映画『嘘八百』 - エンタメレストラン -

2018/01/05

エンタメレストラン

Vol.152
嘘八百
2018年1月5日(金)より全国公開
http://gaga.ne.jp/uso800/
© 2018「嘘八百」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
茶の湯の聖地・堺で発見された、千利休の幻の茶器。それが本物かどうかを巡って繰り広げられる、丁々発止の騙し合いを描く。日本映画界を代表する俳優、中井貴一と佐々木蔵之介がダブル主演。映画『百円の恋』(2014年)で映画賞を総なめにした武正晴監督と脚本家・足立紳のコンビに、NHK連続テレビ小説「てっぱん」などで活躍する脚本家で、堺親善大使も務める今井雅子が加わった、“大人による大人のための喜劇映画”。
★骨董の目利きだが、一攫千金狙いで失敗続きの古物商・小池則夫(中井貴一)。才能はあるものの、生活のために贋物ばかり作らされ、やる気を失ってしまった陶芸家の野田佐輔(佐々木蔵之介)。ひょんな行きがかりで知り合った2人は、千利休の“幻の茶器”の贋物を作り、自分らをコケにしてきた者たちに一泡吹かそうと目論む。浮かばれない中年男たちが仕かけた、一発逆転の大勝負。だがニセモノ作りに没頭するうちに、2人はかつての情熱を取り戻し始めて…。
【キャスト&スタッフ】
キャスト:中井貴一、佐々木蔵之介、友近、森川葵、前野朋哉、堀内敬子、坂田利夫、木下ほうか、塚地武雅、桂雀々、寺田農、芦屋小雁、近藤正臣
監督:武正晴
脚本:足立紳、今井雅子
配給:ギャガ

千利休ゆかりの茶器をめぐる、騙し騙されの“お宝コメディ”
「食うか食われるか」の作戦会議の行方はいかに?

 崖っぷちに立たされた人間のドラマを作らせれば、今、このコンビは乗りに乗っていると言えるのではないか?

 2014年、32歳のニート女性がボクシングと出合い、薄皮を剥ぐように自堕落な生活から抜け出していく姿を安藤サクラが熱演した『百円の恋』が、映画賞を席巻した。その武正晴監督と脚本家・足立紳のコンビによる新作が『嘘八百』である。今回は、中年に至ってもホンモノになれない男たちが、“ホンモノを超えるニセモノ作り”に挑むコンゲーム(二転三転の騙し合い)となっている。

 中井貴一演じる小池則夫は、鑑識眼はあるがうだつのあがらない古物商。妻に逃げられたこの男が、娘のいまり(森川葵)と大阪の商都・堺を訪ね、お宝がありそうな家を探して車を走らせているところから話は始まる。由緒ありげな蔵を見つけた小池は、アポなしで訪問。主人らしき男・野田佐輔(佐々木蔵之介)から「骨董のことはわからないが、これ1つでも車1台は買えると聞いている」と言われた茶器を贋作だと見抜き、素人を騙した古美術商と鑑定士に高値で買い戻させようと目論むが、軽くあしらわれてしまう。その後、佐輔の蔵に千利休直筆の譲り状と箱があると気付いた則夫は……。

 骨董の世界は奥が深く怖いとは、よく聞く話だ。あの白洲正子でさえ、何度も騙されたと随筆に記している。また、実業家で「山種美術館」の創始者としても知られる山崎種二も、成功を収め、初めて購入した酒井抱一(江戸時代後期の絵師)の絵は贋作だった。それに懲りた山崎がかなり長い間、同時代の作家の絵しか買わなかったというのも有名なエピソードだ。ではなぜ、売った側は罰せられないのか。それは骨董の価値が、買う側が「この値段でもほしい」と決めることで成り立つからだ。だからこそ買い手は目利きになる必要があり、それが難しければ、鑑識眼のあるパートナーが不可欠となる。『嘘八百』はこの目利きをめぐる男たちの、いわば力比べのコメディと言っていい。

 そもそも千利休が豊臣秀吉に切腹を命じられたのは、彼の一声で茶器の値段が決まってしまう状況を秀吉が嫌ったからだ、とも言われる。また、こういう説もある。貿易商人・呂宋(るそん)助左衛門がルソン(今のフィリピン)から持ち帰った壷を手に入れるため、秀吉は利休に莫大な銭を支払った。だが、その壷が現地では雑器(一説には小便器)として扱われているものだと知り、激怒して切腹に追いやったのだというのだ。いずれにせよ骨董の世界では、売る側が買い手に「どうしてもほしい」と思わせる物語を持っていることが重要。『嘘八百』ではその小道具として、千利休が遺した直筆の譲り状というのが効いてくる。

 さて、佐輔を騙すつもりだったが逆に騙された則夫は、その素性を調べるうち、彼が実は腕のいい陶芸家でありながら、やり手の大御所鑑定士(近藤正臣)に騙されて、体のいい贋作作りに使われていることを知る。その佐輔を尾行し、彼の家に突入すると、彼の妻・康子(友近)はちょうどすき焼きを作っている真っ最中。グダグダ言っていると「まずは食べなさい」と言われ、煙に巻かれてしまう。このすき焼きが何ともおいしそうでいい。佐輔の贋作チームのメンバーも、例えば日本料理店の亭主がいたり、みんな食に関わる仕事に就く者ばかりだ。まさに食うか食われるか。器にちなんで、次々とおいしいものがスクリーンに出てきては、それを食らいながらの作戦会議が繰り広げられるのだ。

 果たして彼らは、すれっからしの買い手に「どんな手段を使ってもほしい」と思わせるような、千利休直伝の茶器(の贋物)を作ることができるのか。腹の見えない大人の男たちの、肩の力の抜けた妙技をぜひご覧あれ。

Text by 金原由佳(映画ジャーナリスト)
「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。

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