映画『武士の献立』 - エンタメレストラン -

2013/12/06

エンタメレストラン

Vol.55
武士の献立
2013年12月14日全国公開
http://www.bushikon.jp/
© 2013『武士の献立』製作委員会
【イントロ&ストーリー】
江戸時代、刀ではなく「包丁」で主君に仕えた侍がいた──。実在の包丁侍・舟木伝内・安信親子が残した献立書「料理無言抄(りょうりむごんしょう)」に着想を得た、異色のヒューマン・ドラマ。料理番という務めを通し、時流に惑わされず、つつましくも堅実に生きた舟木家の夫婦愛や家族の絆をユーモアたっぷりに描く。監督は「釣りバカ日誌」シリーズの朝原雄三。山海の珍味から庶民の膳まで、スクリーンに完全再現された料理の数々にも注目。
★優れた味覚と料理の腕を持ちながら、気の強さが仇となり1年で離縁された春(上戸彩)。彼女は加賀藩の料理方・舟木伝内(西田敏行)にその才を見込まれ、息子の嫁にと懇願されて2度目の結婚を決意する。しかし、跡取りの安信(高良健吾)は料理が大の苦手。しかも6つも年下! 春は姑の満(余 貴美子)の力も借りながら、必死に夫の料理指南をはじめるが…。出戻りの妻と出来そこないの包丁侍。はたして2人は、本当の夫婦になれるのか?
【キャスト&スタッフ】
出演:上戸彩、高良健吾、西田敏行、余 貴美子、夏川結衣、緒形直人、成海璃子、柄本佑、鹿賀丈史ほか
監督:朝原雄三
脚本:柏田道夫、山室有紀子、朝原雄三
配給:松竹

スクリーンに再現された、加賀百万石の絢爛料理
寒さが育む名物・柚子ゆべしにも似た、温かな夫婦の味わい

 時代劇というと、義理と忠義の狭間で揺れる武士の人間模様や、派手な殺陣が見もののチャンバラ劇などが思い浮かぶが、ここ数年、これまで光が当たってこなかった事務方、裏方系の武士の人生にフォーカスしたものが増えてきた。堺雅人が主演を務めた『武士の家計簿』(2010年)などがその代表だが、今回、紹介する『武士の献立』もまさにそう。

 この作品は、加賀百万石のお殿様の食事を支える台所方に勤めていた舟木伝内と息子の安信、彼らが残した当時の献立書「料理無言抄」に発想を得て作られたもの。『武士の家計簿』では、城内の経理関係をつかさどる主人公一家が、身分が上の侍たちから「そろばん侍」と揶揄される場面があったが、こちらも裏方の仕事ゆえ、「包丁侍」と陰口をたたかれている。

 なにより、高良健吾演じる舟木安信が気ままな次男坊とあって、ゆくゆくは剣術で身を立てようと「包丁侍」を軽んじている。ところが、優秀な長男が流行病で亡くなり、一家は一大事に。跡目を継いでもさっぱりやる気を見せない安信に困り果て、西田敏行演じる父親の舟木伝内は、加賀藩六代藩主・前田吉徳の側室に仕える料理上手の女中・春を見染め、一方的に結婚を願い出る。勝気でまっすぐな性格ゆえ、一度、結婚に失敗している春は断るが、伝内は諦めない。とうとう口説き落として嫁に迎えるが、肝心の安信が、父が一方的に決めた妻を何かと邪険にするのである。

 さて、ヒロインが料理上手で、義父となる人が歴史に名を残す料理人という設定上、料理の場面がふんだんに出てくるのは想像していたが、映画を見て、びっくり。見たことも、食べたこともない献立が次から次へと登場する。

 例えば、春の味覚力が加賀藩にとどろきわたることになる宴席での場面。伝内はそこで、「鶴もどき」という料理を出し、そのおいしさにうなったお殿様が「では、何の肉が鶴の代わりに使われているか当てたものに褒美をやろう」とクイズを出すのだが、今では保護活動の盛んな鶴が、そんなに珍重されるおいしさだったのかと、そこに驚かされる。調べると、江戸時代、鶴はたいそうな高級食材で、ヒバリや鷭(バン:ツル目クイナ科に分類される鳥)、鯛、鮟鱇(アンコウ)とともに「三鳥二魚」と呼ばれる5大珍味の一つとしてもてはやされたのだという。その鶴に模したものをピタリと当てることで、春は一躍、注目されるのだが、健気な役がぴったりの上戸彩が演じているのも楽しい。

 春は、藩主の側室にかわいがられていたとはいえ、もとは浅草の料理屋の娘。女中から妻の武士となるのは荷が重く、ましてや出戻りの身で、安信より年上でもある。そんな背景を気にする春を案じ、金沢で初めて顔を合わせた姑の満(余貴美子)がかける言葉もおもしろい。「江戸の人は初鰹(がつお)を好むそうですが、脂の乗った戻り鰹を好む人もいますから」。言い得て妙の名言である。

 ところが、肝心の夫の「包丁侍」としての腹が定まらない。親戚方に料理の腕を吟味してもらう”饗(あえ)の会”でも中途半端な献立を出し、一同から叱咤を受ける始末。あまりのひどさに汁物に鰹節を加え、密かに生臭さを消した春に対しても、「勝手に手出しするとはどういうことだ! この古狸」とひどい言葉で罵るのだ。さすがにこの言葉にキレた春は、包丁の腕試し対決を申し出て、互いに魚をおろすのだが、このときの春の手慣れた包丁さばきに注目したい。ちなみに、高良君の包丁さばきは「ダメな例」としていい見本になっている。

 ほかにも、伝内と安信が残した「料理無言抄」から「すだれ麩の治部煮」が登場する。これは、鴨肉か鶏肉をそぎ切りにして小麦粉をまぶし、だし汁に醤油、砂糖、みりん、酒を合わせたもの。麩は金沢特産の「すだれ麩」を用いており、肉にまぶした粉がうまみを閉じ込めると同時に、汁にとろみをつけるという優れものだというが、映画ではこの考案者が春という解釈になっている。

 そこまでできた嫁なのに、いつまでも過去の恋を忘れられず、包丁侍にも身が入らない安信のぐずぐずっぷりには、観客席から喝を入れたくなるほど。だからこそ、彼が紆余曲折を経て、お殿様の饗応料理を手がけることになる場面には感激至極なのだが、そこに出てくる料理もスゴい。一の膳、二の膳、三の膳なら現代もよく見る風景だが、五、六、七の膳まで登場し、クライマックスはその次の「雉(きじ)の羽根盛り」と「鯛の唐蒸し」。最後に「後御菓子」まで出て、実質的には十の膳! 各膳に三~五皿の献立が並ぶことを考えると、30もの献立を一気に食べるという豪華さなのだ。

 そういう豪華絢爛な献立に感嘆する一方で、強い印象に残ったのが金沢の素朴な伝統料理だ。なかなか夫婦仲がうまくいかない春の作る、かぼちゃと小豆の煮物のおいしそうなこと。なかでも春が興味を持つ金沢の名物・柚子ゆべしは、物語に強いアクセントを残す。これは、果実をくりぬいた柚子を器に見立てて、中に味噌や餅を入れ、ヘタの方をフタにして和紙に巻き、冬の間、乾燥させたもの。寒い外気に当たれば当たるほど、無駄な湿気が飛び、キュっとしまった味となる(ちなみに映画の中に出てくる柚子ゆべしは、輪島の名店「柚餅子総本家 中浦屋」が手がけているが、ここのゆべしは独特の製法なので、興味のある方はHPへどうぞ)。まさにこれは夫婦の味。春と安信の夫婦の味はいかほどか、ご堪能あれ。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。「装苑ONLINE」にて映画ブログも連載中。

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