年末特別編・執筆者が選ぶ「2017年の3本」 - エンタメレストラン -

2017/12/18

エンタメレストラン

Vol.151
年末特別編
執筆者が選ぶ「2017年の3本」

 2017年も「食」を切り口に、様々な映画を取り上げてきた「エンタメレストラン」。今回は年末特別編として執筆者の2人に、当コーナーで紹介した23作品から「2017年の3本」を選んでもらった。さらに“特別デザート”として、残念ながら取り上げられなかった公開作品からも、食の描写が特に印象的だった「おまけの1本」を追加でセレクト。年末年始、ぜひブルーレイやDVDでチェック!

★映画ジャーナリスト 金原由佳が選ぶ「2017年の3本」 ★映画評論家 轟夕起夫が選ぶ「2017年の3本」

金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。
轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』

 かつては行政が手厚い支援を目指していたイギリスの福祉部門。だが近年は、予算緊縮の波を受けて民営化され、様々な手続きもオンライン化されている。一度は引退を宣言しながら、本作『わたしは、ダニエル・ブレイク』で監督復帰したケン・ローチは、効率第一の政策によって、セイフティネットにかからず、システムの穴からこぼれ落ちてしまう人々の日々の戦いを鮮明に描いた。生きるのにギリギリの人たちの話だから、食べるのもギリギリ。2人の小さな子どもを抱えながら、補助を受けることに失敗したシングルマザーが、それでも自分を助けてくれる主人公ダニエルを食事に招待し、でも自分は食べないという場面も涙を誘った。だが、強烈だったのは彼女が民営フードバンクを訪ねる場面。目の前にある多くの食べ物を見て、それまでの我慢の糸が切れ、無意識のうちに目の前の缶詰をこじ開け、むしゃぶりついてしまう。そこまで追いつめられた人間の必死のさまと、冷たい政府のギャップが鮮烈だ。フードバンクに通っていることがバレた子どもが学校でいじめられる描写もあり、昨今、日本でも増えてきている「子ども食堂」とも関連して考えさせられる。老いてなお、ケン・ローチの現代社会への鋭い批判精神にしびれるのであった。(金原由佳)

 ケン・ローチの映画は一貫して、理不尽に“虐げられた者たちの怒り”を描いてきた。が、(正直に告白すると)かつては浅はかにもどこか、それらを対岸の火事のように眺めていた。「まあまあ、これは主にイギリスでのできごとなんだから」と。だがここ数年、(まったく不謹慎ではあったのだが)そんな心の余裕はどんどんなくなってきている。それだけこの国が(我が政府の喧伝とは反対に!)いろいろな意味で貧しく、メチャクチャになっており、ケン・ローチの問題意識の切実度が上がってきているのだ。断言する。もし『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観て、あのフードバンクでの痛ましい女性の姿を目撃して何も感じないのだとしたら、あなたは今、とても幸せなのだろう。きっと、おめでたいくらいに──。(轟 夕起夫)

【キャスト&スタッフ】
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
音楽:ジョージ・フェントン
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ ほか
配給:ロングライド
© Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, LesFilms du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and TheBritish Film Institute 2016

『彼女がその名を知らない鳥たち』

 蒼井優演じるヒロイン、十和子は日がな一日部屋にこもり、ソファでダラダラと過ごしている。掃除も洗濯も炊事も一切せず、大きな赤ちゃんみたいにワガママ放題。食事を施すのは15歳年上の同居人・陣治で、常に彼女の心配をしている。夫婦や恋人というより、まるで父子。粗野な男がなぜ、お人形のような華奢で若く美しい十和子と一緒に暮らしているのか。その謎が徐々に明かされるのだが、その合間にせっせと食事を作るシーンも挟まれる。過去の恋人との恋愛の記憶に溺れる十和子は、食事に対してもどこか淡白で、だからこそ陣治は、電話をかけて確認したりして、いかに食べさせるかに腐心する。天ぷらうどんを作り、ステーキを焼く。いつも冷たい十和子も食べる時はちょっとだけ、柔らかい表情を見せるから。それにしても、阿部サダヲ演じる陣治の食べ方が強烈に汚い。くちゃくちゃと音を鳴らし、歯も黄ばんでいて、つばも飛ばす。そりゃ、目の前に松坂桃李が現れたらよろめくよね。それでも、「男性の皆さん、愛する女性をとにかく飢えさせたらいけない」という教訓にも辿り着く1本。(金原由佳)

【キャスト&スタッフ】
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう
監督:白石和彌
原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
配給:クロックワークス
© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

『家族はつらいよ2』

 こんな逸話を持った酔狂な、いにしえの人たちがいる。すなわち、自分が死んでしまった折には、「棺桶の中に一緒に花火を入れること」、そして「必ず火葬にすること」と遺言を残したのだ。さて、どうなるかは想像どおり、燃やした途端、棺桶からは大きな音とともに花火が上がって参列者を驚かせたそう。サービス精神極まれり! ところで、『家族はつらいよ2』で山田洋次監督は、急死してしまった登場人物のお見送りの場、その棺桶に「故人が大好物であった銀杏をたくさん入れる」という趣向を用意した。火がつけられると「パチパチ」と銀杏が弾ける音がし、それが可笑しくも物悲しい響きで何とも忘れがたいシーンに。ちなみにこれ、なんと出演者の蒼井優の実体験から発想されたのであった。(轟 夕起夫)

【キャスト&スタッフ】
原作・監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
音楽:久石譲
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優ほか
制作・配給:松竹株式会社
© 2017「家族はつらいよ2」製作委員会

『パターソン』

 パターソンは、かつて絹産業で栄えたが、今は静かな地方都市と化している街。そこでバスの運転手として暮らすパターソンと、その妻の穏やかな1週間を追った作品。毎日、同じルーティンで過ごすパターソンだが、彼は詩人でもあり、その目で街を眺めている。妻のローラがDIYスピリッツ溢れる女性で、日々家を改造し、新しい献立に挑戦し(それはあまりパターソンのお気に召さないのだが)、前衛的な模様の黒いカップケーキを作ってそれを売ったりする(こちらは好評を得る)。一見、他愛ない物語だが、パターソンにはアメリカ海軍の軍人であった過去があり、妻ははっきりと国は明かされないがイランやイラクなど中近東の出身であることが匂わされ、2人の過去には戦争やアメリカによる軍事介入といった不穏な出来事も見え隠れする。つまりは何も起こらない毎日を題材にしているわけではなく、何かが起こったあとに手に入れた平穏な日々を綴った映画ともいえ、「多様性」というものに偏狭になりつつあるアメリカへの大きな問題定義も含まれた作品ともいえる。だがすごいのは、そういう政治の匂いを一切させずに、構成されているところだ。ジム・ジャームッシュ監督健在の証となった作品だ。(金原由佳)

 アメリカではおなじみ、「TVディナー(テレビを見ながら作れるディナー)」という言葉、その存在を教えてくれたのはジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)だった。プラスチックの容器に肉やポテト、野菜などが分けて入っている冷凍食品なのだが、ジャームッシュの手にかかるとちょっとカッコいい感じがした。『コーヒー&シガレッツ』(2003年)での、コーヒーとタバコにまつわる11のエピソード集も何気ない日常の光景が“特別”に見えた。最新作『パターソン』は、そうした彼の“マジック”の集大成で、変哲もない日々をひたすら愛でてゆく豊かで幸せな一篇。主人公の毎朝の友、淹れたてのコーヒーにドーナツ型のシリアル。奥さんの(ユニークな)料理の数々にカップケーキ! 観るだけで胸の空白が満たされる。(轟 夕起夫)

【キャスト&スタッフ】
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏ほか
配給:ロングライド
Photo by MARY CYBULSKI © 2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

金原由佳が選ぶ「おまけの1本」 行定勲監督『ナラタージュ』

 この連載では取り上げなかった行定勲監督の『ナラタージュ』。原作は島本理生の同名小説で、大学生の女性が、高校時代に好意を抱いていた恩師から演劇部の手伝いを頼まれて再会し、一歩踏み込んだ関係になっていく話。ヒロインの泉を有村架純、先生役は松本潤、そして泉が先生への思いを断ち切るように交際する大学生に坂口健太郎。役者のそろったトライアングルの物語だ。富山県でロケ撮影され、日本海の鈍く重い海の色や、立ち込める空の重さ、そして風情のある日本家屋など、恋愛への味付けも渋い。さて、高校生ならともかく、大学生となった泉がなぜ先生との恋愛に踏み出せないのか。そこには、先生には精神の均衡を崩した妻がいて、籍も抜いていないという事情がある。それでも互いに好意はあるので、先生が熱で寝込んだ泉を心配して、アパートを訪ね、お粥なのか雑炊なのか、胃腸によさそうなものを作ってくれたりする。「松潤が自分のために料理を?」というシチュエーションだけで若い女性は色めき立つだろうが、有村架純はそんなことで喜んだりしなくて、「こんなのずるい」とちゃんと言う。とはいえ、彼女も先生への思いを断ち切ろうと坂口健太郎とどこかカモフラージュ的に交際するのだから、人のことは言えない。半ば同棲生活を送るなか、健太郎君のこじゃれたアパートで架純がキノコがいっぱい入った煮込みうどんを作っていて、さあ、もうできあがるというときに、健太郎が架純へ「先生から連絡があった」と怒り出す。あのおいしそうなうどんはその後、どうなったのでしょう? 早く食べなければ伸びちゃうと思った観客は、私だけではないはずです。

轟夕起夫が選ぶ「おまけの1本」 キム・ソンフン監督『トンネル 闇に鎖された男』

 タイトルが示唆しているように、本作はディザスタームービーである。走行中に突然トンネルが天井から崩れ落ち、主人公は車ごと瓦礫まみれになり、生き埋めになってしまうのだ。しかしながら凡百のパニック物とは一線を画し、“主人公の安否”をダシにして非常にブラックでアイロニカルな、しかも感動的なゴールへと着地する。重要なのは彼のライフライン。それはバッテリー残量78%の携帯電話と、ペットボトル2本分の水、ワンホールのケーキで、水はトンネルに入る直前に立ち寄った給油所で手に入れ、ケーキは娘の誕生日用だ。極度の閉所空間を舞台に、趣向を凝らしたサバイバル劇が展開していき、合わせて携帯電話、そして「水とケーキ」のドラマチックな物語が用意されている。いやあ本当に、水は大事ですね!

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