フランス発 芸術家のレシピを再現するレストラン 前編

フランスでは芸術家が残したレシピで作る料理が人気を呼んでいる。著名な画家たちの料理のレシピが発見されて料理本になるとともに、そのレシピで作った料理を出すレストランも登場している。

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Vol.29

今、フランスでは芸術家が残したレシピで作る料理が人気を呼んでいる。世界的・歴史的にも著名な画家たちが画業の傍ら作った料理のレシピのメモが発見され、料理本として出版されている。そしてそれが今度は、その芸術家ゆかりの地方の観光産業、文化イベントと結びつきながら、画家のレシピで作った料理を出すレストランも登場し、静かなブームとなっている。前編の今回は、ユニークなイベント「ノルマンディー印象派フェスティバル2010」以降盛り上がる、印象派の画家クロード・モネによるレシピのムーブメントを取り上げる。

クロード・モネは40歳を過ぎてから、造園、料理の趣味に深く没頭した(c) Musee Marmottan Monet Paris-Bridgeman Giraudn
モネの代表作「睡蓮(すいれん)」。この庭自体がモネの創作物だった。その創造力はやがて料理にも発揮された
モネの庭園と同じ敷地内にあるレストランで提供されている特別メニュー「モネの食卓より」の一品

現代のフランスに復活した、印象派画家・モネの愛したレシピ

2010年6~9月にわたって、フランス北西部のノルマンディー地方各地で「ノルマンディー印象派フェスティバル2010」というイベントが開かれた。このイベントは、印象派(19世紀後半に起こった絵画・芸術運動。モネやセザンヌといった多くの有名画家を輩出)発祥の地、ノルマンディー地方の文化再発見を目的に、元首相のローラン・ファビウス氏とノルマンディー地方の自治体が発案して開催したものだ。印象派絵画の展覧会のみならず、印象派の芸術家ゆかりの飲み屋巡りや、当時の衣装に身をまとった2,500人近くの人が参加する野外ディナーなど、印象派をキーワードにしたユニークな企画が多数行われ、芸術の国・フランスでも例をみないほど大規模なものとなった。

四季折々の花が咲くモネの庭。浮世絵が好きで日本文化に興味があったモネは、日本風の太鼓橋を作った

ここで注目されたのが、ノルマンディー地方ゆかりの画家、クロード・モネだ。
モネは、『睡蓮』など庭を描いた連作で知られ、1883年、43歳のときにノルマンディー地方の村、ジヴェルニーに自宅を構えて以来、1926年に86歳で亡くなるまでずっとこの地方の豊かな自然や食材に囲まれて暮らした画家だ。

そのモネが画業以外に熱を上げていたのが、造園と料理。自分が作った庭でハーブや野菜を育て、鶏を飼い、産みたての卵を使って料理をしていた。また、池で飼っていたカワカマスは、エシャロットとビネガーを加えた白バターソースで食べるお気に入りの魚であった。庭から少し先の森に出ればキノコも採れたし、ジビエの季節になれば自ら猟肉を捌き、調理したという。

そんなモネのレシピが彼の自宅から発見され、それが料理本「モネの食卓」として2000年に出版(日本でも2004年に出版)。そのときは、有名画家の手によるレシピという珍しさから料理界では話題となったものの、まだ一般の人に広く知られることはなかったが、このイベントを機に、モネがかつて住んだ家の敷地内にある「レストラン・レ・ナンフェア」では、モネのレシピをもとにした特別メニューを提供し始めた。供されるのは季節の野菜やキノコ、魚やフォアグラ、トリュフなど新鮮でぜいたくな旬の素材に、バターやラードなどを多く使った濃厚な味付けの料理。現在は軽めのソースの料理が主流となっているため、これらの料理は昔ながらのフランス料理を味わうことができると、訪れる人たちの心を捉え、たちまち人気となった。

このイベント以降、ノルマンディー地方だけで少なくとも5軒のレストランがモネのレシピをもとにしたメニューを提供し始め、どこも人気となっている。また、モネのレシピを教える料理教室を開催する店もできた。これはプロのシェフであるレジーヌ・ボーディン氏が週に2回開催するもので、「モネの食卓」に掲載されているレシピをもとに、毎回違うコースメニューの料理レッスンを体験でき、特に観光客に人気があるという。

ノルマンディー地方には、印象派の面影を求めて世界中から多くの人が訪れる。モネの絵や庭に触れた後、さらにモネの料理も楽しめることで、その土地ならではの体験ができ、豊かな旅になる。「ノルマンディー印象派フェスティバル」は、2013年にも開催が予定されており、当時の歴史や雰囲気だけでなく、モネの料理が味わえるレストランに、ますます大勢の人たちが訪れることになるだろう。
次回、後編では19世紀に活躍した画家、ロートレックのレシピを再現するレストランをリポートしたい。

現在モネの庭園と同じ敷地内にある「レストラン・レ・ナンフェア」のメニュー「モネのレシピより カブを添えたアヒル」
モネのレシピが掲載されている料理本「モネの食卓」は2000年にフランスで出版され、邦訳も出ている
モネのレシピで料理を作る料理教室。料理体験が加わることで、ノルマンディーでの旅がより思い出深いものになる
レストラン・レ・ナンフェア
ル・ルーアネ
レストラン・レ・ナンフェア(Restaurant Les Nymphéas)
http://www.giverny-restaurant-nympheas.fr
ル・ムーラン・ド・コネル (Le Moulin de Connelles)
http://www.moulin-de-connelles.fr
ル・セーズ・シュル・ヌヴィエム(Le 16/9)
http://www.restaurant169.fr
ラ・クローヌ(La Couronne)
http://www.lacouronne.com.fr
ル・モーパッサン(Le Maupassant)
http://www.le-maupassant-rouen.fr
ル・ルーアネ(Le Rouennais)
http://www.tables-auberges.com/restaurant-le-rouennais-restaurant-seine-maritime-rouen-31178-fr.html

取材・文 栗原伸介

取材協力/
フランス観光開発機構
http://jp.rendezvousenfrance.com/
ノルマンディー地方観光局
http://www.normandy-tourism.jp

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。