Vol.64
ジャンクフードのブッフェを提供することが多いイタリア・ミラノのハッピーアワーは、高級ホテルのバーが料理・空間・サービスともにハイクオリティなものを提供しはじめたことで、変化を見せている。その動きは高級ホテルのバーだけにとどまらず、「体によいものを、おつまみとして提供したい」と考える街中のバーにも広がっている。
後編では、高級ホテルの設備・サービスまでは至らずとも、ハイクオリティなおつまみをブッフェ形式で提供するバーを紹介。ミラノのハッピーアワーには、様々なスタイルが生まれている。
オーガニック素材を使った、ヘルシーなハッピーアワー
多くのイタリア人は、簡単な夕食としてハッピーアワーを利用している。イタリア人の10人中6人が、昨年1年間の間に1度はハッピーアワーを利用したと答えており(出典/イタリア経済新聞「il sole24」)、またその中の10%が1週間に1度、そして15%が1カ月に1~2度の割合で利用したと答えている。「独自の市場調査の結果、ハッピーアワーでもっと体によいものを食べたいと思っている人がかなりいることがわかったのです」と話すのは、ミラノのオフィス街に店を構える「ブラ・バー」(BLAH-BAR)のマーケティング・マネージャー、クラウディオ・モルダ氏。
同店の営業は通常17時までだが、月に2回だけミラノ・ワイン協会の協力のもと、ワインの試飲会としてハッピーアワーを企画し、毎回200人近い人で賑わう人気となっている。ここのハッピーアワーの売りは、既製品の食材は一切使用しないオーガニックな素材だけで構成した、ナチュラルメニューのブッフェだ。“体に優しく安心できる食べ物を、見た目も美しく提供する”を店のスローガンにしているため、野菜や果物、牛乳、卵、チーズといったすべての食品を、厳選したオーガニックの生産者から直接仕入れており、ハッピーアワーでもその特徴を存分に発揮。そのうえ、ワインも飲み放題という太っ腹で、料金は一人15ユーロ(約2,110円)だ。
「当店のランチタイムを利用されるお客様は30歳以上のエグゼグティブクラスの方が多いのですが、ハッピーアワーは20~30歳ぐらいの方が大半です」とクラウディオ氏。ハッピーアワーは19:30~22:30で開催され、スケジュールは「ブラ・バー」のFacebookページで発信する。特別な宣伝をしなくても、ほとんどの客は口コミでやって来るという。「ブッフェは、サンドイッチに使用するパンひとつ取っても、オーガニックな小麦を使用して焼いた特製パンです。もちろん、胃にもたれるようなフライ類は一切ありません」(クラウディオ氏)。ハッピーアワーの楽しいひとときといえども、そろそろジャンクフードのおつまみに疲れてきている人が多いのかもしれない。
ブラ・バー(BLAH-BAR)
Via Privata Fratelli Gabba 7b 20121 Milano
http://www.blah-bar.it/
https://www.facebook.com/BlahbarBlah?fref=ts
新しい大人の社交場は、ブッフェスタイルのハッピーアワー
イタリア経済新聞に掲載された2012年の市場調査によると、主に北ヨーロッパの国々では、ハッピーアワーを利用する人の大半は、アルコール飲料を飲むことが目的だと回答している。ところが、イタリアでは80%の人が、友達と過ごすためにハッピーアワーを利用すると回答している。この結果を見てもわかるようにイタリアのハッピーアワーは、友達とおしゃべりをしながら楽しく過ごすための時間といえる。
また、ハッピーアワーは友達だけでなく、知らない人と知り合う絶好の機会でもあるという。特に偶然の出会いを期待する人は、ボーイが各席でサービスするスタイルよりも、ブッフェスタイルで提供するハッピーアワーのほうを好んでいるようだ。「ブッフェスタイルだと、おつまみを取りに行くために自然と店内を行き来するし、料理を取っているときに、知らない人と話が弾むこともあるね」と、20代の男性客は話す。
ミラノのドゥオーモ(教会堂)から歩いてすぐの距離にある四つ星ホテル「スターホテル・ローザ・グランデ」(STARHOTELS ROSA GRAND)内にあるラウンジでは、まさにそんなブッフェスタイルのハッピーアワーが行われている。毎晩18:30~22:00の間、シェフによって料理されたハイクオリティな食べ放題のおつまみ付きで、1ドリンク15ユーロ(約2,110円)から提供する。客層は30~50代の落ち着いた雰囲気の人が多く、特に男性客の大半は仕事帰りと思われるスーツ姿の人が中心。ブッフェスタイルであるため、満席時にはグラスを片手に、立ったままハッピーアワーを楽しんでいる人がかなり多い。
「ここのハッピーアワーは、1ドリンク15ユーロという価格帯だからこそ、学生のような若い人が少なくていいんだ。ブッフェスタイルは、知らない人にも話しかけやすいからいいね。僕はハッピーアワーでは座るような店にはめったに行かないよ」と40代の男性客は語る。
高級ホテルのバーから始まったイタリアのハイクオリティなハッピーアワーは、カジュアルなバーにも広がりを見せている。今後もハイクオリティなおつまみを、新しいスタイルで提供する店が出てきそうだ。
スターホテル・ローザ・グランデ グランデ・ラウンジ&バー(STARHOTELS ROSA GRAND GRAND LOUNGE BAR)
Piazza Fontana 3 20122 Milano
http://rosagrand.starhotels.com/en/restaurant-bar.aspx
取材・文/山口けいと
※通貨レート 1ユーロ=約140.7円
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