Vol.50
イタリアで急速に広がっているデリバリーブーム。前編で紹介した「ジャスト・イート」が行った利用者アンケートでは、デリバリーを利用する理由として、昼食では「ランチへ行く時間をほかのことに当てたい」、そして夕食では「買物に行く時間がない」がトップ。スマートフォンの普及や高速の移動手段の広がりなど、イタリア社会の今までにないネット化、スピード化が影響しているのは明らかだ。ブームを牽引するのは、新しい需要をいち早くキャッチし、企画力で勝負できる会社。後編では、需要に応じて新しく生まれたデリバリー&ケータリングの最新事情を紹介する。
photo by CUOCHIVOLANTI
photo by CUOCHIVOLANTI
レストランの味をそのまま再現。料理人自らを“デリバリー”
2006年トリノに生まれた、デリバリーサービスを行う「クオキヴォランティ」(CUOCHIVOLANTI)。イタリア語で「空飛ぶコックたち」を意味する、この若手料理人のグループは、客の指定する場所へどこへでも飛んで行き、その場で料理を作る。ケータリングや出張シェフとの違いを、発起人で経営担当のダビデ氏はこう説明する。「ケータリングは、自分の厨房で作った物を客のもとへ運び、サービスを提供するもの。主にイベントなどに使われます。出張シェフは、僕らと同様、個人宅へ出向き、客の厨房を使って料理をするけれど、食器などは客のものを使うので日常感が残る。僕らのサービスは、買物から料理、テーブルセッティング、サービスなど、食事にまつわるすべてを引き受け、演出することです。自宅に居ながらにしてレストランの味と、非日常な楽しさを提供します」。
photo by CUOCHIVOLANTI
イタリアでは、飲食店の開業に、例えば厨房は9平米以上でタイル張りであること、客用トイレはバリアフリーであることなど、こと細かい規定が設けられている。当然、設備の整った高い物件を借りるか、費用をかけて改装するかという選択になり、元手のない若手には起業は厳しい。ケータリングやデリバリーも同様で、厨房施設や運搬用の車にも細かい規定がある。そんなイタリアで、「クオキヴォランティ」の発想は斬新だった。食品衛生管理手法を学ぶHACCP講座の履修証明さえあれば、自分の厨房を持たずに仕事ができるというビジネスモデルで、初期投資を限りなく低く抑えてスタートすることができた。
そして開業から2年。その間に得た資本金を元に厨房を設け、ケータリングサービスも開始。自分たちの厨房で調理できることで時間的な制約が減り、数日かかる手の込んだ料理を提供できるなど、メニューの幅も広がった。また、厨房施設のない会場でのイベントを請け負うなど、ビジネスチャンスも増えた。
当時、ケータリングといえば富裕層の自宅でのパーティやビジネス利用ばかりだった。そんな中で、立食パーティメニューが1人前約15ユーロ~(約1,990円~)、フルコースの食事が1人約60~80ユーロ(約7,940~10,600円)で自宅やオフィスなどで楽しめる。加えて、「ヘルシー」「オーガニック」「スパイシー」などの食のトレンドを取り入れ、手頃な価格で、シンプルでセンスのある彼らの料理や提供方法が話題となり、注目が集まった。さらに、流行に敏感な若手のアパレルなどのショップオーナーたちが販促イベント等に利用したことで、ますます利用が増加。今では彼らに続けと、腕自慢の若手料理人たちによる同様のサービスも増えている。
photo by CUOCHIVOLANTI
photo by CUOCHIVOLANTI
クオキヴォランティ(CUOCHIVOLANTI)
http://www.cuochivolanti.it/
日本の駅弁がヒント?鉄道会社が手がけるデリバリーサービス
約1年前に開業したイタリア私鉄高速列車「イタロ」(ITALO)。その車内で、新しいデリバリーサービスが行われ人気を博している。その名も「イタロ・ボックス」。紙製のランチボックスに料理、デザート、スナック類が入り、車内の席まで届けてくれるというものだ。
「日本の駅弁にアイデアを得たものですが、事前にネットで購入できるのがポイントです。乗客の多くはビジネス利用の一人旅。車中でも寸暇を惜しんで仕事をする人がほとんどです。そんな彼らにとって、黙っていても食事が運ばれてくる、広げた書類も携帯電話もそのままで席を立たなくていいというのは、この上ない快適さなのです」とは、イタロを運営するNTV社広報のマリオ・タリアーニ氏。ネットで予約し、空いた時間は仕事やほかのことに当てたいという現代人のニーズは前編でも紹介したが、それに応えるサービスといえる。
「イタロ・ボックス」の製作は、高品質のフードマーケット「イータリー」が担当。専門チームを結成し、研究検討を重ねた結果、料理を詰めるのはガラス瓶に決めた。ガラスならリサイクルできるうえ、真空保存が可能なため、保存料を使用しないですむ。「昔ながらの保存食の製法を利用しています。料理を瓶に詰め、湯煎で加熱すると中が真空になり、1年でも2年でも保存が可能です。イタロでは2週間に1度メニューを入れ替えますから、最長でも2週間ですが」とはイータリー・トリノのカルロッタ・ザネッリ氏。路線の拡大とともに、“駅弁風デリバリー”の利用者も着実に増えている。
利便性を求め、様々な分野で二極化が進むが、食の分野でもデリバリーやケータリングの成長で二極化が進むかもしれない。食にとことんこだわり自分で作る派と、デリバリーなどの外食をフル活用し、キッチンさえ持たない派。そんなことも考えられるほど、イタリアでのデリバリー&ケータリングは広がりを見せている。
イタリア私鉄高速列車イタロ(ITALO)
http://www.italotreno.it
取材・文・写真/宮本さやか
企画・編集/料理通信社
※通貨レート 1ユーロ=132.4円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。