(前編)米国発 人気急上昇!アジア風味のフライドチキン

現在、アメリカでテイクアウトやデリバリーのメニューとして人気を集めているのがフライドチキン。特にポートランドで話題となっている、アジア風の味付けをしたものを紹介する。

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Vol.227

 スパイスを利かせたフライドチキンは、もともとアメリカ南部の伝統料理だったが、いまやハンバーガーやピザなどと並ぶアメリカ人のソウルフードの一つになっている。

 特にコロナ禍で外出もままならぬ中、家庭では気軽に作りづらいフライドチキンのデリバリー需要が高まっている。特に、これまでのアメリカ南部風(バターミルク、にんにく、塩こしょう、チリなどで下味を付け、ザクザクした衣が特徴)とは一味違うエスニックな味付けをしたフライドチキンが人気だ。このトレンドを牽引するオレゴン州ポートランドのレストランの事例を紹介する。

揚げエシャロット付きのタイ南部風フライドチキン

 アメリカ太平洋岸北西部、オレゴン州最大の都市・ポートランドの飲食店が集まるエリアに2019年6月オープンした「ハットヤイ(Hat Yai)」ベルモント店。店名は、タイ南部、マレーシア半島の中ほどにある都市・ハジャイに由来している。バンコク出身のシェフ、アール・ニンサム氏が、ポートランド生まれの共同経営者、アラン・アクワイ氏とともに、ポートランド北部の住宅地で2016年に創業したファストカジュアルレストランの2号店だ。

 同店のテイクアウトやデリバリーで人気を集めているのが、タイ風の「フライドチキン」(1羽 25ドル=約2,640円、ハーフ 13ドル=約1,370円、手羽先 2ピース7ドル=約740円など)。小麦粉ではなく、米粉とタピオカ粉で揚げたサクサクの衣に、コリアンダーシード(すりつぶさず、種のまま使用)や粉末にしたクミン、白コショウといったタイ料理でおなじみの香辛料で味付け。加えて、チリペーストと砂糖、酢で作った自家製スイートチリソースと、香ばしく揚げたエシャロットが添えてあり、味の変化が楽しめる。

「フライドチキン」に左のスイートチリソースをつけたり、手前のカップに入った揚げエシャロットをかけて食べる。1羽分やハーフには、手羽、胸肉、もも肉など、さまざまな部位を使用している

 このフライドチキンをメインにしたセット「ハットヤイフォートゥー」(2人前25ドル=約2,640円※4人前「ハットヤイフォーフォー」は45ドル=約4,750円)も人気。フライドチキン(2人前はハーフ、4人前は1羽分)に、フライパンで焼いたタイの薄焼きパンであるロティとマレー風カレー、ライスが付いてくる。

フライドチキン、ご飯、カレー、ロティがセットになった「ハットヤイフォーフォー」(4人前)。サイドディッシュの「キャベツの炒め物」(左奥 8ドル=約840円)やクラフトビール(右奥 5.5ドル=約580円)も人気

 ベルモント店は、2020年3月のロックダウンにより、全面営業停止に。しかし、1カ月後の再開時に、オンラインでテイクアウトの注文を受ける仕組みを整えたところ、新規客が右肩上がりに増えていった。

2021年3月末現在、店内での飲食は不可。ただ、テラス席での飲食は許可されており、テイクアウト用の容器で提供している

 主な客層は、周辺の住人や近隣で働く人たち。コロナ禍でフライドチキンのテイクアウトやデリバリーのニーズが高まるなか、一味違うフライドチキンで集客アップに成功している。

ハットヤイ(Hat Yai)ベルモント店
605 SE Belmont Street, Portland, OR 97214
https://www.hatyaipdx.com/

4種のソースで楽しむカンボジア風フライドチキン

 同じくポートランドにある「プレイ+テル(Prey + Tell)」は、カンボジア系アメリカ人のシェフ、ダイアン・ラム氏が2021年1月にオープンしたフライドチキンウイング(手羽先のフライ)のデリバリー専門店。もともとラム氏が経営していた創作カンボジア料理店で、試作として出したカンボジア風フライドチキンが人気になり、専門店を立ち上げたという。

 看板料理は「フライドチキンウイング」(5個10ドル=約1,050円~)。手羽肉をオイスターソースとバターミルク、オリジナルスパイスに漬け込んでしっかりと下味を付け、タピオカ粉や片栗粉、コーンスターチ、米粉をミックスしたグルテンフリーの衣で揚げている。加えて、ディップ用のオリジナルソース4種類から1種類(12個以上で2種類、20個以上で3種類)を選べる。

 ソースの一番人気は、マヨネーズやビネガーをベースにしたクリーミーかつ爽やかな風味の「ナーリー・ランチ」。そのほか、ライムジュースをベースに、カンボジア名産のこしょう「カンポットペッパー」などのスパイスを加えた「メコン・マッド」、たっぷりのバターと2種類の唐辛子ソース、コブミカンで香りを付けた「ライム・バッファロー」、キャラメル、魚醤、シェリー、ラード、こしょうなどで作るコクとうま味のある「ブラック・バター」を用意している。

「フライドチキンウイング」の15個入り(写真22ドル=約2,320円)。ソースの追加注文(各2ドル=210円)も可能。写真のソースは下から時計回りに「メコン・マッド」、「ナーリー・ランチ」、「ブラック・バター」、「ライム・バッファロー」
「おすすめのソースは、『ライム・バッファーロー』です」と語るシェフのダイアン・ラム氏

 また、ヘルシーなカリフラワーライスに砕いた乾麺を混ぜたジャスミンライスなど、4種類の「Rice Pack」(各4ドル=420円)も販売している。

「Rice Pack」は、バナナの葉に包んで提供。手づかみで食べることを推奨している(Photo by Summer Luu)

 デリバリーでフライドチキンを販売しようと考えた理由は、近年、パブでクラフトビールとフライドチキンの組み合わせが人気を集めていることが一つ。また、下ごしらえさえしておけば調理が簡単でスタッフの数も最小限で運営できることや、時間が経っても味が落ちにくいことなどからデリバリーに向いていると考えた。

 老若男女に愛される店になりたいという思いから、フライドチキンのベースの味付けは辛すぎず、油も重すぎず、万人受けするように工夫。味わいの異なるソースを4種類用意したことも奏功し、子どもからシニアまで幅広い層のファンを獲得している。

プレイ+テル(Prey + Tell)
3560 North Mississippi Avenue, Portland, OR 97227, US
https://www.preyandtell.com/

取材・文/東リカ(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約105円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。