映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』 - エンタメレストラン -

2017/09/20

エンタメレストラン

Vol.145
おクジラさま ふたつの正義の物語
ユーロスペースにて公開中、9月30日から大阪・第七藝術劇場、名古屋・名演小劇場などで公開予定
http://okujirasama.com/
c 「おクジラさま」プロジェクトチーム
【イントロ&ストーリー】
初監督のドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2010年)が、東京で25週間のロングランヒットを記録。世界30を越える映画祭に正式招待された佐々木芽生監督の最新作。本作では、クジラ、イルカの追い込み漁で知られる和歌山県の太地町を6年かけて取材。意見が異なる関係者から話を聞き、半世紀以上続く「捕鯨論争」に新たな光を当てた。
★紀伊半島南端に近い、和歌山県太地町。追い込み漁を糾弾した映画『ザ・コーヴ』(2009年)がアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞して以来、「クジラの町」として400年の歴史を持つこの小さな漁師町は、世界的論争に巻き込まれてしまった。その対立がピークにあった2010年秋、佐々木芽生監督は太地町を訪れる。6年間かけてカメラが捉えたのは、マスメディアが報じてきた二項対立では決して割り切れない、多種多様な現実だった。
【キャスト&スタッフ】
監督・プロデューサー:佐々木芽生
配給:エレファントハウス

伝統的な“追い込み漁”の町を6年間かけて取材
捕鯨論争の先にある“異文化の衝突”をあぶり出す

 「クジラの肉」は子どもの頃、たまに家の食卓に上がったものだ。それから学校の給食でも。今では考えられないほど、ごく普通に、食していた。1970年代のことである。

 が、特に「クジラの肉」に郷愁はない。目の前にあったから口にしていただけ。そういえば「イルカの肉」は一度も食べたことがない。こちらは単にチャンスがなかったのだ。けっこう、そういう人は多いのではないかと思う。

 ここで素朴な疑問。クジラとイルカの違いとは? 答え。生物分類上の違いはなく、クジラの一部がイルカと呼ばれており、だいたい体長4m以上をクジラ、以下をイルカとしている(中には、ゴンドウクジラやシロイルカのようにその条件にあてはまらない種類のものもいる)。

 ところでなぜ、クジラとイルカ(の肉)の話をしているかといえば、6年の制作期間をかけて、半世紀以上も続く「捕鯨論争」に新たな光を当てたドキュメンタリー映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』を紹介するためである。カメラが捉えているのは和歌山県の太地町(たいじちょう)。人口約3千人の小さな町だ。だが、この町は2009年を境に、ワールドワイドに知られるようになった。一体何が起きたのか? 太地町の昔ながらの伝統的な“追い込み漁”を糾弾したアメリカ発のドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が、サンダンス映画祭観客賞を皮切りに各国の映画賞を席捲、ついにはアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞も獲得してしまったのだ!

 コーヴとは“入り江”のこと。複数の漁船でイルカや小型クジラの群れを入り江へと追い込み、銛(もり)を用いて捕殺するその方法が、映画を通して(海が血で真っ赤に染まる光景とともに)世界中の人々、とりわけ環境保護の活動家たちの目に触れ、衝撃が広がったわけである。しかしこの作品、告発エンターテイメントとしては優れているが、かなり製作者サイド側の恣意的な情報コントロール、プロパガンダの意図が入っており、受け止める側のリテラシーを試される問題作でもあった。かような『ザ・コーヴ』への違和感を出発点に、『おクジラさま ふたつの正義の物語』をつくったのが佐々木芽生監督で、地元民と反捕鯨団体、意見が真っ向から対立する両者に密着。さらに様々な関係者にも取材を敢行して、「捕鯨論争」だけでなく、その本質である“異文化の衝突”をあぶり出していく。

 まず押さえておくべき点は、太地町は陸の孤島で、江戸時代以来400年以上の捕鯨の歴史を誇り、戦後の食糧難の時代もGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の許可の下、牛肉の代わりにクジラの肉で飢えを凌いできた土地柄であるということ。つまり、捕鯨を伝統文化とし、クジラに感謝の念を抱きながら共生してきたのだ。とはいえ、だからと言って「日本スゴい!」的な視座に安住することなく、ウィークポイントもちゃんと指摘する。すなわち、SNS時代における発信力の弱さ。ただただ伝統や文化を盾に取ってもダメ。佐々木監督はあくまで中立を心がけ、バランスがとてもいい。

 映画を観ていくと、何が正しくて何が間違っているか、だんだんと判断が難しくなってしまうのだが、確かなことがひとつある。古今東西、肉食文化とは、動物側から眺めれば“残酷”としか言いようのない行為がつきもの、であること。それもまた、人間の隠しようのない一面だ。ゆえに「(命を)いただきます」の精神だけは、絶対に忘れたくない。

Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。
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