映画『ローマ法王になる日まで』 - エンタメレストラン -

2017/05/19

エンタメレストラン

Vol.137
ローマ法王になる日まで
2017年6月3日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
http://www.roma-houou.jp/
© TAODUE SRL 2015
【イントロ&ストーリー】
2013年3月、南半球出身として初めて第266代のローマ法王に就任したフランシスコは、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のイタリア移民2世。数々の前例を覆し、法王自身にまつわる慣習も簡素化。“暗殺計画”が漏れ聞こえるなかで法王庁改革を成し遂げ、貧しい人々に寄り添う奉仕活動を展開し続けている。サッカーとタンゴをこよなく愛し、多くの信者から“ロックスター”法王と愛される現法王の知られざる激動の半生を、『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)のロドリゴ・デ・ラ・セルナが演じる。監督はイタリアの名匠、ダニエーレ・ルケッティ。
★1960年、ブエノスアイレス。若きべルゴリオ(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)は、学友たちや彼に恋するガブリエラ(パウラ・バルディーニ)の制止を振り切り、神の道へと進む決意をする。1976年、アルゼンチンでは軍事独裁政権が成立。軍は、南米イエズス会の管区長に任命されたベルゴリオの周辺にも圧力をかけはじめる。やがて、反政府の嫌疑で神父が銃殺される事件が勃発。そんな折、ベルゴリオは他の教区の神父から反政府運動に関わった学生をかくまってほしいと頼まれる。
【キャスト&スタッフ】
監督:ダニエーレ・ルケッティ
出演:ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、セルヒオ・エルナンデス、ムリエル・サンタ・アナ、メルセデス・モラーン 音楽:アルトゥーロ・カルデラス
提供・配給:シンカ/ミモザフィルムズ

ローマ・カトリック史上初、アメリカ大陸出身の“ロックスター法王”
シンプルな食生活から滲み出る、貧しき庶民に寄り添う反骨の生き方

 『ローマ法王になる日まで』は2013年3月13日、ローマ・カトリック教会の第266代法王に選出された法王フランシスコの半生を追ったドラマである。

 ──と書くだけで、「宗教には興味がなくて…」と尻込みする人もいるかもしれない。だが、この法王は長きにわたるローマ・カトリックの歴史において異端児も異端児。ロック雑誌「ローリング・ストーン」の表紙を飾るような人物なのだ。宗教や政治の権威主義に厳しい視線を投げかける彼は、就任以来、弱い者や貧しい者に寄り添い、ときに“ロック魂”や“パンク魂”と言いたくなる大胆な行動を見せている。

 例えば、長年“カトリック教会の闇”と言われた聖職者による児童への性的虐待問題にメスを入れ、厳しい処分を行った。また2014年8月、半世紀以上も冷え切っていたアメリカとキューバの関係を取り持ったのも記憶に新しい。そのときはキューバのラウル・カストロ国家評議会議長の「オバマ氏を前向きに評価し、米国との関係改善のために行動する用意がある」とのメッセージを、ハバナ大司教だったハイメ・オルテガ枢機卿に届けさせ、結果的に両国の国交正常化を実現させている。

 なぜ彼は、従来の法王が手を付けられなかった問題に果敢に切り込めたのか? 1つには彼がアルゼンチンの移民2世で、歴代のヨーロッパ出身の法皇と違って初めて新大陸から選ばれたこと。加えて、清貧をとなえ、禁欲的な生活を営む「イエズス会」から初めて選ばれた法王であることが大きい。

 この映画自体もよくある“偉人映画”としては作られていない。むしろ監督のダニエーレ・ルケッティは、彼が法王フランシスコになる前の時代──いち宗教家だったホルヘ・マリオ・ベルゴリオの過ちに満ちた苦い歩みを描いていく。そして彼の人柄をよく示す小道具として、本当によく食事の場面が出てくるのだ。

 物語は、主人公ホルヘが大学で化学を学んだ後、回心(キリスト者の生活に転じること)して神学校へ入る時期から始まる。思いを寄せる女性もいたが、彼は制止を振り切って、信仰への道を選ぶ。

 ホルヘは37歳のとき、若くしてアルゼンチン管区長に任ぜられる。だが3年後の1976年、アルゼンチンでは軍によるクーデターが勃発。後に「汚い戦争」と呼ばれる労働組合員、政治活動家、学生、ジャーナリストなどへの弾圧が始まり、多くの国民が逮捕、監禁、拷問され、命を奪われた。ホルヘが所属するイエズス会はこの軍事政権と歩調を合わせており、彼は深く苦悩することになる。

 やがて教会の上層部が、政権が敵視する地域の民衆をサポートしていたかどで司祭2人の除名を検討した際、ホルヘは現地に赴いて「このままでは命を落としかねないので、サポートを辞めるように」と忠告する。だが一方で、高い地位にある枢機卿のもとへ、部下を見捨てないように頼みにも行くのだ。枢機卿の家は宮殿のように豪奢で、通された部屋には三段のお皿に見目麗しいチョコレートや焼き菓子が並ぶアフタヌーンティーセットが置かれている。上司はホルヘにピスタチオ味のマカロンをおいしいからと奨めるが、彼はお菓子には一切手を触れず、部下の命乞いをするのだ。

 リベラルな検事で、私生活ではシングルマザーでもある友人とのエピソードも印象深い。彼女が政府から職を奪われた際、ホルヘは無力さを噛みしめながらも、「簡単な料理しかできないけれど、君のために鶏とネギのスープを作ろう」と彼女を勇気づける。

 軍事政権が終わり、法王となった今でも、彼はときに「アルゼンチン時代に多くの人を助けなかった」と批判される。だがその一方で、秘密裏に多くの人を助けていたと擁護する人も多い。まるで中間管理職の悲哀を体現したような人生だ。ホルヘは、軍事政権崩壊後はドイツに留学し、帰国後は首都ブエノスアイレスから700キロも離れた地方で畑を耕し、家畜を育てて暮らしていた。

 2013年2月11日、前法王のベネディクト16世が健康上の理由で突然、辞任を表明。そのときもホルヘは、スープにパンのみの質素な朝食を食べていた。映画では、ラジオのニュースに驚いて手を止める彼の姿が描かれる。この描写ひとつにも彼のシンプルな暮らしぶりが表れているのだ。

 ちなみにその後の法王選び(コンクラーヴェ)については、ルケッティ監督と同じイタリア人のナンノ・モレッティ監督の『ローマ法王の休日』に詳しい。また法王フランシスコが若いとき、日本への赴任を望んでいたのは有名な話。訪日したイエズス会の司教たちの苦難は、今年公開されたマーティン・スコセッシ監督の話題作『沈黙 -サイレンス-』で描かれているとおりだが、スコセッシはこの映画をローマで上映する際、法王フランシスコと面会を果たしている。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
ぐるなび通信大特集 ジャンル別に一挙紹介!ヒットメニュー2017

ぐるなびPRO for 飲食店

Copyright© Gurunavi, Inc. All rights reserved.