映画『退屈な日々にさようならを』 - エンタメレストラン -

2017/03/03

エンタメレストラン

Vol.133
退屈な日々にさようならを
新宿K’s cinemaで公開中(全国順次公開)
http://tai-sayo.com/
© ENBUゼミナール
【イントロ&ストーリー】
2012年、映画『こっぴどい猫』でトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞を受賞。その後も『サッドティー』(2013年)、『知らない、ふたり』(2016年)などの話題作や、ドラマやミュージック・ビデオでも活躍する今泉力哉監督の最新作。本作では震災から5年経った地元・福島と東京を舞台に、「映画をつくること」や「誰かを想い続けること」が描かれる。専門学校「ENBUゼミナール」主催の劇場公開映画製作企画「シネマプロジェクト」第6弾。赤裸々に描かれるインディー映画界の内情もリアルだ。
★東京で映画監督をしている梶原(矢作優)。本業では生活できず、酒場で知り合った男にミュージック・ビデオの撮影を依頼されるも、予想もしなかった事態に巻き込まれてしまう。一方、とある田舎町で家業の造園業を継いだ太郎(内堀太郎)は、会社を畳む決心をする。彼には18歳で家を飛び出して以来、10年近く連絡のつかない双子の弟・次郎がいた。ある夜、太郎の家に次郎の彼女を名乗る女性から電話がかかってくる。どうやら同棲中だった次郎は、彼女のもとから最近いなくなったらしい。
【キャスト&スタッフ】
監督・脚本・編集:今泉力哉
出演:内堀太郎、矢作優、村田唯、清田智彦、秋葉美希、猫目はち、りりか、安田茉央、小池まり、疋田健人、川島彩香、水森千晴、カネコアヤノ、松本まりか
音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
主題歌:カネコアヤノ「退屈な日々にさようならを」

色鮮やかな食材が示唆する「ありえたかもしれない世界」
インディーズ映画界の俊英が描く、日常に入り込む夢想

 映画監督は、自分が夢想したイメージを、スタッフや俳優など多くの人に背負わせ具現化することを生業とする。今泉力哉監督の最新作『退屈な日々にさようならを』には、自主製作という土俵で夢想しつづけることの難しさがちらちらと露出する。

 この映画には3人の映画監督が登場する。

 その1人である梶原(矢作優)は、映画監督としての理想は高いものの、経済的な状況はままならず、同棲中の恋人ともうまくいっていない。後輩監督の上映会に行けば舌鋒鋭く作品を批評し、場の空気を台無しにしてしまう。吐かれる言葉はおそらく自虐をふんだんに含む、自分への戒めなのだろう。その生々しさは、実際に自主製作で撮り続けている今泉監督だからこそ吐露できるものでもある。

 翌朝。梶原は妙齢の女性たちがわらわらとたむろし、本や漫画を読んでいる不思議な部屋で目覚める。そして、何がなにやらわからぬまま、「ミュージック・ビデオの仕事を引き受けただろ?」と部屋の主らしい男に威圧的に言われ、なかば強制的に撮影現場へと向かわされる。 

 映画人であり続けようとする梶原の葛藤には、厳しいインディペンデントの環境で次々と意欲作を発表しつづけている今泉監督自身の体験や、彼が見聞きした世界が色濃く反映されているはずだ。だが制作費や撮影日数にどれだけ制限があろうと、今泉の描く日常にはときに大胆な夢想が入り込む。劇中で梶原が遭遇する女の子たちの唐突な群舞など最たるものだろう。その心意気は巨匠フェリーニにだって負けていないと思う。

 さらに本作では梶原の目の前で突然、殺人が起きる。行きがかり上、その死体を処理せねばならなくなった彼は、森の中でもう1つの死体にも遭遇する。まるでコーエン兄弟の映画のように唐突に。でも、必然的に──。

 悲壮な状況なのに、陽の光は淡く優しく、登場人物たちを包み込む。そのせいか、この物語はどこかユーモラスにも思えてくる。例えば、梶原の先輩の山下監督(内堀太郎)と同棲中の恋人(松本まりか)の朝食風景。ただ焼いただけのトーストを2人で食べるのだが、山下はトーストをパズルのように一片ごとにちぎっては、真ん中の柔らかい部分を彼女に、耳の堅いところを自分にとより分けていく。微笑みの絶えない、おそらくいつもと同じ、柔らかい朝の風景。ところが2人にとって実はこれが“最後の晩餐”で、直後、山下はまるで買物にでも出かけるような軽やかさで、「では…」と死へ向かうのだ。

 いったい、何が起きているのか。戸惑う梶原と同じように、私たち観客もまた今泉力哉の謎めいた語り口に煙に巻かれ、着地点もわからぬまま蠱惑(こわく)的な迷いの森へ誘われる。

 3人の映画監督たちが織りなす日常の点と点が結ばれ、徐々に線に変わっていくなかで、ある地方都市に暮らす一家が浮かび上がってくる。一家の名前は監督と同じ今泉であり、そこにはかつて、太郎と次郎という双子がいたことも。

 18歳のときふらりといなくなった次郎と、地元に残った太郎。太郎の家の食卓には色鮮やかな食材を用いた料理が並び、彼の食生活を気遣う女性の存在も語られる。今泉監督が福島出身であることを知っている人は、劇中の今泉家の描写にどこか、彼自身のアバター的要素をかぎ取るかもしれない。

 つまり、地元にあのままいたかもしれない自分と、東京へ向かい映画監督になろうとした自分。震災がなかったかもしれない福島と、地震で変貌してしまった福島。さらには福島では穏やかだった人が、東京で似ても似つかぬ人になってしまったこと。様々な対比で語られる日常。そして、映画監督の夢想は広がっていく。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。

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