映画『ハートストーン』 - エンタメレストラン -

2017/07/21

エンタメレストラン

Vol.141
ハートストーン
7月15日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
http://www.magichour.co.jp/heartstone/
© SF Studios Production & Join Motion Pictures Photo Roxana Reiss
【イントロ&ストーリー】
北欧アイスランドの若き俊英、グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン監督による初長編作品。雄大な自然が広がる漁村を舞台に、少年たちの儚く繊細な感情を残酷なまでに切り取った自伝的“ラブストーリー”。第73回ベネチア国際映画祭のクィア獅子賞(最優秀LGBT映画)をはじめ、世界各地の映画祭で40以上の賞に輝いた。
★東アイスランドの小さな漁村で暮らすソール(バルドル・エイナルソン)とクリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)は、幼なじみの大親友だ。思春期にさしかかったソールは、大人びた美少女ベータが気になりはじめる。クリスティアンはそんなソールの気持ちを知り、2人がうまくいくよう後押しする。そしてクリスティアン自身もベータの女友だちハンスからの好意を受けとめ、4人はともに行動するようになる。だがソールとベータの距離が縮まるなか、2人を見守るクリスティアンはなぜか複雑な表情を浮かべて──。
【キャスト&スタッフ】
監督・脚本:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン
出演:バルドル・エイナルソン、ブラーイル・ヒンリクソン、ディルヤゥ・ワルスドッティル、カトラ・ニャルスドッティル、ニーナ・ドッグ・フィリップスドッティル
配給・宣伝:マジックアワー

アイスランドの荒涼たる風景の中で描かれる、性のめばえ
夏の光とバケツ一杯の小魚を鮮やかに対比させる、若き俊英の冴え

 若い映画監督が世に出ようと放った青春映画には、作り手と演じ手の年齢が近いこともあって、まさに“無防備な魂”としか言いようのない、10代の生(き)の生態が収められていることがある。それは、観る側の胸をざらつかせる。特にそれが、性のめばえを描いた作品の場合は。そこには作り手の感性が反映され、センスがダイレクトに伝わってくるからだ。

 アイスランドの俊英、グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン監督の初長編映画『ハートストーン』は、まさにガラス細工のように繊細な、少年少女の性の在り方を描いた良作だ。アイスランドの芸術アカデミーを卒業した彼は、デンマークでキャリアを積んだ後に帰郷。世界の果てのように手つかずの自然が残った、荒涼たる風景の中で生きる若者の物語を撮っている。カンヌ国際映画祭短編部門で特別表彰された『くじらの谷』(2013年)では、人を寄せ付けないフィヨルドの壮大なランドスケープのなか、仲違いする兄と弟の濃密な感情を描いていた。小さな漁村を舞台に撮影した本作『ハートストーン』では、13歳と14歳の少年の、まるで短い夏を謳歌するような性急な恋の模様を綴っている。

 優れた青春映画には甘酸っぱい匂いが感じられる。本作もそうだ。少年たちが、自分の体から分泌される体液の扱いに戸惑うたびに、濃厚な性の匂いが伴う。冒頭のエピソードからして、とても強烈だ。暇を持て余し、海辺で日光浴をしていた少年たちは、押し寄せた小魚の大群に気付いて、石を投げつけ捕獲する。どこか亡くなったリヴァー・フェニックスの面影を宿す主人公ソールは、バケツいっぱいの魚を家に持ち帰り、玄関でたたずむ母親に意気揚々と渡す。ところが彼女は、断固受け取りを拒絶する。「またどこかから盗んできたのか」「私を面倒に巻き込むな」と言って。

 愛らしい少年の表情はあっという間に歪み、玄関に放置された魚は夏の光を浴びて、すぐ異臭を放ちだす。それでも母親は、決して魚に近付こうとしない。息子は深く傷ついて、家の中で荒れた言動を見せる。それは注意を引くための他愛ない行動だが、彼女の目は、若い女と町を出ていった不在の夫に向けられていて、いつも玄関から遠い海の向こうを見つめるばかりだ。食卓に供せられることなく腐ってゆく魚。生のはかなさを伝える逆接的な演出とでも言おうか。真夏の光とバケツ一杯の小魚を鮮やかに対比させる若き監督の、腕の冴えが記憶に残る。

 このようにグズムンドソン監督は、小さな漁村にしがみつく大人たちの空虚な心情と、人を厳しく見つめる10代の冷ややかな眼差しを鮮やかに交差させてみせる。そのなかでソールと親友のクリスチャン、そして大人びた同級生のガールフレンドたちとの、ひと夏のアバンチュールが展開するのだ。その恋模様には同性同士の想いも絡まり、やがて閉鎖的な町の中で、好奇心に満ちた視線にさらされることになる。

 2人の少年をめぐる物語だが、劇中に登場する大人たちもまた、短い夏を謳歌するように羽目を外して、バーで酒を飲み、ひとときの恋にしがみつこうとする。だが、それもこれもあっという間。夏が過ぎるころにはみな、アイスランドの漁師が防寒のために着る羊毛のロピセーターに身を包むようになる。そして恋の季節は、ある事件とともに劇的に終わってしまう。

 話はシンプルだが、北欧神話の雷神ソールの名にふさわしく、スクリーンには常に、神話の世界のような荒々しいランドスケープが提示される。そんな美しい場所なのに、母は息子が獲ってきた魚にすら手を伸ばさない。すれ違うだけの愛の風景が、ひたすら切ない。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
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