映画『北の桜守』 - エンタメレストラン -

2018/03/02

エンタメレストラン

Vol.156
北の桜守
3月10日(土)公開
http://www.kitanosakuramori.jp
© 2018「北の桜守」製作委員会
【イントロ&ストーリー】
日本映画界を代表する女優・吉永小百合の120本目となる映画出演作。戦後、貧しさと飢えに苦しみながらも北の大地で懸命に生き抜いた母子が、十数年の空白を経て再会。失われた記憶をめぐる旅に出るヒューマン・ドラマ。監督は、『おくりびと』(2008)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞し、吉永とは初タッグとなる名匠・滝田洋二郎。老境に入った母親とともに暮らすことを決意する息子を堺雅人が演じる。
★1945年8月、ソ連軍が南樺太に侵攻。江蓮てつ(吉永小百合)は息子2人を連れ、決死の思いで北海道へ逃れる。だが親子を待っていたのは、寒さと飢餓に苦しむ苛酷な生活だった。ときは流れ1971年。米国で成功した二男・修二郎(堺雅人)は、15年ぶりに網走を訪れる。そこに長男の姿はなく、年老いたてつが夫を待ち続けながらひとり慎ましく暮らしていた。修二郎はてつを札幌へと連れ帰り、面倒をみる決意をするが…。
【キャスト&スタッフ】
出演:吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、岸部一徳、高島礼子、永島敏行、笑福亭鶴瓶、中村雅俊、阿部寛、佐藤浩市
監督:滝田洋二郎
脚本:那須真知子
舞台演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽:小椋佳、星勝、海田庄吾

失われた記憶をたどり、北へと旅する親子の物語
名女優の演技に重層的な意味を与える「おにぎり」

 コンビニエンスストアの主力商品、それも“食べ物”といえば何を思い浮かべます? まあ、答えは人それぞれでしょうけれども、やはり「おにぎり」はマストではないかと。さて現在、(コンビニ大手のひとつ)ローソンが期間限定オリジナル商品として展開しているのが、吉永小百合主演の映画『北の桜守』とのおにぎりコラボレーション。これ、コンビニおにぎりが映画と大きく関わっていて、製作サイドがローソンに取材をしたことから実現したものなのだ。

 なんと通算120本目となる記念作『北の桜守』は、『北の零年』(2005)、『北のカナリアたち』(2012)に続いて吉永さんの“北の三部作”のファイナルを飾る一大巨篇。「桜守」とは地域に根ざし、一年を通して桜の保護育成に努める日本各地の人々のことで、サハリン(旧樺太)に住む本作のヒロイン、吉永さん扮する江蓮(えづれ)てつもその一人に数えられる。が、しかし、太平洋戦争下の1945年8月、夫(阿部寛)と息子たちとのささやかな幸せを踏みにじられて、彼女は「サバイバルの旅」へ身を投じざるを得なくなる!

 すなわち、ポツダム宣言受諾後にもかかわらず、旧ソ連軍の侵攻により土地を追われ、息子たちを連れて北海道への脱出を図るのだった。命からがら辿りついた網走でやがて、女手ひとつで子どもを育てていくために小さな食堂を始めるのだが、物資のないなか、そこの看板メニューとして出されるのが「おにぎり」。吉永さんは劇中のシーンのために握り方を料理学校の先生に教わり、握る姿を動画に撮った映像などを見ながら、自宅でも入念に練習を重ねた。以前、喫茶店の店主役だった『ふしぎな岬の物語』(2014)ではコーチと同じ器具を取りそろえ、美味なコーヒーの淹れ方を完全にマスターしたそう。ちなみに今回の「おにぎり」は、馴染みのある三角形ではなく、当時の主流であった太鼓型。

 てつは将来を考え、心を鬼にして、物心ついた息子の修二郎(堺雅人)を網走から追い出すのだが、その修二郎はアメリカでビジネスを学び、成功を収め、15年ぶりに北海道に帰ってくる。1971年(昭和46年)、修二郎が開店するのは日本初のホットドッグストア・ミネソタ24(現在のコンビニのはしり)で、彼の“おふくろの味”、てつの食堂の看板メニューであった「おにぎり」もホットドックに並ぶ商品として売り出されることに。とはいえ、それは試行錯誤の連続、商品としての処遇をめぐって、日米文化の違いが垣間見られるところも。つまりこの映画で「おにぎり」は、“親子の絆”以上の多様な意味を与えられているのである。

 なかでも印象的なのは、樺太から引き揚げた直後、闇商売を仕切る男(佐藤浩市)と出会い、与えられたおにぎりを逡巡しつつも飢えには勝てず、てつが貪るように食べるシーン。これは吉永さんに直接伺ったのだが、ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)を昨年鑑賞、痛ましい境遇の若い母親が空腹からフードバンクで思わず手づかみで食べてしまう場面に触発されたのだとか。「なるほど!」と膝を打つ、それは鬼気迫るシーンになっていた。

Text by 轟夕起夫(映画評論家)
「キネマ旬報」「映画秘宝」「ケトル」などで執筆中。近年の編著に「好き勝手夏木陽介スタアの時代」(講談社)など。雑誌「DVD&ブルーレイでーた」で連載した名物コラム『三つ数えろ!映画監督が選ぶ名画3本立てプログラム』も単行本化。取材・構成を担当した『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』がスペースシャワーブックスより発売中。

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