Vol.19
2008年に輸入ワインに対する関税が撤廃されてから、香港ではワイン市場が大きく成長している。クリスティーズやサザビーズをはじめとしたオークション会社が香港に進出して活発に取引が行なわれるようになり、2009年にはニューヨーク、ロンドンを抜いてワインオークション成約額で世界一になった。翌2010年には「シャトー・ラフィット・ロートシルト1869年」がオークション史上最高値の180万香港ドル(約1,800万円)をつけるという記録も誕生。そんな空前のブームに沸く香港のワイン事情を2回にわたって探る。
なぜワイン? ブームの背景とは
かつて香港でパーティや宴会に行くと、供される酒はブランデーやウイスキーなどのハードリカーだった。しかし、今は違う。ワイングラスで乾杯する香港人たちの姿が、当たり前になっている。
わずかこの2、3年の間で香港のワイン事情は大きく変貌。理由は2008年の香港政府による酒類の関税撤廃と許認可制の廃止だ。
香港はアジアの一大貿易拠点であり、政府は今後の貿易の戦略として「アジアにおけるワインの貿易・流通の拠点を目指す」とし、その取り組みを強化。もともとぜいたく品として80%の税が課されていたワインは、2007年に40%、2008年に0%となった。同時に酒類の貿易や製造、保存、運搬に関わるライセンスや許可制度も廃止された。
これで輸入額は飛躍的に伸び、2006年に約1億USドル(約78億円)だったのが2011年には約13億USドル(約1,014億円)にまでなった。そして競売会社はこぞって香港に拠点を作った。このため、酒税撤廃から2年後の2010年には、オークション成約額が1.6億USドル(約124億8,000万円)となり、香港はニューヨークを抜いて世界一に。2011年も2.3億USドル(約179億4,000万円)で1位を維持している。
オークションでの莫大な需要を支えているのは、中国本土の富裕層。理由は単純で、中国本土ではワイン輸入に45%という高い関税がかかるためだ。おかげで中国全体でのワイン消費は2011年にアメリカ、イタリア、フランス、ドイツに次ぎ世界5位となった。
「オークションがあり、関税がない」ということで、香港はワイン保管・貯蔵場所として注目され、高級ワインセラーのビジネスも続々と誕生。香港政府自ら「ワインは香港で買って香港で貯蔵するのが一番お得」というアピールを行ない、貯蔵ビジネスを推進している。また、ワイン販売にライセンスが不要となったため、小売店やレストランで売りやすくなったこともブームを後押ししている。
約570種のワインをそろえる広東料理レストラン
このブームの中でも、特にワインに力を入れている高級広東料理店が、「ミシュランガイド 香港・マカオ2012」で一つ星を獲得した「マンワー」(Man Wah)だ。同店では席に着くなり、ワゴンサービスのシャンパンを薦められる。インテリアはあくまで重厚な中国風なのに、ワインの品ぞろえが豊富でここが中国料理の店であることを忘れるくらいだ。
広東料理とワインのマリアージュを徹底追求するマンワーは、ワインイベントにも力を入れている。これまでに、「ドン・ペリニヨン」をメインにしたモエ・エ・シャンドン、オーパス・ワン、ペンフォールドなど、そうそうたるメゾンのディナーイベントを行なってきた。
「イベント以外で意識しているのはグラスワインの種類です。お客様が気軽にワインに親しんでいただけるよう常時23種を用意し、シャンパン、赤、白、ロゼからデザートワイン、ポートワインまでグラスワインを多くそろえています」と、話すのは料飲部門マネージャーのサミュエル・ウー氏。
産地で見るとフランスのシャンパーニュ、ブルゴーニュ、ローヌ、ラングドック、アメリカのナパ・バレー、イタリアのピエモンテ州が多く、リストには最高6万8,000香港ドル(約68万円)のものまで、約570種ものワインが並ぶ。
また、最近は新しいシグネチャー(看板)メニューを開発し、その料理に合わせて4種のセレクションから客が好みのワインを選べるようにしているという。
マンワーではこのように徹底して客が常にワインと接するよう工夫し、ワインとの組み合わせでメニューを開発・提案し、イベントを行なう。その結果、広東料理ファンをワインファンに育てることに成功しているのだ。
Mandarin Oriental, Hong Kong5 Connaught Rd W 香港
http://www.mandarinoriental.com/hongkong/dining/restaurants/man_wah/
取材・文/栗原伸介
※通貨レート:2012年6月13日現在 1香港ドル=10円、1USドル=78円
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