたっぷりと使い、高さは約20センチ。ボリュームがあるので、女性同士やカップルが一つのパフェをシェアするケースが多い。ほどよいブドウの酸味とクリームの甘みがマッチ。こちらも「白いカレーうどん」同様、SNS映えを意識したメニューで、狙い通り写真を撮影する人が多いという。

イチ押しの「たっぷり葡萄のパフェ」(右)と定番の「イチゴパフェ」(左300バーツ=約1,000円)。パフェが評判を呼び、カフェタイムの利用も増えている

 オープン前、和久田氏は日本人の駐在員などがターゲットになると想定していたが、いざふたを開けてみると来店客の9割がタイ人の女性。タイの著名なインスタグラマーなどが、白いカレーうどんやパフェの画像などをアップしたことで話題になり、来店客の多くが写真を撮影してSNSに投稿することで相乗的に集客アップにつながっていった。

「KOMUGI」のスタッフたち。店内のインテリアや飾り付けなどはファッションに敏感な若い女性スタッフの意見も積極的に取り入れた。写真映えするおしゃれな空間も女性から好評

 「SNS映え」は、コロナ禍が起こる前までは、飲食店にとって集客アップのキーワードの一つだった。コロナによってテイクアウトやデリバリーに力を入れる店が増えたが、今、改めてもう一度「SNS映え」に注力することも、イートインの集客アップの一つの手かもしれない。

KOMUGI
51/5 Sukhumvit39, Khwaeng Khlong Tan Nuea, Khet Watthana, Bangkok 10110

取材・文/りんみゆき(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1香港ドル=約13円
取材・文/小堀晋一(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.44円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。