Vol.56
質のいい野菜やその生産者に着目する料理人が増えてきたフランス。前編では、野菜を主役にした料理が今のフランス料理界の大きな潮流のひとつになってきた現状を紹介した。後編では、さらに深く野菜料理を追究する料理人の取り組みを紹介する。
photo by Thomas Duval
イベントやコース料理で野菜の魅力を伝えるグランシェフ
フランス料理における野菜の注目度は、前編でも書いたように、健康への意識の高まりや、狂牛病や鳥インフルエンザ、養殖魚などの諸問題にも後押しされ、消費者はより食材が育った環境やトレーサビリティに注意を向けるようになってきた。そんな食べ手の要求を敏感に感じ取り、行動に移したのが、「フォーシーズンズ・ホテル・ジョルジュ・サンク・パリ」の総料理長、エリック・ブリファー氏だ。
エリック・ブリファー氏は、ミシュラン二ツ星とMOF(フランス最優秀職人)の称号を持つ実力派シェフ。前編で紹介した野菜生産者ジョエル・チエボー氏の取引先のひとりでもある。チエボー氏が出店するマルシェは、ホテルのすぐそば。ブリファー氏はそのメリットを活かし、ホテルとメインダイニング「ル・サンク」の顧客を対象にしたイベントを2013年春から無料でスタートさせた。シェフが客と一緒にマルシェに行き、野菜の解説をしながら買い物をする。そしてホテルに戻り、買ったばかりの食材を使って料理のデモンストレーションを行い、その後、皆で試食するというプログラムで、野菜に対する意識が高い客から好感を得ている。
さらに、ブリファー氏は現在、野菜料理だけで構成するコース料理を考案中。ホテルのダイニングでは、これまでもゲストの要望に合わせてベジタリアンメニューを用意してはいたが、肉や魚料理に比べて料理人の実力を表現しづらかった。しかしブリファー氏は、高級レストランに相応しい野菜料理を追求。最上の新鮮な野菜を、スープ、クリーム、ポワレ(蒸し焼き)、煮込みなど、様々な調理法を駆使して豊かな料理に変化させる。ひとつの食材を数種類の料理に仕立てて食材の魅力を多角的に表現するなど、高度な技術と独創性で、美食家も満足しうる野菜料理のコースを開発中だ。
ル・サンク(Le Cinq)
Four Seasons Hotel George V Paris
31 avenue George V 75008 Paris
http://www.restaurant-lecinq.com/
シェフ自ら生み出した、野菜本来の味を引き出す調理器具
野菜を使った料理だけでなく、野菜のおいしさをより際立たせるべく、トップシェフが開発した野菜専用の調理器具も登場した。2010年に発売された「クックポット」だ。
photo by Pierre Monetta
生みの親は、フランス料理界の重鎮アラン・デュカス氏。長年、野菜本来の味をストレートに引き出す調理器具が欲しかったと開発に着手した。陶器製でココット鍋のような形をしており、野菜類を入れて蓋をし、オーブンで調理する。丸みを帯びた独特の形が、野菜の理想的な加熱を可能にした。加熱後は蓋を外し、そのまま器としてテーブルにのせられる。実用性と美しさを兼ね備えたデザインは、高名なデザイナー、ピエール・トション氏が考案した。
春はアスパラガスとモリーユ茸のフリカッセ(バターや生クリームを合わせて作る煮込み料理)。夏は南仏野菜の重ね焼き、冬はジャガイモと黒トリュフとネギを合わせて……。四季折々の野菜をたっぷり使った“クックポット料理”は、アラン・デュカス氏が手がけるパリの「オ・リヨネ」(Aux Lyonnais)や「ブノワ」(Benoit)などのレストランで、それぞれのスタイルに合わせて提供されている。
ブリファー氏やデュカス氏といったフランスを代表するトップシェフたちが、次々と力を注ぐようになり、野菜料理への注目度は一段と高まっている。世界的な健康志向に呼応しながら、今後あらゆるジャンルの料理で野菜の重要性が高くなり、その可能性は広がっていくのではないだろうか。
photo by Thomas Duval
photo by Thomas Duval
オ・リヨネ(Aux Lyonnais)
32 rue Saint Marc 75002 Paris
http://www.auxlyonnais.com
ブノワ(Benoit)
20 rue Saint Martin 75004 Paris
http://www.benoit-paris.com/
取材・文/加納雪乃
企画・編集/料理通信社
※通貨レート 1ユーロ=約141.1円
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