アメリカ発 屋上農園を作ったレストラン

シカゴでは土壌栽培の屋上農園を営むレストラン、ニューヨークでは垂直水耕栽培の屋上農園を持つレストランが誕生。野菜を収穫してすぐにフレッシュな料理を提供するレストランをリポート。

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Vol.16

アメリカ・ニューヨークでは、食品はできるだけ地産地消し、環境負荷の低い “サスティナブル(持続可能であるさま)”なライフスタイルが注目されている。その波はレストランにも波及しはじめ、サスティナブルな屋上農園で育てた野菜を使う店が増えてきたことを前回紹介した。

自分で育て、自分で収穫し、階下でそのまま料理。この便利さがたまらない

都市で育てた野菜を使えるということは、必要なときに必要な分だけ新鮮な野菜を簡単に手に入れられ、収穫されてから客のテーブルに届くまでの時間は、わずか数時間ほどになったということ。

そして、さらなる新鮮さを追求する店も登場している。シカゴでは土壌栽培の屋上農園を営むレストラン、ニューヨークでは垂直水耕栽培の屋上農園を持つレストランが誕生し、“レストラン自体の屋上を農園にする”というところにまで行きついた。屋上からテーブルへ。屋上農園を自ら持ち、野菜を収穫してわずか数分でフレッシュなメニューを提供するレストランの動向をリポートする。

採れたてをすぐ調理してすぐに出す。これがファンを生む秘訣
これからはサスティナブルなレストランとして地域に密着したイベントも求められる

屋上農園レストランが生んだコミュニティセンター

シカゴのレストラン「アンコモン・グラウンド」(Uncommon Ground)は、サスティナブルであることを徹底し、地元に密着した営業を行なっている。同店の屋上には、水耕栽培ではなく土壌栽培による農園があり、トマト、スナップエンドウ、ソラマメ、キュウリ、キャベツ、カボチャ、コショウ、ナス、ホウレンソウなど、レストランで使用するほとんどの野菜が作られている。また、ハチを巣箱で飼育してハチミツを採ったり、ブドウなどの作物は1階の庭も使って栽培しているという。

アンコモン・グラウンドの屋上農園。土壌栽培で様々な野菜が育てられている

「初めてこの建物の屋上に登ったそのときに、ここに農園を作ることを思い立ちました。そして次の瞬間には、真っ赤に熟したトマトが実っているところを想像したのです」と、夫マイケル氏とともにアンコモン・グラウンドを経営するヘレン・キャメロン氏は語る。

この農園は期間限定で地域に公開し、近隣の人たちに屋上農園の作り方の指導もしているそうだ。また、レストランでは毎日音楽ライブが行なわれているほか、スローフードのイベントや地元アーティストの展覧会も行なうなど、徹底して地域と深い関わりを持ち続けている。アンコモン・グラウンドはレストランであると同時にコミュニティセンターとして、サスティナブルな食生活と、その先にあるライフスタイルを提案し、啓蒙しているのだ。

このように都市農園を持ち、そこをベースとして“食育”を行ないながら、地域に深く根付くというレストランのあり方は、これからの日本でも大いに参考になるだろう。

ライブ(写真)、スローフード・イベント、アート・イベントなどを開催し、地域に密着した店舗運営を行なう
バケットに生ハム、そして採ったばかりの野菜を載せる。これぞ屋上農園の醍醐味
アンコモン・グラウンド
(Uncommon Ground)
1401 West Devon Avenue Chicago, IL 60660
営業時間
月-木・日 9:00~22:00(バーは24:00まで)

金・土 9:00~24:00(バーは2:00まで)
http://www.uncommonground.com/

レストラン自身で使用野菜の3分の2を賄う

ニューヨークのレストラン「ベル・ブック・アンド・キャンドル」(Bell Book & Candle)のオーナーシェフ、ジョン・ムーニー氏が店の屋上を農園にすると決めたとき、選んだのは垂直型の水耕栽培プランターだった。ここニューヨークの家賃の高さとビルの耐加重を考えれば、単位面積あたりの収穫高を最大化できて、しかも軽量なこのプランター以外に選択肢は思いつかなかったという。

屋上に並んだプランター。水の循環だけで養分を運ぶのでムーニー氏は「液状の土(liquid soil)」と呼ぶ

ベル・ブック・アンド・キャンドルの屋上には、およそ60本のプラスティック製プランターが並んでいる。1本500ドルするプランターには24株の野菜が植えられ、「ここで作る野菜で、レストランで使用する野菜の必要量の3分の2は賄える」というから、とても頼もしい存在であることがわかる。

屋上農園を作るまでは、野菜の仕入れでどうしても余分が出ていたが、「今は必要な分だけ収穫するので、余分が出ない。そのときに必要なだけのコストで済んでいる」という。また、屋上緑化されたことで、ビルに直接太陽熱が伝わらなくなったため、冷暖房コストの削減というおまけもついた。

屋上栽培の野菜でムーニー氏のお気に入りはトマトだが、「ダイコン、ニンジン、タマネギのような根菜以外ならどんな野菜でも水耕栽培に適している」と言い切る。水耕栽培では土の代わりに水が養分を運ぶが、彼が育てるレタスは土で栽培するよりも25%は早く育つそうだ。

彼は、このシステムが今後10年でもっと普及していくはずだと言う。実際に、噂を聞き付けた友人や知人たちが、同じプランターを10本、20本という単位で購入したそうである。

水耕栽培プランターを使ったシステムならば、日本のビルの屋上にも手軽に導入できそうだ。東京ならば青山あたりのレストランに、“屋上野菜のサラダ”のようなメニューが加わる日も遠くはないかもしれない。

屋上で収穫した野菜を「ルーフトップ(屋上)サラダ」としてレストランで出している
アートが素敵なベル・ブック・アンド・キャンドルのインテリア

SHOP DATA

ベル・ブック・アンド・キャンドル
(Bell Book & Candle)141 West 10th St. NY

営業時間

http://www.bbandcnyc.com

取材・文/栗原伸介
写真/Uncommon Ground、Bell Book & Candle

※価格・営業時間は取材時のものです。予告無く変更される場合がありますので、ご注意ください。