ハワイ発 「ロコモコ」の伝統と新潮流 後編

ハワイの郷土料理のひとつである「ロコモコ」。後編では、高級レストランでアレンジされたロコモコを紹介。B級グルメ的な存在だったロコモコが、贅沢な逸品に進化している姿をリポートする。

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Vol.58

ハワイの郷土料理のひとつである「ロコモコ」。前編では、ロコモコをハワイ全土に広げた「カフェ100」と、ベジタリアンのオーナーによるこだわりの野菜を使ったロコモコなど、新旧のロコモコについて紹介した。この後編では、高級レストランで独自にアレンジされたロコモコをご紹介。B級グルメ的な存在だったロコモコが、贅沢な逸品に進化している姿をお伝えする。

「新鮮な卵」など地場食材にこだわって作られたアラン・ウォン氏のロコモコ。フォークを刺すと黄味が流れ出る、絶妙な焼き加減だ
ワイキキの高級デパート内にある「パイナップル・ルーム」。買い物途中のランチでも利用できるカジュアルさが人気で、高級ロコモコが提供されている
海辺の高級日系ホテル「ニューオータニカイマナビーチホテル」にあるレストランでも高級ロコモコが人気。日本人の好みを考慮して作られている

ロコモコをグルメな逸品に。高級レストランの贅沢ロコモコ

ホノルルのレストラン業界で頂点に立つシェフ、アラン・ウォン氏。日米、そして地元ハワイのメディアでも頻繁に取り上げられる、まさに料理界のスター的存在だ。そんな彼がハワイ州内で展開するレストランの中でも、カジュアルな雰囲気で人気なのが、アラモアナ・センター内のデパート「メイシーズ」にある「パイナップル・ルーム・バイ・アラン・ウォン」(The Pineapple Room By Alan Wong)だ。

「パイナップル・ルーム・バイ・アラン・ウォン」の「ザ・ロコモコ」。一つひとつの素材をていねいに調理し、グルメな逸品に仕上げている

日常食として安価で気軽に食べられるロコモコが、このレストランでは高級料理に大変身。「新鮮で安全な食材を使用し、地元に利益を還元したい」と、地産食材にとことんこだわった「ザ・ロコモコ」(21.50ドル=2,250円)を提供している。まず、ロコモコのメイン的存在であるハンバーグには、穀物飼料を一切使わず、草だけを食べてのびのびと放牧されて育ったハワイ島のクアヒヴィ牧場の牛を使用。それを、ハワイ原産の木、キアヴェの火でグリルすることで、しっかりと肉らしい味わいが楽しめ、ジワッと肉汁があふれる。その土台には白米ではなく、手をかけて作った炒飯、上には黄身をトロリと仕上げた目玉焼きがのる。重くなりそうな組み合わせだが、目玉焼きの上にトマトとねぎをのせることで、全体の味を引き締めている。まさに、食材すべてをまとめ上げた絶妙のハーモニーだ。

そんな「ザ・ロコモコ」に使う食材の中で、ウォン氏がもっともこだわるのが、卵。実は彼は、日本人の母を持ち、5歳まで日本で過ごした影響で、子どものころから「卵かけご飯」が大好物なのだ。ハワイに移ってからも食べたがる彼のために、母が生でも安全に食べられる新鮮な卵を探してくれた。それが今、「ザ・ロコモコ」にも使っている、オアフ島の養鶏所「ピーターソン・ファーム」の卵だ。

ウォン氏はハワイ島ヒロで暮らした経験もあり、前編で紹介した「カフェ100」の近所に住み、同店のロコモコに親しんでいたという。彼にとっては、卵かけご飯もロコモコも懐かしい故郷の味“コンフォート・フード”なのだ。ウォン氏自身の歴史が詰まった「ザ・ロコモコ」は、多くの人に親しまれている。

創業時からウォン氏の片腕として働くシェフのエディー氏。ウォン氏のレシピを忠実に守り、店のクオリティをコントロールする役目を果たす
パイナップル・ルーム・バイ・アラン・ウォン(The Pineapple Room By Alan Wong)
1450 Ala Moana Blvd.
Honolulu, HI
http://www.alanwongs.com/

日本的なアクセントが人気。高級ホテルレストランでもロコモコが好評

ホノルル、ワイキキのダイヤモンドヘッド側の外れにある超一等地、美しく静かなカイマナ・ビーチの目の前に位置する、老舗ホテル「ニューオータニカイマナビーチホテル」。その海を見渡すテラスに、レストラン「ハウツリーラナイ」(Hau Tree Lanai)がある。「ハウツリーラナイ」は、これまで数々の雑誌に掲載されるとともに、高い評価を得ている。ここで提供されているロコモコも贅沢路線。ハウツリーラナイのロコモコは、素材にこだわるとともに日系ホテルのレストランということもあり、日本的なアクセントが盛り込まれている。

日本人客の口に合うよう、お馴染みの食材を使ったという「ハウツリーラナイ」のロコモコ(18ドル=約1,880円)。テラスの向こうに広がる海を見ながら食べれば、まさに贅沢の極み

通常のロコモコに用いられる牛ハンバーグの代わりに、日本式ともいえる合挽き肉のメンチカツを使用。その上にコーンビーフハッシュ(コーンビーフにポテトを混ぜて焼いたもの)、目玉焼き、ネギがのせられている。ご飯にはカリフォルニア産コシヒカリを使い、下にはグレービーソースの代わりに、店で毎日手作りをするというデミグラスソースがたっぷり敷かれる。メンチカツを切ると、ほんのりと洋酒の香りがして、口に運べばサクっとした歯ごたえとともに、何ともいえない芳香がじわりと広がる。そこに、味わい深いデミグラスソースが絶妙にからまり、どこか日本の洋食屋さんの味を思わせるような、懐かしさも感じさせる。

「ハウツリーラナイ」は、庶民的なロコモコを手間暇かけてアレンジしただけでなく、独自の感性で新しい料理に昇華させたことで好評を得ており、オープンエアでワイキキの海を見ながら食べるというロケーションもまた贅沢だ。

「うまい、安い、早い、お腹いっぱい」のB級グルメとして愛されてきたロコモコは、もともとは味わって食べるというよりも腹ごしらえをするためのメニューであった。そこに様々な工夫が加わり、今では付加価値の高いメニューも生まれ、多様なロコモコが楽しめる。ロコモコの伝統と新潮流には、奥深さとおもしろさが詰まっている。

ハウツリーラナイでエグゼキュティブ・シェフを務めるレネー氏。老舗レストランの味と質を守りつつ、新しい冒険も試みる
ハウツリーラナイ(Hau Tree Lanai)
The New Otani Kaimana Beach Hotel
2863 Kalakaua Ave.
Honolulu, HI
http://www.kaimana.com/hautreelanai.htm

取材・文/カーソン佳子
※※通貨レート 1ドル=約104.4円
価格等の情報は取材時のものです。予告なく変更される場合もありますのでご注意ください。