映画『50年後のボクたちは』 - エンタメレストラン -

2017/09/01

エンタメレストラン

Vol.144
50年後のボクたちは
9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
http://www.bitters.co.jp/50nengo/
© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH
【イントロ&ストーリー】
ドイツ国内で220万部以上を売り上げ、世界26カ国で翻訳されたベストセラー小説「14歳、ぼくらの疾走」を、30代にして世界三大映画祭を制した名匠ファティ・アキンが映画化。どこまでも走り続けられると思っていた14歳の等身大な感情をリアルに描く。主演は新進気鋭の注目俳優トリスタン・ゲーベルと、オーディションで才能を見出されたアナンド・バトビレグ・チョローンバータル。
★14歳のマイクはクラスのはみだし者。母親はアル中、父親は浮気中で、同級生からは変人扱いされている。そんなある日、チックというちょっと危ない転校生がやってきた。夏休み、2人は無断で借りたオンボロ車に乗って南へと走り出す。警官に追われたり、ガス欠になったりと、トラブル続きの旅。そんな危険な目に遭いながらも、出会う人びとと心を通わせ、2人は自分たちの居場所を見つけていく。
【キャスト&スタッフ】
監督・共同脚本:ファティ・アキン
脚本:ラース・フーブリヒ
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ(「14歳、ぼくらの疾走」小峰書店)
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミュラーほか
配給:ビターズ・エンド

冒険の途中で思いがけず出会ったドイツ家庭料理の味
“盗んだ車で走り出す”少年2人の夏休みを瑞々しく描く

 夏休みも終わりが見えてくる頃、ここ数年、日本ではこんな呼びかけをあちこちで目にするようになった。「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」。これは2015年8月26日に、鎌倉市図書館がTwitterに投稿した文章だ。反響はすさまじく、長い休みの後、同様の呼びかけがいろんな場所から発信されるようになっている。

 悲しいことに、内閣府の調査によると、日本の18歳以下の自殺者数を日付別に分析したところ、2学期が始まる9月1日が突出して多いのだという。そこで提案したい。図書館もいいけど、映画もまた、悩める10代たちのアジール(避難場所)になるんだよ、と。映画のなかにも学校に馴染めない子どもがいっぱいいて、彼らは彼らなりの方法で折り合いをつけたり、いじけたり、悩んだり、暴走してとんでもないことをしたりする。映画で疑似体験をすることで、何か突破口が見つかるかもしれない。

 そんな希望を込めて紹介したいのが、ドイツ映画『50年後のボクたちは』だ。原作はドイツで220万部以上を売り上げ、26カ国で翻訳された大ベストセラー小説「14歳、ぼくらの疾走」。原作者のヴォルフガング・ヘルンドルフは脳腫瘍が発覚した後、この児童文学を世に放った。日本では今年8月、「チック」というタイトルで舞台としても上演され、柄本時生と篠山輝信が14歳の少年を演じている。

 主人公のマイクは優しい少年だが、自分を取り繕うことが苦手。そのストレートすぎる性格が原因でクラスのなかで浮いてしまい、「変人(サイコ)」と呼ばれている。自宅はピカピカの豪邸でプールまであるが、実は父親が宅地開発事業に失敗したせいで抵当に入っていて、その現実から逃れるためか、父は浮気相手と忙しい。母は愛すべき女性だが、重度のアルコール依存症。息子のことを構う余裕はまるでない。そんな現状を作文にしたためれば、先生からは「理解できない」と叱られ、憧れの同級生・タチアナの誕生日パーティには自分だけ呼ばれない。

 そんな彼の前に、ロシアの遠い場所から転校してきたソフトモヒカンのいかついモンゴリアン系の少年、チチャチョフが現れる。移民の国ドイツでも見慣れない風貌、得体の知れないキャラクターで、学校では「ロシア系マフィアの息子らしい」と噂だけが膨れ上がっていく。チチャチョフという名前もすんなり言えず、いつしかみんな、彼のことをチックと言うように。そして、嫌われ者の匂いを嗅ぎつけたのか、このチックは何かとマイクに絡んでくるようになる。

 やがて夏休みになり、父は愛人と海外へ。そして母は「スパ」と称して、アルコール依存症を治療する病院へ。手元には4000ユーロ。そんなマイクのもとに、自動車を盗んだチックがやってきて、唐突に誘うのだ。チックの祖父が住んでいるというアジアとロシアの辺境の地、“ワラキア”を目指して旅に出ようと──。

 映画ファンならこの話、どこかで聞いたことがあるな、と思うかもしれない。そう、フランスのミシェル・ゴンドリー監督が2015年に発表した『グッバイ、サマー』だ。あれも14歳の凸凹少年コンビが夏休みに、憧れの同級生の避暑地に手作り自動車で向かう話だった。

 ただ、ゴンドリーがフランス人らしく恋をモチベーションとしているのに対し、トルコ移民二世のドイツ人である本作の監督・ファティ・アキンは、彼が自身の映画で延々と描いていきた「自分の居場所探し」を旅のテーマにしているのが興味深い。プレス用資料に寄せられたドイツ文学者・池内紀氏のコメントによると、マイクもチックも“ギムナジウム”というドイツにおける中高一貫の学校に通っていて、卒業すればまず間違いなく大学に進める。また、チックの流暢なドイツ語を聞くと、どうやら相当に裕福な家であることがわかるという。それでも彼らの心が虚ろなのは親の影が薄く、明らかに手をかけられていないからだ。

 さて、ワラキアを目指して大雑把な方向感覚で車を走らせる彼らは、途中で食料が尽き、ある小さな村で子どもにスーパーマーケットの場所を訊ねる。その子の母親は「うちはスーパーに行かないのよ」と言い、一緒にランチを取らないかと誘う。野外の大きなテーブルには小さな子どもたちが楽しそうに待っていて、そこで振る舞われるのが茶色くドロっとした、一見するとタコライスの具のようなもの。これは「リジビジ」というドイツの家庭料理で、グリンピース入りの炊き込みご飯だという。

 マイクとチックの家庭ではあまり見たことのなかったメニューなのか、2人は口にした瞬間「うまい!」と感激し、あっという間に平らげてしまう。食後のデザートはクリームチーズのような白くてふわふわしたものだが、これはお母さんのクイズに答えなければありつけない。その問題がかなり難しいもので、次々と応える子どもたちに、14歳は目を丸くする。その後、ドイツ人なら誰でもわかる問いを出され、2人はようやくありつけるのだけど。

 そんなささやかな描写で、マイクとチックが家庭の味に飢えている状況が、サラリと描かれる。果たして2人は遠いロシアまでたどり着けるのだろうか。夏休みの冒険を味わえなかった人は、この映画でワクワクしてほしい。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
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