ハラル・レストランでイスラム市場を獲得せよ! 後編

中東諸国などからイスラム教徒の旅行者が多く訪れるマレーシア。多くのレストランが「ハラル」というイスラム教独自の食事のルールに対応。日本の外食企業も追随し、人気を集めている。

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Vol.38

中東諸国やインドネシアからイスラム教徒の旅行者が多く訪れるマレーシア。その大きな理由のひとつに、レストランが「ハラル」というイスラム教独自の食事のルールに対応した環境を整えているということがあった(ハラルについては前編を参照)。後編では、マレーシアでハラル認証を取得し、注目されている日本発のレストランを紹介する。各国で人気の日本のレストランはハラル認証を得ることで、今、イスラム市場にも広がりつつある。

焼肉はマレーシアでも人気が高い。イスラム教徒でも牛肉はハラルの基準に従って処理されたもの(ハラル肉)であれば食べられる
ハラル・レストランとして認証を受けるには、一定数以上のイスラム系スタッフがいることも基準となる
ハラル・レストランではアルコールは出せないため、カプリチョーザではワインの代わりにイタリアンソーダを提供

マレーシアで人気!日本発のハラル・レストラン

イスラム法では豚肉とアルコールは禁止されているが、牛肉はハラルに従って適切に処理された肉(ハラル肉)であれば食べられる。そのため、ボリューム感のある食事が楽しめる、牛肉をメインとしたレストランは、イスラム教徒の多いマレーシアでも人気だ。日本からも、牛丼では「すき家」、焼肉では「牛角」などがハラル・レストランとしてマレーシアで店舗を展開している。

焼肉店では牛肉のほかにチキンやラムを置くところとも。こちらは「牛角」のラム
Photo by Kaong Eats via Flickr

そんな中でもとりわけ人気なのは、自分で肉を焼く「ペッパーランチ」だ。2007年にハラル認証を取得。翌年1号店をクアラルンプールに出店し、現在マレーシアで5店舗を展開している。

「ペッパーランチ」の成功の要因には、もともとマレーシアで、鉄板の上で肉や麺を焼いて濃厚なソースにからめる「ホットプレート」という鉄板料理が人気だったこともあるようだ。

しかし、「ホットプレート」の場合、鉄板で焼き上がった状態で提供されるが、「ペッパーランチ」では日本と同様に熱された鉄板の上に生肉が載った状態で提供されている。自分で焼くスタイルをとっているので、最初はとまどう客もいるため、店内では焼き方を解説するビデオを流している。

また、熱々の鉄板の上で牛肉とライスとソースをかき混ぜて作る「ビーフペッパーライス」は日本でも人気のメニューだが、マレーシアでも大人気。ハラルを守りながらこのメニューを提供するのには苦労をしたというが、味の決め手となる肉と特製ソースやバターは、それぞれアルコールや豚の脂を含まない材料を使用しながらも、本来の味をキープ。その苦労のかいもあって、マレーシアでも「ソースがはじけるときの音と香り、特製バターとペッパーの味わいに食欲をそそられる」と、好評だ。

また、イスラム教では、ラマダン(イスラム歴第9月)の間、断食が行われる。断食期間は日が出ている間は水も含めて何も口にしてはいけないが、日没の祈りが終わると、軽いデザートで胃を慣らし、家族で一日分の食事を楽しむという習慣がある。ペッパーランチではこの期間中に「ラマダンスペシャル」というドリンクとデザートをつけたサービスメニューを提供しているが、これがお得感もあって人気だ。昼間何も食べない分、この夕刻の食事はイスラム教徒にとってとても楽しみなものであり、だからこそこのようなサービスメニューが支持されるのだ。

ペッパーランチはもうひとつの巨大なイスラム市場、インドネシアでもハラル・レストランを展開。ハラル認証を取ったうえで、さらに宗教に配慮したサービスを提供すると、イスラム市場で多くの支持を得られると言えるだろう。

鉄板で肉をジュッと焼いてご飯とかき混ぜて食べるペッパーランチの「ビーフペッパーライス」はマレーシアでも人気
「ぺッパーランチ」の客が自ら肉を焼くというスタイルは、最初は戸惑う人も多かったが、今では受け入れられ、売りのひとつになっている
牛角 ワンウタマ店
https://www.facebook.com/GyuKakuMalaysia
2012年5月、マレーシア伊勢丹ワンウタマ店「イートパラダイス」内にオープン
ペッパーランチ マレーシア
http://www.pepperlunch.com.my/
ペッパーランチではハラル肉はオーストラリア産のものを使用している

マレーシアから世界に広がるハラルの波

同じように、日本発のイタリアン・ハラル・レストランとして人気なのが「カプリチョーザ」だ。2011年にマレーシア国内に3店舗をオープンし、1年間はノン・ハラル・レストランとして営業。翌2012年7月にハラル認証を取得した。

カプリチョーザでは認証ロゴを店頭に飾る。イスラム圏からの旅行者や現地のイスラム系マレーシア人を取り込む

メニュー数や管理する食材が多いイタリアンレストランにとって、認証取得は簡単なことではなかった。豚肉が使えないため、カルボナーラやピッツァなどで使うベーコンやサラミは、ビーフベーコンやビーフサラミを使用。また、アルコールが禁止されているので、ワインはもちろんワインなどを発酵させたビネガー類、アルコール入りビネガーを使ったドレッシング、タバスコ、ワインを使用したパスタ類も食材からはずしてメニュー作りをしている。

また、食中のワインに代えて、マンゴーなどのフルーツジュースをソーダで割ったものなどを「イタリアンソーダ」として打ち出し、これが人気のドリンクとなっている。もともとイタリアでスプマンテ(発泡ワイン)や発泡水などがよく飲まれていることもあり、発砲系ドリンクはイタリア料理によく合うと好評だ。

ハラル・レストランとして認証を受け、維持するために苦労は多かったものの、認証取得後はアラブ系観光客や地元のイスラム系の客も来るようになり、客数は認証を受ける前より10%ほどアップしたという。

マレーシアはハラル産業の中心「ハラル・ハブ」と呼ばれており、世界のハラル・レストランが集まる場所になっている。マレーシアでハラル対応に成功した海外資本のレストランは、今後は世界のイスラム市場を相手にビジネスを展開することも可能になってくる。

実は、日本には約10万人のイスラム教徒が住んでいるといわれており、また観光地としても人気があるため、日本国内でもハラルは少しずつ注目され始めている。日本企業に対し海外でのハラル認証取得を指導し、日本ではハラル認証を発行する、マレーシア ハラル コーポレーションのアクマル・アブ・ハッサン代表は「日本のレストランや食品メーカーにとってイスラム圏はビジネス拡大の可能性を秘めている市場。日本の食はもともと、成分表示や流通経路の管理もしっかりしていて、ハラルとの親和性は高い」と語る。

イスラム圏では、LCC(格安航空会社)などの就航で、中間層向けに手頃なパッケージツアーも生まれ、イスラム圏からの旅行者数は確実に増えている。今後、日本の飲食企業にとっても、イスラムは要注目の市場といえるかもしれない。

ラマダン中に同店で掲げられているポスターには「SELAMAT BERBUKA=ラマダン(断食期間)が明けてご飯が食べられる!」と書かれている
同店のスパゲティ・カルボナーラは、ベーコンはビーフのものを使用し、ハラル肉はすべてオーストラリア産を使う
カプリチョーザ マレーシア
http://www.capricciosa.com.my/

取材・文/栗原伸介

※通貨レート 1RM(マレーシア・リンギット)=30.2円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。