UAEドバイ・アブダビ発 アラブの食を伝えるレストラン

近年注目を集めるドバイとアブダビは、人口の80%以上は外国からの移住者という国だ。アラブの伝統文化を守りつつ、独自のアレンジを加えることで話題を呼んでいるレストランを紹介する。

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Vol.17

巨大な観光マネーを集めるドバイ。ルーブル美術館が開館予定となっているなど、近年注目を集めるアブダビ。アラブ首長国連邦(UAE)のこの2つの突出した国は中東とヨーロッパ、アジアが交錯する場所にあり、しかも人口の80%以上は外国からの移住者という特殊な環境にある。これだけ外国化、多国籍化が進むこの地では、いかに自国の文化を守っているのだろう。アラブの伝統文化を守りつつ、独自のアレンジを加えることで話題を呼んでいるレストランを2回にわたってご紹介する。

アラブ伝統の食材「デーツ」をテーマにしたカフェ・レストラン「カフェ・バティール」
カフェ・バティールでは伝統食材をおしゃれにブランディング。デーツを使ったスパークリング・デーツ・ジュース
ドバイで唯一、地元料理を提供する「アル・ファナール」はレストランであり、ミュージアムでもある

アラブのソウルフードをブランディングしたレストラン

ナツメヤシの実「デーツ」は旧約聖書やコーラン、物語のアラビアンナイトにも出てくるほど、古くからアラブの生活の中で大切な意味を持つドライフルーツだ。朝食やおやつ、パンのトッピング、そして断食明けには必ず食すもので、アラブの人たちにとってソウルフードのようなものだ。

デーツの実をいかに美しく見せるかを研究し、工夫を重ねた。それがこのバティールの成功をもたらした

このデーツを販売していたドバイのショップ「バティール」(Bateel)では、それまで無造作に販売していたデーツを美しく装飾された箱に入れ換え、レモンやオレンジピール、ナッツなどを添えてみた。すると、これが当たり、やがて高級贈答品として使われるようになった。

今では、押しも押されぬデーツの高級ブティックとなったバティールは、2007年にレストラン「カフェ・バティール」(Cafe Bateel)の1号店をオープン。現在では、ドバイで7店舗を展開している。カフェ・バティールでは、デーツを使ったパスタやパン、オリーブオイル、バルサミコ酢などを独自に開発。イタリア・ウンブリア州の伝統的なレシピを用いて“アラビアン・イタリアン”とも言えるデーツを中心としたメニューを提供している。また、レストランで使う食品や調味料の販売も行ない、ドバイのお土産に高級デーツを買い求める客層に、それらがぴったりとはまり、見事に成功を収めている。

日本でも老舗の飲食店などがカフェ業態を併設し、独自に開発したメニューや食品を販売しているケースがある。これから国際化がますます進むなか、このように地元の食材を核にしたレストランの展開や食品開発・販売というモデルは、今まで以上に盛んになるだろう。

オリジナルのバルサミコ、オリーブオイルもデーツが入っていてアラブ流に
デーツが練り込まれたパスタ。もちろんトッピングもデーツ
カフェ バティール
(Cafe Bateel)
The Dubai International Financial Centre(DIFC)
Podium Level, Building 2(South)
DIFC, Dubai
営業時間
7:00~24:00 ※年中無休
http://www.bateel.com/

1960年代のドバイを再現し、郷土料理をアピール

石油が発見されるまで、1960年以前のドバイは、遊牧民や真珠漁の漁民、真珠商人たちが暮らす静かな町だった。高層ビルはなく、外国人もいない。そんな時代から地元住民“エミラティ(Emirati)”が食べてきた郷土料理は、肉(鶏、羊、山羊、牛肉)と米、乳製品を中心としたどっしりとした料理で、現在のドバイのような都会で主として食べられる生野菜をたくさん使ったアラブ料理とは、趣向が違っている。砂漠の厳しい自然の中では植物が育たないため、肉主体の料理になったのだ。

アル・ファナールのメインダイニングは落ち着いた空間。1960年代の真珠商人の家を再現している

ドバイではそんな郷土料理を扱うレストランはこれまで1軒もなかった。それは、郷土料理は家で食べるものという考えがずっと長く続いたこと、各家庭でレシピが異なり、料理本などにもほとんど紹介されず、体系化されていなかったためだ。

しかし、昨年10月にオープンした「アル・ファナール」(Al Fanar Restaurant & Cafe)は、そんな郷土料理に光を当て、ドバイ国内に暮らす移住者、観光で訪れる人たちに向けて発信したいというオーナーの思いから生まれたレストランだ。伝統的なアラブを知ってもらうため、レストランにはオイルマネーで潤う以前のドバイの町を再現。昔ながらの料理を堪能できるだけでなく、伝統的なアラブの生活を展示するミュージアムも併設している。

これまでどこにもなかったこのアル・ファナールのコンセプトは当たり、オープンと同時に店は大変な人気で、シャイフ・モハマド国王や、ハマダン皇太子もプライベートで訪れたという。

今まであまり注目されずにきたアラブの生活や食文化が、この店をはじめとして、これから増えていく可能性を秘めている。また、それらの店に注目が集まれば、いずれこの郷土料理が海外でも広がっていくのではないだろうか。
次回は、アブダビで開催された食の祭典「Gourmet Abu Dhabi」のリポートとともに、進化するアラブ料理を紹介する。

郷土料理の1つである「ケバブ・エミラティ」
代表的米料理である炊き込みご飯「マクブース」(写真は鶏肉をつかったもの)

SHOP DATA

アル・ファナール
(Al Fanar Restaurant & Cafe)Canal Walk, Dubai Festival City Mall, Dubaihttp://www.alfanarrestaurant.com/

取材・文/栗原伸介
写真/カフェ・バティールの写真 Jean-Luc Vila
取材協力/ドバイ政府観光局

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。