中国・香港発 ワイナリーなども登場!香港のワインブーム

世界のワイン業界から注目を浴びる香港には、会員制のワインクラブやワイン・テイスティングバー、メイドイン香港のワインを作るワイナリーなどが続々と出現。香港のワイン・ビジネスを追う。

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Vol.20

前回も紹介したが、関税撤廃でワインが安く手に入るようになり、世界のワイン業界から注目を浴びる香港は、ワイン貯蔵のハブ(=ワインハブ)として世界でもっとも重要な拠点に突如躍り出た。会員制のワインクラブやワイン・テイスティングバー、そしてメイドイン香港のワインを作るワイナリーなどが続々現れ、今や香港はアジアにおいて、1人当たりのワインの年間消費量が日本やシンガポールの約2倍となる4.7リットルで堂々の1位。香港がアジアのワイン市場、ひいては世界のワイン市場を大きく変えようとしている。

社交の中でのワインがすっかり定着。ワイナリーで行なわれたパーティの様子
まるでプライベートバンクの金庫!?貴重なワインを預けるプライベートセラーが大流行。ザ・セントラル・ワインクラブのセラー
香港初のワイナリーでは香港流の合理的な方法でワイン作りが行なわれている

ワインブームでニュービジネスが続々と誕生

夏場ともなれば気温30℃を優に超える香港では、ワインを常温貯蔵することができない。加えて香港ではマンション住まいが普通で、自宅にワインセラーを置くことも難しい。そこでセラービジネスが盛んになり、勢いを見せている。

ザ・ケーブのワインセラー。希少なワインを管理するため、温度、湿度管理はもちろんのこと、顧客によるモニタリングも可能

香港に本社を置く運送会社が母体のクラウン・ワールドワイド・グループは、関税撤廃以前から「クラウン・ワインセラーズ」(Crown Wine Cellars)を展開しているが、第二次大戦中の防空壕跡にセラーを作っており、このワインブームでさらに中国からの顧客を取り込んで人気を博している。

また「ザ・ケーブ」(The Cave)も中国越境近くにセラーを構え、中国人富裕層を顧客として成長。70室の個室セラーには1室当たり最大550ケースのワインが貯蔵できる。また、監視カメラを導入し、顧客が自分のセラーをオフィスや自宅のPC、スマートフォンからも確認できるというシステムを持つ。

さらに、セラーの機能を持つ会員制ワインクラブもある。 「ザ・セントラル・ワインクラブ」(The Central Wine Club)では、年間6万8,000香港ドル(約68万円)を支払ってプラチナ会員になれば、個人でもワインをセラーで保管することが可能だ。

一方、高級ワインをボトルやケース単位では買わないが、少しだけ味わいたいという層に向け、ワイン・テイスティングバーも登場している。「テイスティング・ワイン・バー」(Tastings Wine Bar)では約200種類のワインをそろえ、イタリア製のワインサーバーを導入。顧客は、プリペイドカードを購入して壁に設置したサーバーから、フルグラス(150ml)、ハーフグラス(75ml)、テイスティング(25ml)と分量を選んでワインを注ぐことができる。

いずれのビジネスもワインハブとしての立場を活かし、この5年間ほどで急成長している。

クラウン・ワインセラーズはワイン愛好家にとって聖地のような場所。ラグジュアリーなダイニングスペース
テイスティング・ワイン・バーの壁に設置されたサーバー。これなら明朗会計で、高級ワインも安心して楽しめる
ザ・セントラル・ワインクラブ(The Central Wine Club)
3/F Sea Bird House, 22-28 Wyndham Street, Central, Hong Kong
(画像はザ・セントラル・ワインクラブの内観)
ザ・ケーブ(The Cave)
Unit 8, 15/F., 38-40 Wah Wai Centre, Fotan, Shatin, Hong Kong
クラウン・ワインセラーズ(Crown Wine Cellars)
18 Deep Water Bay Drive,
Shouson Hill, Hong Kong Island, Hong Kong
テイスティング・ワイン・バー(Tastings Wine Bar)
Basement, Yuen Yick Building 27 & 29 Wellington Street Central, Hong Kong

ワインハブ・香港がワインづくりを変える!

そして、遂にはワイナリーまで登場した。香港にワイナリー? こんな大都会でワインができるのかと思う方もいらっしゃるかもしれないが、確かにワイナリーは存在する。

冷凍されたぶどうを輸入。そこから香港でのワイン作りが始まる。これぞ都市型ワイナリーのあるべき姿か

香港初のワイナリー「ジ・エイス・エステート・ワイナリー」(The 8th Estate Winery)のCMO(マーケティング最高責任者)、リザンヌ・トウーザル氏は「最高の材料を見つけて最高のワインを作る。私たちのコンセプトはとてもシンプルなのです」と語る。

そのコンセプトは「ワインは旅が苦手である」という原則に由来するという。品質管理が難しく、劣化しやすいワインを輸入するのでなく、原料を輸入。香港でワインを生産する。その考えのもと、ビジネスをスタートさせた。

ジ・エイス・エステート・ワイナリーではぶどう畑(vineyard)は持たず、アメリカ、イタリア、オーストラリア、フランスのぶどう農家と契約。ぶどうを冷凍状態で輸入し、圧搾から醸造までのワイン作りを香港で行なっている。

しかも、ぶどうと同時にワイン作りのプロも“輸入”して生産を行なっているのだ。非常に合理的というか、加工貿易が主流の盛んな香港らしいワイン作りへのアプローチだ。

そして、ただワインを生産する工場にしているのではなく、都市型のワイナリーらしく、ワインクラブを組織。パーティなどを開催し、テイスティングツアーも行なう。“ワイン工場”であると同時にエンターテインメント施設でもあるのだ。

ここ5年ほどの間に香港で起こった急速なワインブームは、一体いつまで続くのだろうか。

現地の技術者を招いてワイン作りを行なう。それによって上質なワインの生産が可能に
人気急上昇中の白ワイン用ぶどう“ヴィオニエ”を輸入して作ったワイン
ジ・エイス・エステート・ワイナリー(The 8th Estate Winery)
Room 302, 3/F, Harbour Industrial Center,
No. 10 Lee Hing Street, Ap Lei Chau, Hong Kong

取材・文/栗原伸介

取材協力 香港政府観光局

通貨レート:2012年6月27日現在 1香港ドル=10.2円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。