日本産活うなぎの空輸を実現!

シンガポールにあるうなぎ料理専門店「鰻満Japanese Unagi Restaurant」は、日本から空輸した活うなぎを「ひつまぶし」などで提供。客席から調理工程が見えるようにしている。

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近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

日本産活うなぎの空輸を実現!ニーズに対応&エンタメ性も好評

【シンガポール タンジョン・パガー】鰻満 Japanese Unagi Restaurant
1 Keong Saik Road, #01-01, 089109
https://www.facebook.com/teppeigroup/
日本から空輸した活うなぎを、「ひつまぶし」などでリーズナブルに提供。客席から調理の工程が見えるように工夫しており、近隣のビジネス層を中心に昼夜問わず行列ができる。

本場の味×お得な価格で2時間待ちの人気店に!

シンガポール南部の繁華街タンジョン・パガー地区。このエリアには、1階が店舗用物件、2階以上が住宅という「ショップハウス」が数多く並んでいる。そのなかの一軒、表通りから見えにくい裏路地に2016年10月オープンしたのが、うなぎ料理専門店「鰻満Japanese Unagi Restaurant」だ。

オーナーの山下哲平氏は、福岡の寿司店などで働いた後、知人の紹介でシンガポールの寿司店へ。そこで店長を5年務めて独立。料理長の中川浩希氏を中心に「鰻満」を立ち上げるなど、現在シンガポールやタイ、香港で和食業態12店舗(FCを含む)を展開している。「シンガポールでは、以前から日本のうなぎ料理が人気でした。ただ、日本産を提供しているのは高級店のみで、屋台は安い中国産ばかり。日本産を少しでも安く提供できれば人気になる、と考えました」と、山下氏は狙いを語る。

うなぎは、量と質、価格が常に一定水準のものを仕入れられるよう、愛知県一色町の大手養鰻業者と直接交渉。水と酸素を入れたビニール袋にうなぎを入れて段ボールに梱包し、生きたまま空輸しようと考えた。そこでアイデアを出し合い、出荷直前に酸素を入れ直したり、うなぎの月齢によって袋に入れる数を調整するなど5回の空輸テストを経て、活うなぎをいい状態で運ぶ方法にたどり着いた。このうなぎを筆頭に、米、生わさび、海苔など食材は日本産にこだわっているため、食材原価率は45%にもなる。「それでも経営が成り立つように、家賃が安い路地裏の物件を選び、オペレーションを簡略化して人件費を抑えています」と、山下氏は言う。

料理は日本の多くのうなぎ店と同様に、「かば焼き」(27.3ドル=約2260円)や「極上ひつまぶし」(39.4ドル=約3262円)などが売り。「シンガポールでは、お客様が料理に調味料やタレを加えて、自分の好きな味にするスタイルが好まれる」(山下氏)と感じていたため、卓上に「通常」「甘め」「辛め」の3種類のタレや薬味を用意。また、うなぎ以外を食べたい人向けに「豚まぶし」(20.7ドル=約1713円)を加えるなど、現地の人のニーズに合わせた工夫を施した。

オープン前には、影響力のある現地のブロガーなどを招いた試食イベントを実施。情報発信を促すことで、事前に認知度アップを図った。こうした取り組みが奏功し、オープン直後から現地の人を中心に集客。わずか1年足らずで、昼も夜も2時間待ちの行列ができる人気店に成長した。現在、昼と夜合わせて、週末なら10回転、平日でも8回転以上するという。

一方で、「滞在時間が短くても心に残る店にする」というのが、山下氏のモットー。そのためには、エンターテインメント性が重要と考え、うなぎの生簀を目に入りやすい入口付近に置いたり、うなぎをさばいて焼く様子を客席から見えるようにしている。

スタッフは、2名の日本人(キッチン、ホール各1名)を除き、全員が現地採用の外国人。「『水をこぼしたら拭く』など、日本人なら説明不要の作業も、外国人スタッフには“なぜやるか”を説明して、納得してもらわないと習慣化しません」と、山下氏は語る。

今年10月に2号店がオープンし、来年3月までにあと2店舗を出店予定。高級店でも大衆店でもなく、工夫を重ねていいものを安く提供する「上質店」の快進撃はまだまだ続きそうだ。

「鰻満 Japanese Unagi Restaurant」の成功のポイント

1. パートナー

日本の大手養鰻業者と提携。1日200匹という専門店ゆえの大量発注により、仕入れ単価を安く抑えることに成功

2. メニュー

「かば焼き」「しら焼き」「うまき」など、日本産の活うなぎを使った料理を多数用意。ボリューム感も意識

日本産の活うなぎをリーズナブル&ボリュームたっぷりに提供!
愛知県産養殖うなぎを一尾使う「極上ひつまぶし」(上、39.4ドル=約3,262円)が人気。うなぎを食べない人向けには、甘辛く煮込んだ豚バラ肉の「豚まぶし」(下、20.7ドル=約1,713円)も用意

各卓には、うなぎのタレと薬味を用意。通常のタレと一味唐辛子入りのほか、甘い味を好む現地の嗜好に合わせ、水飴入りも用意

3. 人材

スタッフには、「なぜ、そうした方がよいか」を理論立てて説明。成長を認め、ほめながら育てている。

スタッフには理論立てて説明。よい部分は、ほめて伸ばす!
「水がこぼれたら拭く」など、日本の飲食店では当たり前のことも、必ず理由を伝える。また、「あなたの接客で、お客様が笑顔になったね」など、どんどんほめてやる気が起こるようにしている

4. 販促・演出

客から見える生簀や焼き場は、待ち時間も楽しんでもらいたいため。ライブ感があり、SNSでの情報拡散につながる

うなぎの生簀や焼き場が来店客から注目の的に
(上)入口付近にある生簀。生きたうなぎを初めて見る人も多く、期待感もアップ
(下)焼き場は、客席からガラス越しに見えるため、調理風景を撮影する人も少なくない

「鰻満 Japanese Unagi Restaurant」の主なメニュー

●アラカルト

  • ダブルレイヤーひつまぶし(71.5ドル=5,920円)
  • 上丼(28.4ドル=2,352円)
  • うな玉(20.5ドル=1,697円)
  • かば焼き(27.3ドル=2,260円)
  • しら焼き(27.3ドル=2,260円)
  • 特得かば焼き(54.8ドル=4,537円)
  • 特得しら焼き(54.8ドル=4,537円)
  • うざく(13.2ドル=1,093円)
  • やはた巻き(16.3ドル=1,350円)
  • うなぎ茶づけ(15.4ドル=1,275円)
  • うまき(14.1ドル=1,167円)
  • 骨せんべい(6.6ドル=546円)
  • 自家製明太子(11ドル=911円)
  • きも焼き(10.8ドル=894円)
  • かば焼き定食(29.5ドル=2,443円)
  • 極上ひつまぶし(39.4ドル=約3,262円)
  • 豚まぶし(20.7ドル=約1,713円)
メニューブックでは、うなぎの産地や特徴を伝え、本場の味をアピール
好立地ではないが、昼夜とも2時間待ちの行列ができる人気ぶり。「ミシュランガイドシンガポール2017」に掲載され、列はさらに長くなった

店舗データ

業態   鰻専門店
オープン 2016年10月
席    42席
客単価  昼/29ドル(約2,401円)夜/32ドル(約2,650円)
客層   平日はビジネス層が8割、週末はファミリーやカップルが多い。女性が6割。

※1シンガポールドル(文中では「ドル」で表記)=約82.8円(2017年10月)価格は税込(税率7%)

TEPPEI Pte.Ltd. 社長 山下 哲平 氏
福岡県出身。福岡の寿司店、ふぐ専門店、東京・赤坂の割烹を経て、シンガポールへ。寿司店の料理長として約5年働いた後、独立。シンガポールを中心に12の和食店を展開。

シンガポールの基本情報

面積     719.2平方km(東京23区と同程度)
人口     約561万人(2016年6月)
言語     マレー語、英語、中国語、タミル語
通貨     シンガポールドル(文中では「ドル」で表記)
飲食店数   約26,600店(日本料理店 1,400店)(2016年)
世帯平均月収 約87万円

「鰻満」周辺エリアの特徴

シンガポール南部の繁華街・タンジョン・パガーの一角。住宅やオフィスが集まり、平日はビジネス層、週末はファミリーが多い。表通り(写真)は飲食店など様々な店が並ぶが、「鰻満」は人通りの少ない裏路地にある。

出典:日本貿易振興機構